自然との対話が生んだ、現代建築。

  • 文:川上典李子
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『アルヴァ・アアルト−もうひとつの自然』

神奈川近代美術館葉山

自然との対話が生んだ、現代建築。

川上典李子エディター/ジャーナリスト

『サヴォイ・ベース』1936年 Savoy Vase, Alvar Aalto, 1936 ©Vitra Design Museum, Alexander von Vegesack

『ペンダント・ランプ A331 ビーハイヴ』1953年 Pendant Lamp A331, “Beehive,” Alvar Aalto, 1953 ©Vitra Design Museum photo: Andreas Jung

天井が波のようにうねる『ヴィーブリ(ヴィーボルグ) 市立図書館』(1927〜1935年)の講堂 Viipuri (Vyborg) City Library, Vyborg, Karelia (today Russia), Alvar Aalto, 1927-1935 ©Alvar Aalto Museum photo: Gustaf Welin
世界巡回展の内容に加え、スツールやテーブルなど、アアルトのデザインを体感できる「アアルトルーム」が登場。豊かな生活を探究した彼の創造性に触れるワークショップも予定。

シベリウスが交響詩『フィンランディア』を完成させた19世紀末、建築家アルヴァ・アアルトは生まれた。
アアルトとはフィランド語で「波」の意だが、自然から得たインスピレーションを人間のための「自然」へと押し上げる活動を貫いた彼が他界するまで手がけた作品は400以上。こうした巨匠の生涯を俯瞰できる展覧会が開幕する。ドイツ、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムでの開催以降、世界を巡回していた話題の内容だ。
若き頃の代表作は、近代建築の旗手としての存在を世に示したパイミオのサナトリウム。細部まで配慮が行き届いたデザインの特色を、本展では病室の再現で目にできる。またマイレア邸やフランスのルイ・カレ邸などの住宅から、晩年の国際的な大規模プロジェクトまで、活動が広く紹介される。
曲木加工が特色の「スツール 60」をはじめとする家具は当時の貴重な品々が多数展示され、こちらも必見。家具に関しては妻アイノらと1935年に立ち上げたアルテック社があるが、自作家具の製造にとどまらず、展示などを通してモダニズム文化を促進しようとの想いを重ねての設立だった。
彼のこうしたヴィジョンそのものを考える時、本展で焦点が当てられている同時代のアーティストとの関係は興味深い。バウハウスで教鞭を執ったモホイ=ナジ・ラースローをはじめ、ハンス(ジャン)・アルプ、アレクサンダー・カルダー、フェルナン・レジェ……。彼らとの交流と対話がアアルトに影響を及ぼしていたことがわかる。
建築とアートと生活の関係を大切に、生命力を秘めた空間、デザインを探った人間中心主義のモダニズムの実践者。その生涯を、幅広い視点から深く振り返ることでの発見も多い、示唆に満ちた展覧会だ。

『アルヴァ・アアルト−もうひとつの自然』
開催期間:9月15日(土)〜11月25日(日) 
神奈川近代美術館葉山 
TEL:046-875-2800 
開館時間:9時30分〜17時まで ※入館は閉館の30分前まで 
休日:月(9/17、9/24、10/8は開館) 
入館料:一般¥1,200(税込)
www.moma.pref.kanagawa.jp