Vol.4 ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞について思うこと
世界に衝撃を与えたボブ・ディランのノーベル文学賞受賞。理由は「アメリカの輝かしい楽曲の伝統の中で新しい詩的表現を生み出してきたこと」とされています。僕が思う大切なポイントはノーベル賞の選考が、「本質」を捉えていると感じること、また、賛否両論ある中で、オバマ大統領もツィートをするほど「反響を呼んでいること」だと思います。
ノーベル文学賞は、名だたる文豪が受賞するものという決まりはどこにもないわけで、今回のノーベル賞はそのスタンスと新しい価値を提示したと捉えることができるでしょう。
さて、日本人はなぜ多くの場合、自分自身で評価軸を持てないのでしょうか。海外で認められて初めて日本でも再評価されるという事象がたくさんあります。自分の評価軸とは違う事象を尊敬し、多様な価値観への想像力をはたらかせ、受け入れていくことこそが、世界とつながっていく本来の姿ではないでしょうか。
映画の世界でも、特に長編映画においては、娯楽性・商業性の高い映画は製作委員会などのシステム、作品の経済的なポテンシャルによるしばりが発生するため多様性を持った作品は産まれにくいのが現状です。ショートフィルム、国際映画祭の特徴とはまさにその多様性を尊重することにあります。僕が主催する映画祭も、何を価値として、何を発信していくのか、装置としての役割をどう変化させていくかを恒常的なテーマです。
いま、文化・芸術に貢献するという考え方が、ビジネスチャンスの創出やクリエイターへの還元を生み出す流れになってきているのではないかと感じています。諸外国と比べ日本は映像作家に対する支援が不足しているのが現状ですが、僕たちの映画祭ではエイベックス・デジタルと、最大1億円の制作費を与えるショートフィルムの企画募集をはじめました。多様性にあふれた世界中のモノガタリを日本からひとつのカタチに具現化していくことの重要性を感じています。
今回のノーベル文学賞授与は、価値観の可視化という点でとても刺激を受けました。沈黙を続けていたボブ・ディランも受賞を受け入れる意向が発表されたいま、12月の授賞式でさらに世界がどうどよめくか僕は楽しみにしています。
今回リコメンドするショートフィルムをチェック!
『ある夜』
作品時間:17分 制作国:ドイツ
監督:Timo Becker
人生に疲れきったクリスティンに新しい人生の楽しみ方を教えてくれた老人ホームの仲間がいた。ベルリン映画祭の他、30以上の映画祭で上映された本作品。観客が選ぶ観客賞なども受賞し、人々に愛され続けた作品です。