Vol.17 Up

  • 文:佐藤早苗
  • 編集:山田泰巨
Share:
Vol.17
Vol.17 Up
Up

ガエターノ・ペッシェ

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

一度見たら忘れられないユニークな家具。それが、1969年にガエターノ・ペッシェがデザインしたアームチェア「Up」です。その登場は世界のデザイン界に衝撃を与えるセンセーショナルなものでした。一度は生産が途絶えますが、2000年にB&B Italiaが復刻。今年のミラノサローネでは発表から50周年を記念し、ドゥオモ前の広場に高さ8メートルの「Up」が登場し注目を集めました。

7種類あるシリーズのなかでもっとも有名な型が写真の「Up 5_6」。アームチェアにボール状のオットマンが繋がったデザインは社会的に抑圧されている女性たちのメタファーだといいます。サイズはW1200×D1300×H1030×SH420mm(アームチェア)+Φ570mm(オットマン)

このユニークな家具を発売したのは当時、B&B Italiaの創業者であるピエロ・アンブロージョ・ブスネリがカッシーナとともに設立したC&B Italia社です。もともとは同社が得意とする発泡モールドウレタンの技術を使い、真空状態に圧縮された状態でピザボックスのようなフラットな箱に収めて販売されたといいます。開封して空気に触れると伸縮性ある張り地ごと発泡ウレタンが膨らんで家具になる……。そんな変容する家具がペッシェのコンセプトだったのです。すべてが画期的な家具は若きペッシェの名を世界的に有名にします。なお復刻された現在の「Up」はあらかじめ成形されています。

ソファやプフなど全7モデルからなる「Up」ですが、もっともアイコニックなモデルはマンマの愛称で親しまれるアームチェア「Up 5_6」です。女性をイメージしてデザインしたという柔らかな曲線のアームチェアは、適度な弾力あるウレタンフォームで身体を優しく包み込みます。そして足元にはコードで繋がれたボール状のオットマン。ポップな印象とは裏腹に、このチェアは女性の権利を象徴する存在でもあります。

「私は常に女性たちが抑圧されているように感じ、その思いから鉄球を鎖で繋がれた囚人のように女性のフォルムのアームチェアにボールを繋げたデザインにしています。このアームチェアで表現したかったのは先端技術や新素材、商品の利便性ではなく、このメッセージです」とペッシェは語っています。デザインから50年、果たして状況は改善されているでしょうか。昨今、世界で表面化する問題にいち早く迫った名作でもあるのです。

2000年の復刻時には「Up 5_6」より小ぶりなキッズサイズの「Up Junior」も登場。サイズはW710×D810×H660×SH255mm+Φ385mm

シンプルな一人掛けのプフ。「Up 1」サイズはW1000×D1000×H670mm