Vol.35 羊毛のような触り心地に驚く、シェイラ・ヒックスのあの作品集が生まれるまで。

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    写真・文:中島佑介(POST)

    Vol.35 羊毛のような触り心地に驚く、シェイラ・ヒックスのあの作品集が生まれるまで。

    “Weaving as Metaphor” / Sheila Hicks / Bard Graduate Center
    『ウィービング・アズ・メタファー』 / シェイラ・ヒックス / バード・グラデュエート・センター刊

     今日、ブックデザインで世界中から最も注目を集めているグラフィック・デザイナーのひとりがイルマ・ボームです。ボームが手がけた本はニューヨーク近代美術館のデザイン部門にも収蔵され、希少なものは古書市場で数十万円もの値が付くほど。ブックデザインが本の価値を高める重要な要素であるということを、彼女の仕事は示しています。ボームの代表作が、テキスタイル・アーティスト、シェイラ・ヒックスの作品集『ウィービング・アズ・メタファー』です。本書は、展覧会に合わせて2006年に出版されました。
     いちばんの特徴は、ヒックスの作品を彷彿とさせる、羊毛の塊のような質感の小口です。この加工を実現するべく、ボームは製本所と協働して、制作工程で用いる機械を転用した独自の加工技術を開発しました。しかし、特殊加工のため、どうしても制作費が高くなってしまいます。版元としては制作費はなるべく抑えたいところ。ボームと出版社の間では、この加工を採用するべきか大議論が交わされたそうです。最終的に出版社はボームのプランを受け入れ、誰も見たことのないブックデザインが世に送り出されました。
     刊行直後から、この本のデザインは多くの注目を集めます。初版はすぐに完売し、その後12年の間に5回も増刷されるまでに至りました。最初はボームに反対していた版元の人々も、この結果に驚くとともに、デザインの力を認めざるを得なかったでしょう。
     ボームは手作業でしか実現できないような工芸的な本には興味がなく、プロダクトとして量産が可能で、流通していく製品としての側面に興味をもっていると言います。そんなスタンスで強い存在感を放つ「本」をつくり続ける彼女は、これからもきっとブックデザインの新しい地平を切り開いていくことでしょう。

    特殊加工が施された小口が特徴的なブックデザイン。まるで圧縮した羊毛のようです。

    シェイラ・ヒックスの作品が見開きごとに一点ずつ収録された、シンプルな構成。

    ページをめくる時に小口が指に触れる感触も、テキスタイルという作品の特徴を体感的に伝える役割を果たしています。

    “Weaving as Metaphor” / Sheila Hicks / Bard Graduate Center
    『ウィービング・アズ・メタファー』 / シェイラ・ヒックス / バード・グラデュエート・センター刊
    タイトル:『ウィービング・アズ・メタファー』
    編集:ニーナ・ストリッツラー-レヴィン
    出版社:バード・グラデュエート・センター
    ページ数:416ページ
    サイズ:22.0 x 15.5 cm
    ISBN-13:978-0-300-11685-4
    出版年:2018年(初版2006年)
    価格:¥17,280(税込)