フィンランドの巨匠の良心を感じる、研ぎ澄まされた造形。

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    『日本・フィンランド国交樹立100年記念 没後30年 カイ・フランク』

    神奈川県立近代美術館 葉山

    フィンランドの巨匠の良心を感じる、研ぎ澄まされた造形。

    川上典李子エディター/ジャーナリスト

    『リング・プレート』 1960年代 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所 タウノ&リーサ・タルナ・コレクション Photo by ©Rauno Träskelin

    『クレムリン・ベルKF500/1500』 1957~68(1957)年 ヌータヤルヴィ・ガラス製作所 タウノ&リーサ・タルナ・コレクション。1957年のミラノトリエンナーレ出品作でグランプリに輝いた。コルク付きの球状部、原酒を入れる中央部、酒を割る水用カラフェからなる。機能美あふれるフランクの最高傑作。 Photo by ©Rauno Träskelin

    左から順に『2744-12 cl』『2746』『2718 ja』『27449 cl』ヌータヤルヴィ・ガラス製作所 タウノ&リーサ・タルナ・コレクション。マウスブロー制作「2744」はカイ・フランク没後4年後の1993年に発表された「カルティオ」の源流といえる。 Photo by ©Rauno Träskelin

    1911年、フィンランド生まれのカイ・フランクの名は、それまでの日用品の概念を覆したデザイナーとして歴史に刻まれている。当時一般的だったテーブルウェアの装飾をそぎ落とし、コンパクトで用途を限らず使えるものとした。アラビアでのアート・ディレクションやイッタラでのデザインでも知られている。食器「キルタ」シリーズはのちに進化版が「ティーマ」となり、いまも製造中。グラス「カルティオ」などの名作も生んだ。「安定性、持ちやすさ、収納や輸送時の状況など、さまざまな必然性からデザインは発展していく」と考えていた。
    フランク作品を収蔵するフィンランド・ガラス博物館と、彼の教え子でもあったタウノ・タルナのコレクションから厳選した約300点を紹介する展示が開催中。同館で昨年開催された展覧会をもとにした、日本の美術館では初の回顧展で、円柱、円錐、楕円といった幾何学的造形を軸に、作品にゆっくり向き合えるよう構成されている。
    本人の眼差しがうかがえる約40点の写真作品にも注目を。受賞したルニング賞の賞金で56年に来日した際に彼がカメラを向けたのは、茅ぶき屋根の農家や野良着姿の女性、紙すきなどの古来の風景だった。民藝運動にも関心があった彼が晩年、フィンランド国内の各地を訪ね歩いて伝統と道具を調査していたことも興味深い。
    アートガラスで類のない芸術性を示すと同時に、日々のデザインにも向かったカイ・フランク。人間そのものや生活に目を向け、さまざまな視点で考察した上でのデザインにエゴは希薄だ。微妙な角度、曲線のディテールに対する真摯な取り組みを抜きにして実現し得ない造形だが、どこかゆるやかで温かい。研ぎ澄まされた造形と滲み出る人間性。「フィンランド・デザインの良心」と称される巨匠の世界に触れてみたい。

    『日本・フィンランド国交樹立100年記念 没後30年 カイ・フランク』
    開催中~12/25
    神奈川県立近代美術館 葉山
    TEL:046-875-2800
    開館時間:9時30分~17時 ※入館は閉館の30分前まで 
    休館日:月(10/14、11/4は開館) 
    料金:一般¥1,200(税込)
    www.moma.pref.kanagawa.jp/hayama