『ドリーム』
監督/セオドア・メルフィ
60年代に男たちを宇宙へ導いた、知られざる女性数学者の実話。
岡田斗司夫プロデューサー/評論家『ドリーム』の製作にはちょっとしたヒミツがある。ヒントは2016年大統領選挙。昨年秋、ドナルド・トランプは僅差で第45代アメリカ合衆国大統領に当選した。しかし選挙当日までヒラリー・クリントンが勝つ、と全米のメディアは予想していた。
僕は選挙の2週間前にニューヨークにいたが、街を挙げてのヒラリー推し、恒例のハロウィン仮装大パレードでもヒラリー派が横断幕を張って誇らしげに歩いていた。
誰もが「アメリカ初の女性大統領の誕生」を信じて疑わない。もうひとつの「強い女性映画」、アメコミヒーロー映画初の女性を主人公とした『ワンダーウーマン』の製作がほぼ同時期だったのは決して偶然ではないのだ。
実は本作が公開される以前からずっと、アメリカの初期宇宙計画に女性が貢献していたことは指摘されてきた。
2004年に出版された『マーキュリー13』は最初の7人の宇宙飛行士たち「マーキュリー7」にちなんで、13人の女性の存在を世に知らせた。13年の『ロケットガール』はNASA初の女性ロケット科学者メアリー・モーガンの伝記本だ。16年には『ライズオブザロケットガールズ』が出版されている。
しかしこの地味な題材をアカデミー受賞クラスの映画に押し上げたのは、やはり当時の〝ヒラリー大統領というドリーム〞がつくったパワーであった、としか僕には思えない。「本当のアメリカ史は、実は女性がつくっていた」 これこそが本作の製作裏の真のメッセージだ。
だからこそ、本作のラストシーンでは、主役キャサリン・G・ジョンソンに同じアフリカ系オバマ大統領が、大統領自由勲章を与えるシーンで終わるわけである。
『ドリーム』
監督/セオドア・メルフィ
出演/タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイほか
2016年 アメリカ映画 2時間7分 9月29日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開中。