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ものづくりの根源は、見えないものへの想像力。
久保ガエタンが6歳の時に亡くなった曽祖父は第二次世界大戦時、駆逐艦に乗っていた海軍の軍人だった。長じてそのことを知った彼は曽祖父について知るべく、調査を開始する。「日本人の父とフランス人の母をもつ自分のアイデンティティやルーツを探求したい、過去を知りたいという思いもありました」と久保は言う。
調べると、曽祖父が乗っていた駆逐艦「梨」は終戦直前に米軍が撃沈、鉄くずとして再利用するため9年後に引き上げられたが状態がよかったため修理され、自衛艦として1972年まで使用されたことがわかった。個人のルーツを探ったら、思いがけない軍艦の歴史が浮かび上がってきたのだ。ICCで開催中の久保の『破壊始建設』展は、「梨」と曽祖父に関する映像や模型などを展示している。「曽祖父は生前、戦争の話をほとんどしませんでした。僕が作品をつくらなければ子孫が『梨』の数奇な運命を知ることもなかったかも。僕のアートは歴史の点をつなぐ、見えなくなってしまった糸を結ぶようなものなんです」
溶かして再利用できる金属は時代の要請によって姿を変える。戦時中の日本では、家庭や企業から金属を供出させ兵器にした。が、終戦後には日本軍の薬莢(やっきょう)を溶かして五十銭硬貨にしている。『破壊始建設』には五十銭硬貨と、それを溶かして久保がつくった薬莢型のオブジェが並ぶ。「家庭から出た金属が兵器になってまた家庭に戻る、という循環するプロセスをカタチにしました」
薬莢だけでなく「梨」以外の戦艦は住宅などに転用された。東京タワーの一部も、戦後、米軍から放出された戦車を使ってつくられた。これらの解体に携わった一人は「破壊は建設の始まりだ」と言った。戦後日本の基礎は、戦争に使われたものを解体し再利用することで築かれた。展覧会タイトルは、この言葉を引用している。久保はまた、「見えないものを可視化することにも興味がある」と言う。ポルターガイストなどオカルトや心霊現象を扱う作品は、そのコンセプトに基づいている。「見えないものへの想像力は、ものをつくる根源に近いものがあると思う」
「見えないもの」の探求は、切れた歴史の糸をつなぐ作業にも似ている。人の心が見えないものを可視化し、また見えなくする。歴史や社会の新たな見方を提示するアートだ。
前回の個展、『記憶の遠近法』のダイアグラム。歴史上の点をつなぐ、見えなくなってしまった糸を可視化する。
『破壊始建設/Research & Destroy』。曽祖父が軍人だったことを知るきっかけになった、軍艦の模型から着想した作品。写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター ICC 撮影:木奥恵三