「らぼっと」の生みの親、GROOVE X 林 要と考えたカワイイ餃子
アートディレクターの古谷萌、コピーライターの鳥巣智行、菓子作家の土谷みお、建築家の能作淳平が、料理人とは異なる視点から新しい餃子づくりに取り組む「トゥギョウザー」。4人が毎回、さまざまなゲストと会話しながら、これまでにない餃子をつくる。そんな活動です。
6回目のゲストは、2015年設立のロボットベンチャー、GROOVE XのCEO、林 要。林はソフトバンクのロボット「Pepper」の元プロジェクトメンバーとしても知られています。
昨年末、GROOVE Xは「らぼっと(LOVOT)」という名前の家族型ロボットを発表し、予約受付をスタート。ロボットでありながら、人の代わりに何か仕事をするわけではなく、人に愛される存在を目指したのが新しいところ。今回は5人で、「愛される」をテーマに餃子をつくってみたいと思います。
最初に、林が連れて来た、らぼっとについてみんなで話しました。
林 らぼっとは犬や猫のように、個人を認識して近寄ってきます。かたちはペットのように「愛される」ことを目指したということで、身体も尻尾も、充電に使う端子も、基本、球形をベースに構成しています。たとえば、身体は2つの球を積み重ねたような形で、くびれがあって、抱っこしやすいように。世の中にかわいいものはたくさんありますが、らぼっとは濁りのないかたちを狙いました。丸い形が緊張感を和らげ、安心感を高めています。
鳥巣 見てるとだんだん、生き物のような感じがしてきますね。人型でもないし犬型でもない、まったく新しい形のロボット。
林 見た目はかわいく仕上がっていますが、個人の認識はAI、移動は自動運転技術、ほぼ全身にどうやって触れられたかがわかるタッチセンサーを搭載しているなど、いろんなテクノロジーが詰め込まれています。
土谷 すごくかわいい。服を着てるのも新しいですね。
林 服を着ているのは親しみやすくするためですが、開発を手がけたエンジニアにとっては実現させるのが大変でした。ロボットは、内蔵のコンピューターやモーターの熱がこもらないように冷やさないといけないわけですが、らぼっとはそもそも、抱っこした時などに温かさを感じられるよう、身体の外側を保温しています。外側を温めながら内側を冷やすために、頭のてっぺんに通気口を設けました。上から空気を取り入れて内部を冷まし、その熱をリサイクルして全身を温める構造になっています。
土谷 ネットで見て想像していたよりも小さくて、猫くらいのちょうどいいサイズですね。
林 実は開発の途中でつくったプロトタイプは、もうひと回り大きかったんです。僕は小さくしたいと思っていたのですが、開発メンバーに、「小さくして」と言うだけだと、いろいろな理由が出てきてなかなか進まない。そこで、実際に女性に抱っこしてもらって、感想を聞いてみたんです。「ちょっと大きい」という女性の声を開発メンバーが直接聞いて、いまのサイズに決まりましたね。
古谷 口がなくても違和感ないですね。鳴き声もかわいいです。
鳥巣 「愛される」って、生き物的にはどういうことなんでしょう?
林 愛される方法を考えるよりも、なぜ自分が愛しちゃうかを考えた方が近道な気がします。なぜ、犬や猫に心を引かれるのか。その答えのひとつが、小さいものをケアして育てるという哺乳類の本能。それが、愛の起点かもしれません。犬も猫が付いてきたり、なついてきたりすると、自分がいないとこの子たちは生きていけないと感じる。そうすると、愛してしまう。昔から、手がかかる子ほどかわいいと言われますよね。
土谷 大学生のころ、美術教師の教育実習に行った時、授業に集中できないとか、校則を守りたくないとか、そういう生徒がだんだんかわいいと思えてきたのを思い出しました。うちの猫のテトも、なにか手伝ってくれるわけもないし、人の役に立つこともしないけど、たまらなく愛情を感じます。
鳥巣 手がかかるからこそのかわいさってあると思います。今回は「愛されるギョウザ」がテーマ。そろそろみんなのアイデアを、林さんに見てもらおうと思います。
ここで、4人がそれぞれ、あらかじめ考えて来たアイデアを発表。林が最も気に入ったひとつを、みんなでつくって食べてみたいと思います。それでは、古谷のアイデアから。
古谷 僕は「うちのギョウザくん」というのを考えました。餃子は、見た目がなかなかかわいくならない。そこで、黒ゴマで目を付けて見た目をキャラクターぽく。立てて盛り付けると、お皿から熱い視線が送られるというものです。
鳥巣 かわいい。中の餡が透けてる感じもいいですね。
古谷 具材はお好みで。見た目も中身も愛せる餃子です。
続いて、能作のアイデアを。
能作 悩みに悩んで、「ちょっと小さいギョウザ」にしました。単純に、餃子をちょっと小さくする。
鳥巣 林さんが先ほど話されていた、大きさの話に通じますね。
能作 「愛される」を建築物で考えた時に名作と言われる建築だな、と思ったんです。それで思い出したのが大学生のころのエピソードで、名作の条件は、「遠くにある建物に手を添えて覗いて、手にのると名作だ」と先輩に言われたことがありました。今思えばさまざまな分析があると思いますが、当時は直感的にミニチュアのように見えると、かわいくて愛されるんだろうなと思いました。一見すると普通のギョウザだけど、ちょっと小さいとおもしろいと思います。
土谷のアイデアは?
