音楽アーティストのシャンユーとつくった「はじめてのギョウザ」とは?
アートディレクターの古谷萌、コピーライターの鳥巣智行、菓子作家の土谷みお、建築家の能作淳平が、料理人とは異なる視点から新しい餃子づくりに取り組む「トゥギョウザー」。4人が毎回ゲストと会話しながら、これまでにない餃子をつくる。そんな活動です。
13回目のゲストは、音楽アーティストのシャンユー。18年9月に活動を開始し、同年10月に初音源「プーパッポンカリー」を発表。2019年5月のアルバム『はじめての○○図鑑』には、「餃子」という楽曲が収録されているシャンユーに、まずはデビューの経緯から聞いてみました。
シャンユー 洋服をつくる学校を出た後、アパレルで働いていました。学生時代からフリーランスで衣装をつくったり、スタイリストもしたりしてて。
古谷 その時からもう、歌の活動はやってたんですか?
シャンユー やっていませんでした。これまで、いろんなインタビューで「じっくり考えて始めた」みたいに話しているけど、割とノープラン。手ぶらで山の前まで来たみたいな、装備ゼロで始めちゃって。あれよあれよと言う間に1年くらい経ちました。
能作 歌を始めるきっかけは?
シャンユー 6年くらい前にデザインフェスタに出展したんです。あれって、基本的には雑貨を売る祭典ですよね? でも趣旨をあまり理解していなくて、不特定多数に作品を見てもらえる展示会だと勝手に思ってて。
鳥巣 展示会と言われることもあるような気もします。
シャンユー その頃、ホームセンターで売ってる資材で服をつくるのにハマってて、それを展示しました。それを見たいまのマネージャーが、「こいつは趣旨を何もわかっていなくてとんちんかんだ」と思ったみたいで、それで気に入ってもらえて、「音楽やらないか」と。それも、かなりとんちんかんな誘いだったと思います。その後、とんちんかん同士だったからかなかなか着地できなくて、その時が19歳くらいで、24歳まで寝かせましたね。デビューまでに5年間かかりました。一昨年、急にやる気になって。
鳥巣 けっこう寝かせましたね。やる気になった理由は?
シャンユー 年女だったからかな。星のまわりというか。タイミングだなと思って、新しいことをやってみようと、それで始めた感じです。
鳥巣 そういう感じ、わかります。トゥギョウザーメンバーは動物占い好きですし、僕は占い師に、「マザーテレサがついてる」って言われたことあります。だから、「自信もっていいよ」って。この話、関係ないですね。
鳥巣 「餃子」という曲の話を聞きたいです。シャンユーさんが餃子の服を着た映像を観たんですが、あれは?
シャンユー 餃子の歌を歌うんだったら、自分も餃子になってみようと思って。ライブの前日の夜とかに用意しました。「あ、やろ」って、思いつきで。
土谷 ひと晩でつくったんですね。どこの餃子が好きとかありますか?
シャンユー 実家の夕飯が、居酒屋のメニューみたいな料理が多くて、ちゃんとしていたのが餃子くらい。冷蔵庫の残りものを包んで。
鳥巣 残りものを包んで晩ごはんというのは、「餃子」の歌詞にも出てきますよね。
シャンユー 鳥の挽肉とか、カニカマが余っているから入れようとか、餃子ってなにを入れてもおいしいんですよ。だから、どこの店の餃子が好きというよりも、実家の料理としての馴染みがありますね。
古谷 2019年3月に出した「風呂に入らず寝ちまった」とか、シャンユーさんは、普通はあまり歌にしないようなことを歌っていますよね。
シャンユー 日々、ゴミ出しがあれだったなとか、いつもそんなことを思ってて。そういうことって、ツイッターにも書かないし、誰にも言わないですよね。普段気になった小さなことを、歌の題材にしがちです。
能作 日常の小さな気づきみたいなものですね。
シャンユー そうです、日常の気付き。いろんな所に潜んでいる、誰と共有できるかわからないような、小さな面白いことを見つけるのが好きですね。以前はそれを服で表現していましたが、いまは歌で表現しています。
土谷 私も日常の気づきを見つける作業が好きで、それを誰かと共有したいという気持ちがあってお菓子をつくってるところもあるから、その感じわかるし、共感できる感じがしてうれしいです。
古谷 今日は、シャンユーさんの「はじめての○○図鑑」にちなんで、「はじめてのギョウザ」をつくろうと思います。そう言えば、なんでそういうタイトルにしたんですか?
