貧富格差をエンタメに昇華した、ポン・ジュノ監督の大傑作。

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    『パラサイト 半地下の家族』

    ポン・ジュノ

    貧富格差をエンタメに昇華した、ポン・ジュノ監督の大傑作。

    樋口毅宏 小説家

    主人公を演じるのは、『殺人の追憶』以来、ポン・ジュノ監督作品の常連俳優となっているソン・ガンホ。撮影を『哭声/コクソン』のホン・ギョンピョ、美術を『オクジャ/okja』のイ・ハジュンが手がけるなど、韓国映画界の才能が集った。  ©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

    世界の最前線に立つ映画監督が同じテーマで作品を発表するという、驚くべきシンクロニシティが起こっている。是枝裕和監督の『万引き家族』、新進気鋭のジョーダン・ピール監督作『アス』、日本でも大ヒットした『ジョーカー』、そして韓国映画として初めてカンヌ映画祭パルムドームに輝いた『パラサイト半地下の家族』。これらに共通するテーマは「貧富格差」だ。
    そう聞くと大抵の人はとっつきにくい社会派作品だと思うかもしれないがまったく違う。監督のポン・ジュノは敬遠されがちなテーマを、間口は広く敷居は低く、されどその奥はどこまでも深いエンタメ大作に昇華させた。
    ストーリーはこうだ。キム一家は4人全員失業中で半地下住宅に暮らしている。しかし浪人中の長男ギウがIT企業社長の娘の家庭教師の職にありついたのを皮切りに、妹を美術の家庭教師として送り込み、しだいに大豪邸に寄生(パラサイト)していく……。
    とにかく面白いとしか言いようがない。ぞっとするユーモア、先が読めないサスペンス、名セリフ、はっとするようなスペクタクル、そして涙。つまり名作の要素がすべて詰まっている。
    思えばポン・ジュノ監督はずっとそういう作品を世に送り出してきた。長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』の韓国人が触れてほしくないブラックジョーク。出世作『殺人の追憶』の息詰まるサスペンス。日本オタクぶりを発揮した怪獣アクション『グエムル漢江の怪物』。『母なる証明』の切ない家族愛。『パラサイト半地下の家族』はポン・ジュノ監督の集大成にして映画史に名を刻む、2010年代を代表する大傑作になった。
    資本主義社会の行き着く先にある階級闘争とはなにか。スクリーンにひとつの答えが映し出される。本作は他人事ではない。主人公のキム一家とは私たちのことだ。

    『パラサイト半地下の家族』
    監督/ポン・ジュノ 
    出演/ソン・ガンホ、イ・ソンギュンほか
    2019年 韓国映画 2時間12分 2020年1月10日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開。
    http://www.parasite-mv.jp/