カリスマバイヤーとつくった「おみやげギョウザ」とは?(ゲスト:山田遊/バイヤー)
アートディレクターの古谷萌、コピーライターの鳥巣智行、菓子作家の土谷みお、建築家の能作淳平が、料理人とは異なる視点から新しい餃子づくりに取り組む「トゥギョウザー」。4人が毎回、さまざまなゲストと会話しながら、これまでにない餃子をつくる。そんな活動です。
今回のゲストはバイヤーの山田遊。山田が代表をつとめるmethodのオフィスに、トゥギョウザーのメンバーがおじゃましました。オフィスには、ギャラリー「(PLACE) by method」が併設されており、この日はアーティストの山本尚志さんの個展「マド」を開催中。まずは数々のショップのバイイングやディレクションを手がける山田の、意外なエピソードからスタートしました。
山田 大学が文学部史学科で東洋史専攻だったので、餃子について調べたことがあります。中国だと「水」や「蒸し」が主流なのに、なぜ日本の餃子は「焼き」なのか。そもそも餃子は中国語で「チャオズ」で、日本の「ギョウザ」という名前にしても違いがあるなと思って。そんな疑問を出発点に、レポートを書きました。
一同 それでそれで?
山田 調べると、満州からの帰還兵が日本に伝えたようでしたね。中国でも東北部は、どちらかというと餃子を焼くことも多いようで。諸説あるみたいですけど、宇都宮が餃子の街と言われるのは当時、陸軍十四師団の司令部が宇都宮にあったことから餃子が伝わったとか。ギョウザという呼び方は、山東なまりの「ギャウザ」が語源的に近いみたいでした。
続いて普段の仕事の話を。
鳥巣 山田さんは以前、「国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会」の仕事をしてましたよね。
山田 あの時は、各国の参加者へのおみやげものとして、震災後というのもあって、東北3県の起き上がり小法師を選びました。独立して最初の大きな仕事が、国立新美術館のミュージアムショップ「スーベニアフロムトーキョー」のバイイングで、あれもおみやげ。出雲や伊勢にある、みやげもの屋のディレクションもやっています。もともと、おみやげが一般化したのは江戸時代。講が組まれて、コミュニティで積み立てをして、代表者が順繰りにお伊勢参りなどに出かける。戻ってから、旅に出してくれたみんなに渡す神札がおみやげの原型だそうです。でも毎年札だと飽きるということで、地域の名産品になっていったという話があります。そこから、おみやげを複数の人におすそわけする日本特有の文化が生まれたとか。
鳥巣 おみやげって、渡す人のことを考えて選ぶものですよね。今日は、そんなおみやげをテーマに新しいギョウザのアイデアを考えてきました。そろそろ案の話に行ってみましょうか。
まずは古谷のアイデアから。見た目がかわいい「キャンディギョウザ」とは?
古谷 餃子は普段は地味なので、おみやげとしての華やかさを持たせようと「キャンディギョウザ」にしました。
山田 確かにかわいい。
古谷 1つにつき餃子の皮を2枚使えば、包んだキャンディぽい見た目にできるんじゃないかと。餡は見た目と違って、甘くするんじゃなくて洋風だったりエスニックだったり、レモンやミント、ラズベリーといったソースに肉を合わせるというものです。
能作のアイデアは、「冷めても美味しいお土産ギョウザ」です。
能作 1つずつ個包装になっていて、食べる時にも手が汚れないおみやげ要素と、味は「冷めても美味しいギョウザ」です。野菜を使うと水っぽくなるし、動物性の油は冷えると固まるので、米と天かすを混ぜて味付けした、おいなりさんみたいな餡を入れた揚げ餃子です。植物性油は冷めても固まらないそうで、「冷めてもおいしい弁当」のレシピを参考にしました。
鳥巣 餃子を通じていろんなことを知れますね。
土谷 動物性の食べもので、「冷めても美味しい」を実現できたらいいですね。
続いて、鳥巣の「シガーギョウザ」です。
鳥巣 僕はおみやげを選ぶのがめちゃくちゃ苦手なんです。でも定番が好きで、地元の長崎から東京に戻ってくる時にはカステラ、普段、誰かに何かを送る時にはヨックモックの「シガール」を選びます。嫌いな人がいないし、カジュアルで小洒落た感じもあります。シガーギョウザは、シガールのような形で、箱に入っていてで、紙袋に入れて渡すイメージ。そんなおみやげの定番みたいな餃子を作れないかなと思いました。
土谷の「カンノーリギョウザ」は、甘いスイーツ餃子です。
土谷 カンノーリは、シチリアやイタリアの人にとって、日本人にとっての羊羹や大福みたいに、愛される伝統菓子。筒状にした皮にリコッタチーズがベースになったクリームを詰めて、端にフルーツやナッツで飾り付けるお菓子です。これは、カンノーリの外側の部分に、餃子の皮を使う甘い餃子です。
古谷 鳥巣くんのアイデアとも近い? 葉巻きみたいな?
