映画を鑑賞し、映画を撮るための細長~いスマホ

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    映画を鑑賞し、映画を撮るための細長~いスマホ

    21:9のアスペクト比を実現するために、外観もユニークな細長い形状に。本体価格¥112,320(税込)

    スマホは携帯電話を原点とし、データ通信を加え、大きな画面でタッチコントロールする情報機器。しかし、そんなスマホの常識にとらわれていたら、ソニーの新フラッグシップスマホ「Xperia 1」を理解することは到底できない。Xperia 1は「映画鑑賞・制作スマホ」だ。映画制作者の意図を深く理解した映画映像を映すモバイルディスプレイであり、映画的画調でデジタル・シネマを撮影できるシネカメラだ。そんな映像に特化したスマホなど、ソニー以外は絶対に発想しないだろう。
    まず6.5インチディスプレイのアスペクト比(横縦比)21:9が、実に映画的だ。ハイビジョンテレビの16:9は映画の比率から発想された横長画面だが、実際は映画のほとんどが21:9のシネスコサイズだ。映画をオマージュしたXperia 1は当然、21:9を採用。実は私はかつて21:9の映画再生テレビを、各テレビメーカーに薦めたことがあった。日本のテレビメーカーはどこも手を挙げなかった。それが、スマホで実現されたとは。その副産物として可能になった、ふたつのアプリを上下に同時表示する「マルチウィンドウ」の機能も便利そうだ。
    ところで、21:9とは形だ。その形に生命を注入するのは、ディスプレイの画質設計。ここで、ソニー厚木事業所で培われた映像技術が投入された。映像制作の世界では、厚木事業所が開発した30インチ・有機EL、BVMーX300が、グレーディング(色づくり)モニターとして絶大な信頼を得ている。Xperia 1には、その技術を注ぎ込んだ有機ELパネルを搭載。本機の21:9ディスプレイの「クリエイターモード」で観る映画は、実に映画らしい雰囲気だ。X300と比べても、にわかには違いがわからない。
    スマホの映像というと、ただ明るく、ハイコントラストというものがほとんどだが、これは実に落ち着いたトーン。穏当で目に優しい。特に色温度が低いことが、映画的な雰囲気を濃密に醸し出している。かつてのフィルムを彷彿させるシネマ画調で鑑賞できるのだ。スマホの小さな画面だが、21:9は想像以上に「映画を観る愉しみ」を与えてくれる。
    映画的な文脈では、動画撮影にも厚木のテクニックが活かされている。それが「Cinema Pro」という動画撮影アプリ。厚木の技術者が開発に協力し、24コマの4K・HDRのデジタル・シネマカメラで、しっとりとした映画的画調になる。
    Xperiaは、これまでもソニーのカメラ「α」とテレビ部門の技術を使うなどして他と差別化をしていた。それが今回は、世界に冠たるプロ映像のメッカ、厚木の技術まで動員。ソニーの最強部門を結集させたXperia 1は、「映画スマホ」として新たな境地を拓いた。

    過去のXperiaの人気色であるパープルの他、ブラック、グレー、ホワイトの計4色がラインアップする。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載