あまーい餃子? 竪穴式? ハンバーガーとキムチで餃子? クリエイターが本気を出した‟新しい餃子”って?
4人のクリエイターが新しい餃子をつくる「トゥギョウザー」。職能が異なるクリエイターが集い、これまでにない餃子をつくるプロジェクトです。料理人とはまた違った、さまざまな分野で活躍するクリエイターだからこその視点とアイデアが詰まった「ギョウザ」とはいったいどのようなものでしょうか。調理過程や食後に交わされる会話を通じて、多くの人に愛される餃子という食べ物の、新たな可能性を探っていきます。
第1回は、メンバーそれぞれが「自己紹介するギョウザ」をつくります。場所はメンバーのひとり、ノウサクジュンペイアーキテクツ代表で建築家の能作淳平のオフィス。東京都国立市にある「富士見台ストアー」という元スーパーの建物をリノベーションした建物に集まって、トゥギョウザーはスタートしました。
まず聞いてみたのは、「なぜ、餃子を?」。そんな素朴な疑問に答えてくれたのはコピーライターの鳥巣智行。「僕が浅草方面に引っ越したことから、近所に住む友達と餃子パーティーをやろうとなりました。それが始まりですね」と話します。
そのご近所さんとは、アートディレクターの古谷萌と、映画を題材にしたお菓子ブランド「cineca」の土谷みお。土谷は「たとえば、イタリア料理のラビオリも餃子みたいなものですよね。そもそも餃子ってなんだろうという興味も湧いて、餃子づくりのプロジェクトを始めようと思ったのもきっかけです」と振り返ります。そこから能作も巻き込んで、4人でトゥギョウザーを結成。ギョウザを巡る小さな取り組みは、こうして始まりました。
メンバー各々のパーソナリティを表現した「自己紹介するギョウザ」は、まず、アートディレクターの古谷の餃子から。古谷は、「餃子の見た目をもっと面白く」がテーマ。オリーブの輪切りを入れた「開眼するギョウザ」をふたつ、目のようにプレートに並べて、トマトソースで口を描いて出来上がり。モッツァレラチーズを包むなど、味はイタリア風に仕上げました。さっそく味わってみると、「ソースがおいしい」と鳥巣。いつもの醤油ではなく、餃子にソースという組み合わせは好評のよう。土谷は「餃子の皮よりも、生春巻きに使う皮を使うと、もっと透けて見えるかも」と、さらなる見た目の追求を提案しました。
続いて能作は、日本建築の起源と言われる竪穴式住居をモチーフに「竪穴式ギョウザ」を披露。餃子の皮を型に乗せて焼き、立体的なギョーザを作りました。玄米と牛肉を混ぜたチャーハンのような餡を、パリパリに焼いた餃子の皮ですくって食べるというアイデアです。「これは食べる建築。狩りから稲作を始めるという流れを、玄米とひき肉で表現しました。餃子定食をひとつの餃子で楽しめるというものでもあります」と能作。
試食して「肉の弾力と皮のパリパリ食感が新鮮ですね」と鳥巣が話すと「餃子の皮を焼くと、手軽なおやつ感覚で食べられます」と土谷。調理方法と形状の工夫によって、皮が器の機能をもつように。ギョウザを持ち運ぶという、ファストフードのような可能性も見えてきました。
餃子を生で? 食べると甘い「口実の餃子」とは?
次に登場するのは、土谷作の「口実のギョウザ」。生のままのような見た目の、透明なパックに入った餃子を前に土谷は、「『次の朝は他人』という韓国映画があって。男女4人で飲んでいる時に、ひとりの男性がちょっといいなと思っている女性と餃子を買い出しに行くシーンがあります。でもその後、特に餃子を食べるシーンがあるわけではなくて。あれはただの口実だったというか、あの餃子があったからふたりの距離が縮まったんだと思いました。餃子パーティーみたいに、餃子は集まるきっかけにもなる、まさにトゥギョウザーの活動を体現するような口実のギョウザです」と解説します。
映画をきっかけに菓子づくりをしている土谷のそんな考えに、さらに「餃子は、焼く前のほうがかわいい」という視点をミックスした口実のギョウザは、刻んだレモンピールやライムにチャービル、アンジェリカなどのハーブ類も混ぜた白あんを求肥生地で包んだもの。口にすると生の餃子をそのまま食べているような違和感も楽しめる、スイーツギョウザです。
口実のギョウザを食べた能作は、「レモンやチャービルの味がきいた、さわやか系。ジャンルとしては、生八ツ橋とか和菓子に近くて。味が複雑で上品なのに、庶民のビジュアルなのが面白いですね」と話します。
長崎出身の被爆3世で、平和活動にも取り組む鳥巣がつくったのは、調和をテーマにした「平和ギョウザ」。普段は組み合わせない相反するものをあえて合わせ、「そこにあるのは、緊張感かハーモニーか?」と問いかけるコンセプチュアルな餃子です。どんな食材を包んでも、煮ても焼いても、ちょっと失敗しても、だいたいおいしく仕上がるという餃子の寛容さこそいまの世界が求めているものだと考え、アメリカと北朝鮮から想起したハンバーガーとキムチを包みました。
口にした古谷の「食べる前はおいしそうと思ったけど、意外にも、キムチの味が負けてしまうんですね」という感想に、鳥巣は「ひとつ食べるくらいで、ちょうどいい味の濃さでした。主張が強い味の調和をはかるのは、一筋縄ではいきませんね」と応えます。
同じ餃子という食べ物ながら、それぞれの個性を存分に反映したギョウザを囲んで、会話を弾ませる4人のメンバー。「なにで包んでもなにを入れてもいい。そういう意味で、ギョウザづくりは誰でもできるクリエイティブワークですね。子どもも参加できる、ワークショップにもなりそうです」と古谷が締めくくり、4種類のギョウザの共演は幕を閉じました。
次回からは毎回ゲストを招き、みんなでひとつの餃子をつくっていきます。1回目のゲストは、料理愛好家、平野レミのブランド「remy」のクリエイティブ・ディレクターを務める和田率。5人で「餡(案)を出し」「買い物に行き」「餃子をつくり」「食べる」という過程で生まれるコミュニケーションを含めて、新たな餃子の可能性を模索していきますので、乞うご期待です。