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フレームの外はなにか?
見る人の思考を刺激する。
見る者に思考を促すインスタレーション作品で、国内外を問わず注目を集める現代美術家の川久保ジョイ。
哲学、科学、経済、そしてエネルギー問題など多岐にわたる分野を横断する作品が目を引く。写真家としてキャリアをスタートし、近年は映像やインスタレーションなどさまざまな手法を用いた作品を発表している。高校時代までをスペインで過ごし、現在はロンドンで活動。幼い頃から本が好きで、推理小説やファンタジー小説も愛読する少年だった。大学時代はカメラを構え、世界一周旅行に出たことも。複数のメディアを巧みに用いて物語性のある作品を展開する川久保は、写真についてこう語る。
「写真は世界を美しく切り取る道具、真実を写すと書くけど、それは嘘だと思っています。実は写っているものよりも、写っていないものの方が大事なことも多い。どうすればフレームの外にあるものへの想像力を刺激することができるかを常に考えています」
物理学者になるのが夢だ、と笑う川久保。その視野の広さに驚かされる。作品のアイデアはどのように浮かんでくるのだろう?「身体のどこかにできものがあると気になって、それをずっといじってしまうことがありますよね。日常生活の中でも、気になったことがある時、それがなにかにつながっていると感じたら書き留めるようにしています。1〜2年後ぐらいに作品として形になることがありますね」
8月4日から始まったヨコハマ・トリエンナーレ2017で、川久保は『エル・スール(ElSur)―南方―』と題した個展形式の展示を発表している。本作のテーマは「土地と所有」だ。「南極は所有者がいない状態ですが、国際条約を結んで研究開発を目的に各国が利用していますよね。大航海時代の大陸は、先住民から奪って所有されていった歴史がありますが、南極は人類に貢献する研究のために分け合われている。不安定な現代において、所有の在り方のひとつの理想として、南極を捉えたいと考えています」
本展では、日本の未来を描き出す、都市と地方の地価変動予測を比較した壁一面のグラフや、ジブラルタル海峡を挟んで南北から見える風景の写真、自身の制作過程を記したマインドマップなど、充実の作品群が公開される。これらは、少し立ち止まって考えたいあなたの「思考の扉」を開いてくれるはずだ。
ヨコハマトリエンナーレ2017で始まった展示『エル・スール(El Sur)―南方―』より、ジブラルタル海峡北側から臨む風景。『Imaginary lines #2(Gibraltar Strait/North)』(2017)© Yoi Kawakubo
資生堂ギャラリーでの個展「Fall」で発表された『千の太陽の光が一時に天空に輝きを放ったならばⅠ』(2016)© Yoi Kawakubo