倉庫で探す、北欧家具の古き良きスタンダード

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    写真:永井泰史 文:佐藤千紗

    #23倉庫で探す、北欧家具の古き良きスタンダード

    アアルトがデザインしたNo.65 キッズチェア。以前の持ち主のペイントにより、素朴な表情があります。

    一時期のようなブームも落ち着き、いまやスタンダードとなった感のある北欧家具。シンプルで温かみのあるデザインはどんなインテリアにもすっと馴染み、つくりの良さは空間を整えてくれます。そんな北欧ヴィンテージ家具を200坪という巨大な倉庫いっぱいに集めたショップが、神奈川県伊勢原市にあるtalo。豊富な品揃えと良心的な価格設定で、都内のインテリアショップも買い付けに訪れる名店です。

    店主の山口太郎さんが北欧ヴィンテージの世界に足を踏み入れたきっかけは、留学中の友人を訪ねたフィンランド旅行。旅の途中、デザインの国を訪れた高揚感から、いきなり4~50万ものユーズド品をまとめ買いしてしまったといいます。しかし、いつまで待っても荷物は到着せず、数ヶ月後、直談判をしに再び現地に乗り込みます。すると、ヴィンテージショップのオーナーは悪びれる風でもなく、よく来たねと迎え入れ、ついまた追加でヴィンテージ品を買うことに。そうしてさらに待つこと半年、ようやく荷物は到着したのでした。

    「いま思い返せば、初対面の相手が信用できるのか、様子を見ていた部分もあるのかもしれませんね。フィンランド人はなかなか打ち解けないけれど、一度関係ができると、親切で実直。そんなところにも惹かれて、北欧家具の輸入を始めました」

    アアルトのキッズ用円形テーブルとチェア。低く抑えられたサイズ感が愛らしい情景を紡ぎます。

    キッズチェアNo.69。フィンランドのバーチ材に独自の曲げ木の技法を用い、強度を持たせています。

    ヴィープリの図書館のために製作されたスツールNo.60。黒い座面に飴色に変化した脚がマッチ。

    さまざまな年代、バリエーションのイス一つ一つに個性があります。お気に入りを探すのも楽しい。

    アアルトらしい有機的なカーブが魅力のウォールシェルフ112B。横に縦に並べてもすてきです。

    広大な倉庫にずらりと家具が積み上げられた店内。なかでもフィンランドの巨匠、アルヴァ・アアルトの家具が大きなスペースを占めています。アアルトは、山口さんがもっとも敬愛するデザイナーでもあります。

    「アアルトのデザインは、これ以上そぎ落とすものがないというくらいシンプル。それでいて、8割くらいで作業を止めているかのように余白があって、窮屈じゃない。だから買った人の色に染まりやすいんでしょうね」

    たとえば、1933年に発表された究極にシンプルなスツール60。来客のためのサブチェアとして、普段はスタッキングしておいても、サイドテーブルや踏み台にしてもいい。持ち主が自由な発想で、使いこなすことができます。病院や図書館など、パブリックスペースのためにデザインされた家具が多いため、接合部が少なく、丈夫で長持ちするのも特徴。そのため、多くはモダンデザインの傑作として、現在も発売されているロングセラー商品です。それでもあえてヴィンテージを選ぶメリットは何なのでしょう。

    「現行品はキズや汚れが付きにくいよう塗装されているので、経年変化が少ない。使い込まれた飴色はヴィンテージならでは。それに、昔の方が手作業も多く、つくりが良い。少しずつ材質やかたちも変わっているので、ヴィンテージの方がデザイナーのオリジナルの意図に近いということもあります」

    木とモダンデザインを組み合わせた、北欧家具黄金期の魅力。

    チークやオークの落ち着いた色合いのビューローやテーブルが揃うデンマーク家具のコーナー。

    一方、端正な工芸品のような雰囲気をもつのが、デンマークの家具。キャビネットやビューローなどの箱物家具が充実し、揃った木目やなめらかな棚の収まりには美しさが宿ります。デンマークでは国家試験をパスしないと指物師の資格が取れないそう。それだけに職人の地位も技術レベルも高く、家具や住まいが大事にされる文化を感じます。

    フィンランドの自分でも組み立てられる簡素な家具に対して、デンマーク家具はクラフツマンシップによる精緻なつくりが魅力。方向性は違えど、どちらも金属やプラスチックなどの新素材ではなく、木を中心としたデザインです。自然素材である木とモダンデザインが高度なレベルで融合した、希有な時代の遺産が北欧ヴィンテージ家具なのでしょう。その価値はブームを経ても下がることなく、年々値上がりしているといいます。「1920〜70年代というわずか50年間に生産された限られたものなので、だんだんモノが市場に出回らなくなっています」と山口さん。一時のファッションとしてではなく、飽きのこない定番として、受け入れられていることが伺えます。

    ハンス・ウェグナーによるCH30(左)とCH23(右)。味わいを生かすため、ペーパーコードはそのまま。

    より年代の古いものを集めた、中2階のコーナー。古いものほどオリジナルの姿を留めています。

    ヴィンテージのセブンチェアは側面の小口が手仕事により丸くカーブしていて、現行品より薄い仕上がり。

    アラビアの陶器やキッチンツールなどの小物も揃います。現地のヴィンテージショップのような雰囲気。

    整然とヴィンテージ家具が積み上げられた、圧巻の品揃えです。

    最後に、ヴィンテージ家具の手入れについて聞いてみました。「気兼ねなく使って、半年に1度くらい、オイルを塗布すると良いですね。汚れは中性洗剤をスポンジで泡立てて洗い、その後しっかり水拭きをしてください」とのこと。不具合や破損には出張メンテナンスにも対応してくれるそう。きちんと手入れをして、雰囲気の良い家具に育てるのも、楽しみのひとつです。

    現代の住宅に合うモダンなデザインでありながら、自然素材の心地良さややわらかさをあわせもった北欧の家具。同じ木の文化を持つ日本の住宅にも合い、過度に主張することのない控え目なデザインは他のアイテムともコーディネートしやすいものです。厳しい自然の中で、家の中の生活を大事にする北欧で育まれた家具は、暮らしに目を向ける現代の感性にフィットするのかもしれません。そうした現地のライフスタイルを受け継ぐヴィンテージ家具を、お店で探してみませんか。

    北欧家具talo

    神奈川県伊勢原市小稲葉2136-1
    TEL:0463-80-9700
    営業時間:10時~19時
    定休日:火
    http://www.talo.tv/