土谷 皮を揚げるところが違うかな。カンノーリは、映画「ゴッドファーザー」の1と3に出てきます。1では「銃は置いていけ、カンノーリを取ってくれ」というアドリブのセリフが生まれた名シーンもありますが、どちもカンノーリが「冥土の土産」のように見えるのがおもしろい。そこから今回のおみやげというテーマとつながりました。
能作 もう1回ゴッドファーザー観たくなりました。
そして最後に、ゲストの山田もアイデアをお披露目。
山田 2つ出してもいいですか。1つが「沙琪瑪(さちま)」という、中国で広く食べられているおこしみたいなお菓子を包んだ焼き餃子。もともと満州の食べ物で、餃子と同郷という視点から「沙琪瑪ギョウザ」を考えました。もうひとつが、餃子と同族という視点から「焼売ギョウザ」。餃子と焼売は餡が違うじゃないですか。横浜みやげとして有名な、崎陽軒のシウマイを丸ごと餃子の皮で包んでもいいかなと思いました。
古谷 僕も能作さんの冷めても美味しいというアイデアを見て、崎陽軒を思い浮かべたんですよね。
鳥巣 アイデアが出揃いましたね。今回はどんな基準で選びましょうか。甘い系もしょっぱい系もあります。
山田 中国には棒餃子もありますよね。形としては、シガーギョウザが面白いんじゃないですか。クレープ的でもあって、甘い系もしょっぱい系も、どっちでもいけそう。
そんな話し合いを経て、今日つくるメニューは、シガーギョウザに決まりました。
「シガーギョウザ」は、ひき肉を薄く伸ばしてくるくる巻いたしょっぱい系
つくる餃子が決まったら、近所のスーパーに買い出しに。食材を用意したら、手分けをして調理に取りかかります。薄くのばした餡を皮に塗って、くるくると巻くつくりかたがシガーギョウザのポイント。チーズや大葉、豚バラなど、さまざまな食材を餃子の皮で巻き、オーブンで焼いて試作して、どんな味にすればいいか模索してみることに。
いろいろ試していくうちに、甘い系ではなく、合挽き肉を使って餃子の皮で巻いたしょっぱい系に決定。巻くことで手でつまめるシガーギョウザの姿が見えてきました。餡が決まったので、改めて巻いてオーブンで焼き上げました。冷めるのを待って、さっそくみんなで食べてみることに。さて、その味は?
鳥巣 なるほど。ジャムの甘みがしっかり残っていますね。冷めても美味しい。
土谷 ジャムがこっそりと効いてますね。これは新しい。おもしろい味。
能作 どっかの国に昔からあるみたいな味がします。甘じょっぱさのなかにポイントがいっぱいあって、しょっぱい系でもおやつ的な感じもある。
山田 美味しい。「中東のなんかです」って言われたら信じてしまいそうな。
能作 香りが強くて、モンゴルとかで食されている気配も。なんなんでしょうねこのエスニック感。
古谷 おみやげって、ちょっとくせがあるもののほうが定番になりますよね。
最後に、今回のトゥギョウザーを振り返ってもらいました。
能作 甘じょっぱいという特徴も、スティック状で中がしっとり、皮がパリパリの食感も新鮮で、今日は学びが盛りだくさんでした。
鳥巣 餃子から発想したらこういう餃子はできないはずで、おみやげを出発点に考えることで、結果的に面白いものができました。みんなでワイワイ言いながらいろいろ作ったのもよかったです。
土谷 ごはんでもお菓子でもないどっち付かずな食べ物で、そこがおみやげっぽいですね。食べ歩きフードとして浸透するには「女子が恥ずかしくなく持てる」というのが持論のひとつですが、これなら、女の子が食べ歩くにもいけそうです。
古谷 最終的にしょっぱい系にして、肉から離れなくてよかったと思いました。餡を甘くしていたら、単に餃子の皮を使ったお菓子になっていたはず。今回は、餃子というものをかなり模索できたと思います。
山田 おみやげの王道はスイーツなんですけど、地域の材料で甘い味ってなかなか見つからないんです。そういう意味では、シガーギョウザのジャムに地域の食材を使えば、いろんなご当地シガーギョウザができる可能性もありそうです。