『三つ編み』
レティシア・コロンバニ 著
フランスで100万部の大ヒット、その理由を編み方の妙に見た。
斎藤真理子翻訳家髪の毛の物語だ。といっても、「髪は女の命」というようなお話ではない。3つの大陸に生きる3人の女性の物語、それも、大きな困難に直面した時に彼女たちがどうしたか?という物語だ。まったく違う社会、違う仕事、違う人生。だが、後半でそれらが三つ編みのように縒り合わされていくところが大きな見せ場だ。
著者のレティシア・コロンバニは映画監督で、監督作品にオドレイ・トトゥ主演の『愛してる、愛してない…』がある。なるほど、ちょっと仕掛けのあるオムニバス風の映画みたい、という表現がこの小説の枠組みを説明するのにちょうどいい。オムニバス風というのは、一話一話が独立しているわけではなく、絡み合う所が特徴だからだ。インドで最下層身分とされる不可触民に生まれたスミタ、シチリアで伝統的な工芸品(これが髪の毛に関係している)の工場を経営するジュリア、カナダの有能な弁護士サラ。3人の物語が入れ替わり立ち代わり進展し、三人三様の決意で道が切り開かれていく。本書はコロンバニの初の小説だが、フランスで100万部を突破、32カ国に版権が行きわたったというからすごい。
三つ編みが上手な人というのが、いる。単純な編み方なのだが、手加減が大事なのだ。後れ毛を出したくなくてキチキチに編むと、頭頂部の形が歪んだりするし、ゆるすぎればすぐにほどけてだらしない。コロンバニは、流れに沿って上手に髪を編み上げる素直な手の持ち主なのだろう。現実はときに過酷で、3人の女性の苦しみは重いが、その描写は自然で読みやすく、適度に風の入るゆるみがある。そこに、3人を助けるさまざまな人々の横顔が重なる。固い意志と、それを支えるやわらかな人の手。これがミリオンセラーの秘密なのだろう。報道だけではわからない、世界の多様な現実を知ることもできる小説だ。
『三つ編み』
レティシア・コロンバニ 著 齋藤可津子 訳
早川書房
¥1,728(税込)