Vol.10 セブンチェア

  • 文:竹内優介(Laboratoryy)
  • 編集:山田泰巨
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Vol.10
Vol.10 セブンチェア
セブンチェア

アルネ・ヤコブセン

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

完璧主義者だったと言われるデンマークの建築家、アルネ・ヤコブセン。彼は建築にとどまらず、内装、家具や照明、調度品に至るまで一貫してデザインを手がけたことで知られます。自身が設計した空間に他のコンセプトが混在することを避けたかったのでしょう。その多くは後に製品化され、没後半世紀近く経ったいまでも世界中で愛用されています。なかでも最も有名な椅子が1955年にデザインされたセブンチェアです。

7枚の薄板と2枚の仕上げ板からなる積層合板を圧着して成型したシェル構造の椅子。木とは思えない背もたれのしなりと身体を包み込むカーブが心地よく、快適な座り心地を実現しています。軽量なので使わない時は簡単に積み重ねられ、最大12脚までのスタッキングが可能です。サイズはW500×D520×H820×SH460mm

デンマークのみならず北欧のモダニズムを牽引したヤコブセンの家具は、同時代の北欧家具に比べて洗練されたミニマルな印象を受けます。素材を探求し、合理性と機能を追求する。その背景には、ヤコブセンの学生時代に一世を風靡していたル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエからの影響が見て取れます。ビクトリア様式の家具に囲まれて育ったヤコブセンは自室のデコラティブな壁紙を真っ白に塗り替えてしまったというエピソードもあり、シンプルな美に対する意識が幼少の頃から芽生えていたことがうかがえます。

そんな彼の機能主義と美意識を昇華させたセブンチェアは、成型合板による背と座が一体となった三次曲面のシェルが魅力的です。緩やかな曲線を描く美しいフォルムとしなやかな座り心地は後進の家具にも大きな影響を与えました。プレーンなデザインは空間を選ばず、日本でもカフェや公共施設などさまざまな場所で見かけることができます。現在は豊富なカラーバリエーションに加え、アームレストやキャスター付きのモデルなどの選択肢も幅広く、自宅においてもダイニングからデスクワークまでさまざまなシーンに合わせることができます。その懐の深さが世界で愛される人気の秘訣なのでしょう。

2015年、セブンチェアの販売台数が700万台を超えたことを記念してリリースされたセブンチェア モノクローム。デンマーク人アーティスト、タル・アールが、シート、レッグ、レッグキャップのすべてを同色で仕上げたコレクションです。クローム脚と比べて主張しすぎないワントーンカラーは時代を超え、新たな定番となりました。

本革のソフトレザーで全体を覆うフルパディングのモデルは気品漂う仕様が魅力的。身体へのあたりもさらにソフトです。