シャンユー 初のまとまった作品だったのと、もともと、生き物や図鑑が好きで。シャンユーという新種の生き物を解説する、図鑑みたいな作品になったらいいなということで、そういうタイトルにしました。
今回のトゥギョウザーのテーマは、「はじめてのギョウザ」。それでは、それぞれが用意してきたアイデアを発表します。
4人に加えて、ゲストのシャンユーも、新しいギョウザのアイデアを発表!
ここで、メンバーそれぞれが考えてきたアイデアを発表し、ゲストが最も気に入ったひとつを、みんなでつくって食べてみます。まずは、鳥巣のアイデアから。
鳥巣 はじめてをどう解釈するかをいろいろと考えたんですけど。すべての人が体験したことがないことって、なんだろうと考えて。そのはじめてのことを味わえるギョウザってことで「ギョウザdeath」。真っ黒いギョウザです。皮にイカスミや竹炭を混ぜて、餡も黒くして。食べる時に誰もが体験したことがない死を想う「メメント盛り」のギョウザです。
古谷 死ぬほどまずいってこと?
鳥巣 味のイメージは激辛とか。
能作 死ぬほど辛いんだ。
土谷 味がしないとか?
鳥巣 無味はやばいですね。
シャンユー 面白いです。
続いて、能作のアイデアを。
能作 鳥巣くんのアイデアの「死」と対比的で、「生」って感じの「歯固めギョウザ」です。
鳥巣 確かに。
能作 「はじめて」と聞いて、先日生まれたうちの息子の「お食い初め」がふと頭に浮かんで。はじめて食べる儀式だなぁと。お頭付きの鯛とかタコとか縁起物の食材に交じって、歯固め石があるじゃないですか。あれが興味深くて。あれだけ食べれないもので、仲間外れなんですよね。それで実際に食べられる歯固め石をつくれないかなと思って、はじめて食べる歯固めギョウザってことで、石みたいなグレーの餃子の皮に、鯛とかお赤飯とか、めでたい感じの食べものを餡にして包みます。
土谷 今日は絵に気合いが入ってる。
土谷も能作と同じく、着目したのは人がはじめて食べるもの。赤ちゃんが最初に食べる「10倍がゆ」をモチーフにしました。
土谷 私は能作さんと近い考え方で、「10倍ギョウザ」。離乳食のひとつに、米:水が1:10でつくった10倍がゆがあって、それが赤ちゃんが最初に食べるものらしくて。餃子の皮を細かく刻んで、皮:水を1:10でゆでます。見た目はおかゆ。
能作 ギョウザの皮が、お米にみたいに浮いているんですね。
土谷 それだけだときっとおいしくないので、肉やネギを入れて、
シャンユー おいしそう。お腹がすいてきました。
続いて、古谷のアイデアは?
