餃子のルールとは? 弁護士と考えた朝8時から食べたい餃子(ゲスト:水野祐/弁護士)
アートディレクターの古谷萌、コピーライターの鳥巣智行、菓子作家の土谷みお、建築家の能作淳平が、料理人とは全く異なる視点から新しい餃子づくりに取り組む「トゥギョウザー」。毎回、さまざまなゲストと会話しながら、これまでにない餃子をつくる。そんな活動です。
今回のゲストは弁護士であり、アートやカルチャーなどの分野のクリエイターの活動を、法律面からサポートする取り組みも行う水野祐。トゥギョウザーの第一印象を聞いてみると、「みんな揃いのTシャツを着て、各自アイデアも用意してくる。かなり真面目な活動だなと思いました。それにしても、2回目のゲストが僕って、ちょっと早すぎませんか」と水野。
「1回目が和田率さんで料理寄り。かと思ったら、2回目は弁護士の水野さん。トゥギョウザーは、できるだけ幅広いフィールドの人たちと一緒にギョウザの可能性を探求したいと思ってるんです」と鳥巣が答えます。
今回のテーマは「ルールと餃子」。餃子にまつわる、水野の問いかけから雑談が始まりました。
水野 そもそも餃子の定義ってなんだろう。包む手法のことを言うのかな。
鳥巣 まさに。今日はそこを話したくて。包むのもルールのひとつだと思うんですよ。でも、包めば餃子なのかという疑問もあります。
水野 皮があればいいんですかね?
土谷 モモとかラビオリとかも、餃子とのつながりがありそうですね。
ここで、水野が自著「法のデザイン」でも提唱している「リーガルデザイン」について解説がありました。
水野 みんな、法律や契約を自分たちにとって邪魔なものだったり、自由を規制するものと捉えがち。でも、いまって法律や契約の仕組みをうまく利用することで、創造性が促進されたり、ビジネスやカルチャーがおもしろくなったりすることが増えていると思います。ルールを意識したり、ルールをハックすることで、もっと面白い世の中になるんじゃないか、というのが僕の提案なんです。
鳥巣 水野さんとそういう話をできれば、餃子サイドとしては新しい議論になるんじゃないかと思っています。ルールはクリエイティビティを制限する存在ではなく、より促進していくもの。餃子をルールから考えると、新しい餃子が生まれるのではないかと思って、ルールと餃子というテーマにしました。
続いて、「ルールと餃子」というテーマに合わせて、4人が持ち寄ったアイデアを紹介。4つのアイデアをプレゼンし、水野が最も気に入ったものをつくってみることにしました。
まずは鳥巣のアイデアから。餃子の皮に付けたヒダの数を競う「ひだリンピック」とは?
鳥巣 新しいルールを付け加えると、餃子がもっと面白くなるんじゃないかと考えました。トゥギョウザーのテーマでもあるコミュニケーションが促進されるルールを、と考えたのがひだリンピック。餃子をみんなでつくるときの、ひだの数とか包み方って、会話が盛り上がる要素だと思うので。
水野 競うのは、ヒダの数じゃないってこともありますよね。そっちに集中しすぎると、コミュニケーションが生まれないかも。
鳥巣 そこは難しいところなんですよ。昨日ドンキに行って考えたのが、サイコロを振ってひだの数を決めるのはどうかなと。でも、それってなんなんだろうなって思ってしまって。
続く能作のアイデアは、同じくヒダに着目した「ギョウザのヒダの数を数える」というもの。「まさか、鳥巣君とかぶるっていう」と驚く能作。
能作 餃子のメジャーなルールは、皮で餡を包むこと。そこにマイナーなルールとして、お祝い事の時にはヒダが3つとか、ヒダの数を決めるとどうかなと。例えばサッカーで言えば、オフサイドは近代的ルール。オフサイドができたことで、サッカーがより面白くなった。そういう近代化を餃子にももたらせないかなと思いました。
水野 「オフサイドはなぜ反則か」という本があって、オフサイドというルールができたことによって、サッカーというスポーツが洗練されていった歴史が解説されています。ルールをハックしていかないと、スポーツの進歩も止まってしまうんですよね。能作さんのアイデアは、餃子をどうアップデートしようかという内容に聞こえました。
