クラフトビールの「第3次」ブームが、これまでとは違う点

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    クラフトビールの「第3次」ブームが、これまでとは違う点

    クラフトビールが注目を集めているが、実は、ここ数年でいきなり現れた商品カテゴリーではない。第1次、第2次ブームと違って、一過性の流行で終わらないと見込まれるのはなぜか。

    「とりあえず一杯めはビールで」

    そんな光景が当たり前だったのは過去の話。いまや最初の乾杯にビールだけが並ぶのは少数で、ワインやハイボール、ロングカクテルなどさまざまな飲み物が混在する状況にある。そもそもビールを飲まない人も少なくない。日本でワインやウイスキーが堅調に売上を伸ばすなか、いわゆる洋酒カテゴリーで一人負けを喫するかたちになっている。 

    もっとも、ビールすべてが劣勢なわけではない。消費が落ち込んでいるのは、アサヒビールやキリンビールなど大手メーカーが長年造り続けてきたビール。その大半はラガータイプのビールで、爽快なのど越しや心地いい苦味などを特徴とする。

    日本の飲食店で生ビールを注文すれば、基本的には黄金色のラガービールが出てくるはずだ。もともとの消費量が多かったこともあり、この手のビールの低迷が目立つ格好になっている。

    その一方で、ビール市場を超えた存在感を示し始めているのが「クラフトビール」だ。大手ビールメーカー製の商品と比べ生産量は多くはないが、個性の際立ったラインナップが揃う。

    規模の小ささを活かした、実験的な味わいのビールも楽しみの1つ。アルコール度数も数%から20%を超えるものまでさまざま。合わせる料理やその日の気分に応じて、豊富な選択肢が用意されているのもクラフトビール・ファンを増やす一因となっている。

    クラフトビール自体は、ここ数年でいきなり現れた商品カテゴリーではない。日本での誕生のきっかけは、ビールの醸造免許の下限となる製造量が、2000キロリットルから60キロリットルに緩和された94年に遡る。

    規制緩和に端を発した90年代半ばから後半にかけての第1次ブーム、2000年代後半の第2次ブーム、そしてここ数年の第3次ブームと、大きく3回のうねりを経ているのが日本のクラフトビールなのだ。

    醸造所乱立の第1次ブームは「お土産ビール」だった

    第1次ブームでは、わずか5年ほどの間に300以上の醸造所が乱立。当時はクラフトビールではなく「地ビール」という単語が全国各地で見られるようになった。

    だが、地域おこしや特産品づくりの一環としての側面が強くなりすぎ、ビールそのもののクオリティはいまひとつ。地域の特色を出すはずが、ほかと似たり寄ったり。そんな地ビールも珍しくなかった。とりあえず醸造設備を導入したが、肝心のビールに商品力がない――箱モノとしての地ビール参入に終わるケースだ。

    結果として地ビールは文化としてあまり根付かず、お土産ビールのような扱いで鳴かず飛ばずの時期を迎えることになる。

    第2次ブームで評判高まる

    その後訪れた第2次ブームでは、第1次ブームを生き残った一部の生産者と、国内外で専門的な研鑽を積んだ新たな造り手が「進化型」地ビールを牽引。地域ごとのカラーを打ち出しつつ「美味い」ビールとして成立させる、実力ある醸造所が台頭してきた。

    その代表格として挙げられるのが「よなよなエール」で知られる長野県のヤッホーブルーイングや、94年の規制緩和の折に第1号として醸造を開始した新潟県のエチゴビールだ。ビールの国際コンペティションでも入賞するクラフトビールが続出するなど、その評判も着実に高まったのがこの時期だ。

    現在進行中の第3次ブームでは、個性ある小規模醸造のビールに目をつけた大手メーカーも市場に参入。2014年には、キリンビールがクラフトビール専門の醸造所と飲食店を併設した店舗「スプリングバレーブルワリー」を東京・代官山で開業した。

    世界的なブームも追い風に、海外から輸入されるクラフトビールもますます多様なものとなった。酒販店で専用の棚が設けられ、クラフトビール専門店を標榜する飲食店も一気に増えてきている。


    日本とアメリカにクラフトビール・ブームが訪れた理由

    ところでビールの母国であるヨーロッパでは、小規模醸造が基本のクラフトビールというスタイルは、むしろ当然のものだった。地域ごとのカラーや造り手の個性を反映したレシピがビールに注ぎ込まれ、数百数千という銘柄が楽しまれてきた。

    そうしたビール文化を輸入する格好となったアメリカや日本では、醸造所というよりも「工場」で大量生産された画一的なビールが最初にあって、そこに飽き足らなくなった段階でクラフトビールというアプローチが模索され始めた。

    つまり、ビール文化という文脈で考えれば、クラフトビールが市民権を得た日本は、ようやくその第1歩を記し始めたと言ってもいいだろう。

    現在のブームがまたも一過性で終わるのか、それとも文化として根付くのか。

    2000年代後半から続くクラフトビールの隆盛をみれば、心配はいらない気もする。15年からはサッポロビールが専門子会社を通じて「クラフトラベル」ブランドを展開し、16年には通販化粧品大手のDHCがビール事業に本格参入、さらにこの3月からはキリンビールが米国発クラフトビール「ブルックリンラガー」の全国展開を開始するなど、大手企業の動向も激しい。

    ともあれ、あまり小難しいことは考えずに、とりあえずの一杯を楽しむべきなのだろうけれど。

    文:安藤智彦