楽園を描いた画家・ゴーギャンの、 タヒチでの現実を知る一作。

  • 文:中村剛士
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『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』

監督/エドゥアルド・デルック

楽園を描いた画家・ゴーギャンの、 タヒチでの現実を知る一作。

中村剛士ライター/ブロガー

ゴーギャンが綴った紀行エッセイ『ノア・ノア』を ベースに映画化。『ブラック・スワン』などハリウ ッドでも活躍するフランスの名優、ヴァンサン・ カッセルがゴーギャンを演じ、ヒロインは現地タ ヒチで行われたオーディションで選ばれた。© MOVE MOVIE - STUDIOCANAL - NJJ ENTERTAINMENT 

いまの生活を刹那的に捉え、本当の自分はこんなところでうだつの上がらない日々を過ごす人間ではないと、「楽園」を夢見、希求する。そんな経験が誰しも一度はあるだろう。ただ実際は、さまざまなしがらみから実現できず無為な毎日をやり過ごすのが一般的だ。しかし、ポスト印象派の画家・ポール・ゴーギャン(1848〜1903年)は「楽園」を求めタヒチへ、妻子を残し、ひとり旅立った。まるでパリから逃げるかのように。 

もともとゴーギャンは画家ではなく、パリ証券取引所で株式仲買人を務めていたが金融恐慌に見舞われ失職。日曜画家として描いていた絵で生計を立てようとするも作品は売れずパリで鬱屈とした日々を送っていた。そんな彼が人生の起死回生に向け狙いを定めたのがタヒチへの渡航だった。 

人は自分ができないことをやり遂げた人間に対し、賛辞を送ると同時に憧憬の念を抱く。ゴーギャンの絵画、とりわけタヒチ滞在時に描いた作品が、オークションで最高200億円以上もの高値で落札されたのは、そうした憧れが上積みされているからだ。タヒチでの生活なくして現在のゴーギャン人気は考えられない。まさにそこは彼にとって「楽園」だったと、解釈してしまいがちだが……「現実」は違ったことをこの映画は教えてくれる。 

野性の赴くままにタヒチの自然や人びとを次々に描く姿を想像していたが、スクリーンに映し出される彼は、慣れない環境での生活の下、病に苦しみ、糊口をしのぐために港での肉体労働に明け暮れる華のない姿ばかりだ。そればかりか現地での妻・テフラに姦通を許してしまうみすぼらしく侘しい「現実」がこれでもかと赤裸々につづられる。この映画で、絵画からは知ることが難しいタヒチでの生活を知ることで、作品の理解が深まり、向き合い方も大きく変わるはずだ

『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』

監督/エドゥアルド・デルック
出演/ヴァンサン・カッセル、ツイー・アダムスほか
2017年 フランス映画 1時間42分