『地下鉄道』
コルソン・ホワイトヘッド 著
壮絶な奴隷生活から脱走した、少女の未来に希望を見出す。
今泉愛子ライター物語は19世紀前半のアメリカ・ジョージア州から始まる。ランドル農園の奴隷の少女コーラは、祖母の代からこの農園で働いている。祖母が生んだ5人の子どものうち、10歳を越えて生きたのは、コーラの母メイベルだけ。そしてメイベルは、コーラが10歳か11歳くらいの時に、コーラを置いて農園を脱走した。それゆえ、コーラはさらにつらく当たられることになる。
コーラは、ある日仲間のシーザーから奴隷制度のない北へ逃げないかと誘われた。うまく逃げられるのだろうか。失敗の代償があまりに大きいことは周知の事実だ。幼い頃から、木に首を吊るされハゲタカの餌にされた逃亡者を見てきたのだ。逃げられないよう足を切り落とされたり、生きたまま薪で燃やされたりした人たちがいたのだ。それでも、コーラは決意する。
当時「地下鉄道」と呼ばれる組織があった。黒人奴隷の逃走を手助けするための秘密組織で、その行いが明るみに出れば、奴隷だけではなく、彼ら自身の命も危ない。それでも手を貸す人たちはいた。
コーラは、ジョージア州からの脱出に成功し、サウス・カロライナ州へとたどり着く。それでもまだ自由とは言えない。コーラの逃走劇は続く。
著者はコーラを主人公に、奴隷制度という史実をもとにして、壮大な小説ならではの世界を描く。当時の黒人たちの、想像を絶する悲惨な待遇。文字を見つめていただけで目を潰され、頭でなにかを考えることまでも徹底的に否定されるのだ。自由という言葉の切実さに、気が遠くなる。
暴力、密告、裏切り。人間のあらゆる汚さを背負わされてもなおコーラは、北へと向かう。協力者の多くは命を落とした。読後、生き延びたコーラのこれまでの苦労よりも未来に想いを馳せることができるのは、人間のもつ希望の強さだろうか。
『地下鉄道』
コルソン・ホワイトヘッド 著
谷崎由依 訳
早川書房
¥2,484