古谷 「包まないけどギョウザ」。もし生まれてはじめてギョウザをつくろうとしたら、包むのも面倒だと感じそうだから、皮なしのギョウザ。100均とかで売ってる餃子の型に餡を入れて、ぎゅっとやってそれだけです。
土谷 ひだをつくるのが難しそう。
古谷 餡には、つなぎとして小麦粉を混ぜたりしたいと思います。
シャンユー お洒落。あ、なるほどーって思った。
今回は、ゲストのシャンユーも、事前に考えてきた新しいギョウザのアイデアを発表しました。
シャンユー 社会人になってひとり暮らしを始めて、ようやく料理し出しました。最初にがんばったのが一汁一菜。ご飯と味噌汁でした。私のアイデアは、ご飯と味噌汁をひとつにまとめたギョウザです。
土谷 はじめての料理がご飯と味噌汁っていいなあ。
シャンユー ご飯をつぶして皮をつくって、餡として味噌汁の具や刻みネギ、漬物や納豆とかも混ぜたらいいかな。餃子は完全食のイメージもあって、これだけでご飯も味噌汁も入った、全部まかなえるギョウザ。食べると中から味噌汁が出てくるのもいいですね。
鳥巣 ネコまんま的な? めっちゃいいじゃないですか。せっかくなので名前を付けましょう。
シャンユー 「これだけで済むギョウザ」にします。
その後、みんなでディスカッション。いろいろ話した結果、今回つくるのはシャンユーが考えた「これだけで済むギョウザ」に決まりました。
買ってきたのは、レンジで温めて食べるご飯と、インスタント味噌汁のみ。
みんなで話した結果、今回はご飯と味噌汁でギョウザを再現するシャンユーのアイデアに、餃子の型を使うという古谷のアイデアを組み合わせることに。電子レンジでできるご飯をつぶして皮をつくって、インスタント味噌汁の中身をのせたら、型にはめて包んで焼き上げます。
ゲストのシャンユーのアイデアに、型を使うアイデアを組み合わせたこれだけで済むギョウザ。皮のひだも再現できて、予想以上に完成度高く仕上がりました。それでは、さっそく食べてみます。
鳥巣 おいしい。これ味噌汁や。外側がパリパリ香ばしい感じで中がやわらかい。
能作 ご飯と味噌汁という想像できそうな味だったけど、新しいおいしさ。懐かしい感じもあって、朝ごはんにいいですね。
古谷 断面も餃子みたいだし、ひだの部分がカリカリになって、餃子のいい部分を継承できていますね。5個くらい食べられそうです。
土谷 知ってたけど、知らなかった味だなって思った。味噌汁の物足りなさは油分だと思ってて、油でこんがり焼くことでそこが補われた感じがします。白米プラス味噌汁のアップグレード版。
鳥巣 ご飯でも味噌汁でもないけど、どれでもあるような。
シャンユー 食材がすごいシンプルだったし、味が想像できちゃうなと思っていたけど、はじめてっぽい味でした。食べ物として成立させたいと思っていたので、合理的な料理になってよかったです。
最後に、今日のギョウザづくりをみんなで振り返りました。
能作 「はじめてのギョウザ」というお題は難しかったけど、解釈が自由なのがよかったですね。最終的に、日本人が普通に食べているご飯と味噌汁というのも面白かったです。
古谷 レトルトの米とインスタント味噌汁も、あなどれないですね。予想通りの味になるかと思ったら、やってみないとわからないものだとちょっと反省しました。
能作 ビジュアルも面白くなりました。ご飯と味噌汁に、餃子の型というアイデアがいい融合でした。
土谷 「はじめて」というテーマで、どうしても命や人間における、大きなスケールでのはじめてを考えてしまったけど、シャンユーさんの「はじめてつくるご飯」みたいな、日常的で個人的な視点のアイデアが素晴らしかった。
鳥巣 新しいことを考えようとしすぎるあまりに、奇をてらい過ぎてしまうことがあります。シャンユーさんのアイデアは多くの人が共感できるもので、そこがいいなと思いました。
土谷 楽しかったし、明らかにはじめてつくる感じ。いいギョウザができました。
鳥巣 アイデアは素朴だけど、組み合わせでこんなにも新しくなるのが発見でしたね。
シャンユー 日常の大したことのないものにちょっとしたエッセンスを加えて新しい価値をつくるのが、私のものづくりのスタンスです。ご飯と味噌汁でつくる「はじめてのギョウザ」は、それに通じるところがあって、歌詞を書くのと同じ感覚でつくることができました。ご飯と味噌汁というありふれたものでも、アイデアが加わることで、こんなに面白くなるんだという新鮮さもあった。いい勉強になって、いいチームで楽しかったです。ありがとうございました。