いま注目の国・ジョージアから届いた、男たちの青春映画『ダンサー そして私たちは踊った』
ジョージア(グルジア)出身の監督といえばすぐに思い浮かぶのが、つくりたい映画を撮るべく故郷を飛び出してパリへと向かい、『月曜日に乾杯!』などの名作を撮ったオタール・イオセリアーニ監督でしょうか。近年は日本でジョージア映画祭が開催されたり、世界最古のワイン醸造にスポットを当てたドキュメンタリー『ジョージア・ワインが生まれたところ』が公開されるなど、注目が集まっています(「松屋」のシュクメルリ鍋定食もジョージア料理なんです!)。『ダンサー そして私たちは踊った』は、ジョージアの国立舞踊団で幼い頃から伝統的なダンスの稽古を重ねてきた若きダンサーの揺れ動く心を繊細に描き出した作品です。
ダンスパートナーのマリとともにハードな練習をして、夜はレストランでアルバイトをして家計を支える生活を送っているメラブ。ある日、舞踊団にイラクリという青年が入り、メインとなる団員のオーディションが行われます。ダンサーとしてのライバル心を抱きながらも、野性味あふれるイラクリにどうしようもなく惹かれていくメラブ。お互いの思いを抑えられず体を重ねたふたりに、保守的な社会の厳しい目が向けられることになります。
ジョージア舞踊の男性の動きはとてもアクロバティックで、観る者を一瞬で夢中にさせるような勇ましさがあります。「ナヨナヨするな」という指導が入るように、男は男らしく、女は女らしくあることが求められる踊りはそれゆえに見応えがありますが、その精神がメラブを追い詰めていくのです。監督にインスタグラムでスカウトされたというメラブ役のレヴァン・ゲルバヒアニは、現役で活躍するコンテンポラリーダンサー。葛藤も喜びもすぐに表情に出てしまうような不安定さが、戸惑いながらもアイデンティティに目覚めていく青年の心の内側を伝えています。
今回、同性愛がテーマの本作の上映に対し、ジョージア正教会が「キリスト教とジョージアの価値を貶める」という声明を出したといいます。家族とのやりとりや切磋琢磨してきた仲間たちとの時間も描き出し、きらめきとほろ苦さが同居する青春映画。すべての殻を突き破って、ほかの誰でもない“自分”として生まれ直すかのようなラストの踊りも胸に迫ります。
『ダンサー そして私たちは踊った』
監督/レヴァン・アキン
出演/レヴァン・ゲルバヒアニ、バチ・ヴァリシュヴィリ、アナ・ジャヴァヒシュヴィリほか
2019年 スウェーデン、ジョージア、フランス合作映画 1時間53分
2月21日よりシネマート新宿ほかにて公開。
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