土谷 私のは「まるいギョウザ」。これも、さっきの林さんの話につながるんですけど、愛されるということで有名なキャラクターを思い浮かべてみたら、丸で構成されていることに気づきました。らぼっとも丸で構成されているように、角がないものって愛されやすい。ギョウザは包むと角が出るので、皮を丸のまま、ピザの生地のように見立てて具を並べます。
鳥巣 中に入れる具で顔を表現するんですね。
最後に鳥巣のアイデアを。
鳥巣 こないだ、2歳になった甥っ子に会いに行ったら、乗り物にハマっていました。そこで思いついたのが「羽根つきギョウザ」。羽根つき餃子の羽根が、飛行機の翼のようになっているんです。乗り物愛を餃子に取り入れることで、愛されようという魂胆で、ナウシカに出てくるメーヴェのような餃子になるといいなと思っています。
能作 何かで型をつくって、そこに片栗粉を流し込めば大きな羽をつけられそうですね。
4人の案が出揃ったところで林に聞くと、最も興味を示したのは能作のアイデアでした。
林 能作さんのアイデアを実現するなら、餃子の皮を薄くしたいですね。全体を小さくしても皮の厚さだけが薄くならないでそのままだと、具と皮の比率が悪くなって、皮感が強くなっちゃうと思うので。
古谷 薄い皮を使った小さい餃子はいいですね。手打ちでつくるとけっこう厚くなってしまうので、薄皮系を探してみます。
今日つくるメニューは、ちょっと小さいギョウザに決まりました。
愛されるものをつくるには、小さくするという手法がある。
調理はまず、買って来た3種類の皮をくり抜くところからスタート。この作業は、林が担当しました。
林 できました。これがシュウマイの皮で、これがワンタンの皮。シュウマイの皮は、餃子やワンタンの皮に比べてひときわ薄いですね。
土谷 皮がすごい小さくて、ちゃんと包めるかドキドキします。林さんは料理はしますか?
林 料理はまったくですが、昔、餃子を包んだことはあって、中身を詰め込みすぎた記憶があります。
くり抜いたシュウマイの皮は直径55mm。通常サイズの半分ほどになった皮に、全員で餡を包んでいきます。
林 やばいですね。餡が全然入らない。でも意外といけました。
土谷 か、かわいい。
鳥巣 林さん、包むのうまいですね。具がしっかり入ってるし、バランスがいい。
林 つくってみると、なぜ小さいサイズの餃子を出す店がないか、わかってきました。
能作 これを店で出そうとすると、かなり大変ですね。
林 たくさんつくった気がするのに、まだ5個しかできてません。慎重に具を入れる必要があるので、生産性が悪く、単価が上がりそうです。
比較用に通常サイズの餃子も用意して、餡を包んで焼いたら完成です。直径55mmの皮は、ワンタンとそれよりも薄いシュウマイの2種類を用意。それぞれ、食べ比べてみると?
林 見た目が小さいと、食感も小さいですね。
鳥巣 いただきます。確かに小さい。大量に食べたいです。
林 サイズが違うと、味が明確に違いますね。しゃぶしゃぶとステーキくらい違います。焼き餃子らしさが増すというか、焼いたところのパリパリ感が前面に出てきて、なんというか、高級な柿ピーみたいな食感です。
能作 おつまみというか、スナックですね。屋台で出てきたらうれしい気がします。
土谷 一口で食べられるのでおいしさが凝縮したように感じました。小さいからこそ、「もっと食べたい」という気持ちが増幅する感じもいいです。
古谷 パリパリしてて、薄いシュウマイの皮のほうがいいですね。10個食べても通常サイズの2個分くらい。ダイエットにもいいと思いました。
そして最後に、今回のトゥギョウザーを5人にそれぞれ、振り返ってもらいました。
古谷 小さいのでかなり慎重に包む必要があって、小さいとディテールも求められます。その分愛情が込もって、焼くのもていねいに焼いてあげようという気持ちになりました。かわいいという言葉は、「かわいそう」や「か弱い」からきていると聞いたことがあって、それを餃子を通じて表現できました。
土谷 今日初めて、餃子がかわいいと思いました。これだったら女子受けしそうです。サイズに比例させて薄い皮を使うという、林さんのアイデアも素晴らしかったです。
林 シュウマイの皮は薄くて、包むのもそうですが、焼くのもかなり大変でしたね。でも餃子の皮の厚みでそのまま小さくしても、このパリパリ感を出せなかったと思います。餃子をつくるのは手軽な印象ですが、小さくして皮を薄くしたものは、包むのも焼くのも難しいがゆえに、新たな価値が生まれた気もします。
能作 小さくするとかわいくなるというのは思いつきだったんですが、けっこう正解でしたね。小さくて少ないほうが希少価値も出て、ありがたみもなんとなく強くなったように思います。ちょっと小さいギョウザは、一生懸命つくったのに、1口で食べ終わってそこが贅沢。愛情が芽生えたような気もしました。
鳥巣 愛されるというテーマだったので、当初、「世話焼きギョウザ」というのも考えていましたが、小さくした結果、世話を焼かないといけない餃子ができました。愛されるものをつくるには小さくするという手法があることを、餃子を通して学ぶことができた会でした。