とんでもない「嘘」に圧倒される、 爆発的ヒットの中国SF小説『三体』の魅力に迫る。

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    『三体』

    劉 慈欣 著

    とんでもない「嘘」に圧倒される、 爆発的ヒットの中国SF小説『三体』の魅力に迫る。

    小川 哲SF作家

    「中国にとんでもないSF小説がある」という話は、随分前から耳にしていた。「三体問題」(3つ以上の天体が万有引力によって相互に干渉し合うと、運動の予測が難しくなる現象)を扱った本格SFでありながら、三部作で累計2000万部以上売れているという話だった。中国系アメリカ人作家のケン・リュウが翻訳した英語版も大ヒットしたという。そして今年7月、第一作の日本語訳が出るとすぐに重版がかかり、海外SFとしては異例である10万部超えのヒットとなっている。

    物語は文化大革命の時代から始まる。物理学者の葉哲泰は「反動的学説」である相対性理論や量子力学を否定しなかったとして、紅衛兵たちに処刑される。彼の娘である葉文潔は重い刑の免除と引き換えに、紅岸基地で最高機密の研究プロジェクトに携わることになる。

    舞台はそれから40数年後に移る。ナノマテリアル開発者の汪淼は「科学フロンティア」という団体に関係する科学者が相次いで自殺している件について、軍から取り調べを受ける。それ以来、汪淼は不可解な現象に遭遇するようになる。その現象の鍵として起動した「三体」というVRゲームを通じて、汪淼は真相に近づいていく。

    極秘プロジェクト、地球外生命体、秘密結社。本作は本格的なSF作品でありながら、優れたサスペンス小説でもある。目まぐるしく明かされる真相と新たな謎、途轍もないスケールに広がっていく、とある勢力との交信の行く先が気になって、一度読み始めたら一気読み必至だ。作中には難解な科学的説明も現れるが、物語の枠組みをつくっている大きな「嘘」さえ理解することができれば、読み進める上で問題にはならないはず。

    中国の新たなベストセラーを読んで、とんでもない規模の「嘘」に触れてみてほしい。

    『三体』
    劉 慈欣 著
    立原透耶 監修
    大森 望/光吉さくら/ワン・チャイ 訳
    早川書房
    ¥2,052(税込)