子どもの時に、自宅に紙の本が何冊あったかが一生を左右する:大規模調査
<31カ国、16万人を対象に行われた調査で、16歳の時に家に本が何冊あったかが、大人になってからの読み書き能力、数学の基礎知識、ITスキルの高さに比例することが明らかになった>
自宅に紙の本が何冊あったかが一生を左右!?
学生の頃、自宅にどれだけの本があったか、覚えているだろうか? 16歳の時に家に本が何冊あったかは、大人になってからの読み書き能力、数学の基礎知識、ITスキルの高さに比例することが、このほど行われた大規模な調査で明らかになった。研究者らは、「子どもの頃に自宅で紙の本に触れることで、一生ものの認知能力を高めることができる」としている。
調査を行ったのは、オーストラリア国立大学と米ネバダ大学の研究者たちだ。2011〜2015年に31の国と地域で、25〜65歳の16万人を対象に行われた「国際成人力調査」のデータを分析した。結果は学術誌ソーシャル・サイエンス・リサーチに発表されている。英ガーディアン紙が10月10日付と12日付で報じた。
調査では、16歳の時に自宅に何冊本があったか、と参加者に質問。その後、読み書き能力、数字、情報通信技術(ICT)のテストを受けてもらった。
その結果、本がほぼない家庭で育った場合、読み書きや算数の能力が平均より低かった。自宅にあった本の数とテストの結果は比例し、テストが平均的な点数になるのは自宅に80冊ほどあった場合だった。ただし350冊以上になると、本の数とテスト結果に大きな関係性はみられなくなったという。
本に囲まれて育った中卒と本がなかった大卒が同じ学力
さらに、最終学歴が日本で言うところの中学卒業程度(13〜14歳)であっても、たくさんの本に囲まれて育った人は、大人になってからの読み書き能力、算数、IT能力が、本がほぼない家で育った大卒の人と同程度(どちらも全体の平均程度)だということが分かった。読み書きや数学の基礎知識において、子どもの時に本に触れることは教育的な利点が多いと研究者たちは述べている。
興味深いのは、「言葉の読み書き」(いわゆる文系の能力)と「数字」(いわゆる理系の能力)が別物だと考える人が多いと思われる中、今回の調査では、自宅に多くの本があると、このどちらも強化することがわかったということだ。研究者らは「これは予期していなかった」とし、「子どもの時に本を読めば大人になって文字を読むのが得意になる、という単純な話ではない。読み書きとはまったく異なる、デジタル環境にも繋がるということだ」と説明する。
ただし、これら自宅の本を必ずしも読めなければ効果がないというわけではなく、また単純に「本を読む」という行為によりこうした能力が伸びるというわけではなく、何が利点になっているのかを特定するのは難しいと研究チームは話す。「ただ本をたくさん読みなさい」というシンプルな話ではなく、大切なのは「子どもたちが、親や他の人たちが本に囲まれている様子を目にすること」だとしている。
「本好き」の国別ランキング、日本は?
ただし今回のテスト結果は、大人になってどれだけ本を読んだかとは無関係なので、今から慌てて読んだ場合の効果は不明だ。
この調査では16歳の時にどれだけ書籍が自宅にあったかを国別のランキングも出している。最も本好きの国はエストニアで、平均は218冊。350冊以上だったと答えた人は35%に上った。
日本は平均102冊で、世界全体の平均を含む18カ国・地域のランキングで14位だった。世界全体の平均は115冊。
研究者らは、本がもたらす利益は世界的に一貫しており、教育水準や、大人になってからの仕事、性別、年齢、両親の教育水準とは無関係だったとしている。データが最も詳細にわたって取れたオーストラリアを例にとっても、裕福さやIQ、学校の成績などを調整した後のデータでも同じ傾向がみられ、研究者らは、どのデータを考慮して調整した場合でも、「本に囲まれて育つことには利点があるという結果が出た」としている。
○16歳の時にどれだけ書籍が自宅にあったか
国平均冊数
エストニア 218
ノルウェー 212
チェコ 204
デンマーク 192
ロシア 154
ドイツ 151
オーストラリア 148
英国 143
カナダ125
フランス117
世界 115
米国 114
アイルランド 107
日本 102
ベルギー 95
チリ 52
シンガポール 52
トルコ 27
文:松丸さとみ