鳥巣 餃子におけるオフサイドをつくれば、餃子が洗練される可能性がありますね。
土谷のアイデアは「標識ギョウザ」。
土谷 身近なルールってなんだろうと考えて、標識をモチーフににしました。私も包むことが餃子のルールだと思ってて、それを脱したくて今回は包まない餃子。「一方通行」は、ギョウザの皮を四角く織り込んでブルーベリーソースとマスカルポーネチーズを乗せたもの。標識って丸や四角、ひし形があって、どれも円形のギョウザの皮からつくることができる。円という形の寛容さもテーマです。
水野 交通ルールという身近なテーマと、包まないという餃子のメタ的なルールの両方にアプローチしてますよね。
能作 子供たちと一緒につくると楽しそう。
最後の古谷のアイデアは「朝ゴハンギョウザ」。
水野 一見すると、ルールと関係ない気がしますね。
古谷 餃子って朝から食べないですよね。餃子のルールで閉じていると感じたのは食べる時間。しょっぱい系ではなく、朝食向きの甘い系。フルーツを入れて、牛乳とかヨーグルトソースで食べる餃子です。
水野 なるほど。これは大好きなアプローチですね(拍手)。なにがギョウザの可能性を狭めているかというと時間。こういうアイデア、僕も出したかった。悔しいくらいです。
今回つくるメニューは、朝ゴハンギョウザに決まりました。
ルールからアプローチすると、思いもよらないアイデアが!
つくる餃子が決まったら、さっそく買い出しに出かけて食材を調達。戻ったら、全員で手分けをし、調理に取りかかりました。
「料理は全然やらない」という水野。「カレーくらいしかつくったことないですね。餃子づくりは初めてにして、これで最後になるかも。あまりにも経験がないのでちょっと恥ずかしいくらいです」と話しながら果物を餃子の皮で包んでいきます。
細かくカットしたイチゴやキウイ、バナナやブルーベリーを餡に見立てて、餃子の皮で包んだフルーツ餃子。土谷の「水餃子にしたほうが、皮が透けて見た目が綺麗になりそう」との意見を取り入れて、一度茹でてから氷水で冷ますことに。
最後にお好みで、牛乳やヨーグルトをかければ完成です。
さて、気になるその味は?
水野 もともと皮とか、炭水化物が好きなんですよね。果物と合わせても違和感なく、けっこう美味しく食べられました。
古谷 皮がちょっと固かったので、米粉の皮にするといいかもしれないですね。
土谷 冷たいのもいいけど、温かいまま、ホットフルーツとして食べるのもいいかも。
能作 あ、記憶のどっかにある、食べたことのある味。イチゴの酸味がいいですね。
鳥巣 フルーツの甘味もよく出てますね。
最後に、それぞれ今回のトゥギョウザーを振り返ってもらいました。
土谷 朝ゴハンギョウザはご飯だけど、お菓子のようでもあります。ご飯とお菓子の境目はどこだろうと考えて、餃子の可能性を感じました。
鳥巣 ルールからアプローチすると、思いもよらないアイデアが出てきます。餃子に限らずなにかを発想する時に、ルールから考えてみるのもいいなと思いました。
古谷 氷水で冷やす工程で、思った以上に水が入っちゃいましたね。コンセプト優先だと、おいしくつくるのはやはり難しい。ほんとに朝ごはんの定番になるように、もっと皮やレシピを含めて研究していきたいです。
能作 何㎜厚の皮をどれくらい茹でたらどんな食感になるかっていうのは、いろいろ試してみたいところですね。毎回そうですが、前半は頭で考えて、後半は手を動かしてつくってみるというのが楽しいです。
水野 アイデアを形にして、その場でつくって、食べるところまでやるっていうこのプロセスがこのメンバーならではだし、楽しかったです。僕的には味としても、それなりに戦えている感じもしました。今日試したアプローチを僕は「ルール・ドリブン・アプローチ」って呼んでるんですけど、古谷さんが言ったように、ほんとにおいしいものにするには、ルールだけじゃだめなんですよね。いろんな創作活動と同じように、もう一歩飛び跳ねる瞬間が必要であり、ルールは「まなざし」を変えるためのひとつの手段だと改めて実感できました。