Vol.25 バルセロナチェア

  • 文:佐藤早苗
  • 編集:山田泰巨
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Vol.25
Vol.25 バルセロナチェア
バルセロナチェア

ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

20世紀を代表する名作チェアのひとつ、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェア。モダンデザインのアイコンともいえるこのチェアは、もともと1929年にバルセロナ万博のドイツパビリオンで、当時のスペイン国王アルフォンソ13世夫妻を迎えるために生まれました。

クロスした脚部と一体になったフレームが特徴。背もたれと座面は、それぞれ20枚のカーフレザーとくるみボタンを手縫いでつなぎ合わせています。サイズはW750×D770×H770×SH430mm

フランク・ロイド・ライト、ル・コルビュジェとともに、近代建築三大巨匠と言われるミース・ファン・デル・ローエ。彼は「less is more(より少ないことは、より豊かである)」「God is in the detail(神は細部に宿る)」という名言を残したことでも知られています。バルセロナチェアのシンプルでエレガントな佇まいは、まさにそれらの言葉を体現する存在です。

このチェアが誕生したのは1929年。ミースが設計し、モダニズム建築の傑作として有名なバルセロナ万博のドイツ館、バルセロナパビリオンのためにデザインしたものでした。クロスしたメタルが脚部から背もたれへと延びる形状は、当時の椅子としてはかなり斬新でセンセーショナルなものだったといいます。その後、ドイツからアメリカへ亡命したミースはアーマー大学(現在のイリノイ工科大学)で教鞭を執り、生徒であったフローレンス・ノルを通じてノル社にバルセロナチェアの製造を依頼します。そこでノル社はミースのこだわりであったX字のフレーム加工にステンレススチールを使い、他社がこれまで実現できなかった高いクオリティをかなえます。このことがきっかけで、ノル社はミースからすべての家具のライセンスを取得することになりました。

こうして誕生した20世紀を代表するマスターピースは多くのデザイナーたちに影響を与え、のちにポール・ケアホルムの「PK22」や、コンスタンチン・グルチッチの「BENCH_B」などが生まれるきっかけともなっています。

流れるような美しい曲線で脚部とつながるフレームは、鏡面仕上げのクロームスチール。溶接した後に研磨することで、まるで彫刻のような美しいフォルムに。背面8本、座面9本のレザーストラップがクッションをサポート。ミースを唸らせたノルのクラフトマンシップが見てとれます。

チェアと組み合わせればオットマンとしても使える、バルセロナスツール。サイズはW590×D595×H390mm