自分にしか見えないものを、 どうデザインするのか。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    猪飼尚司・文
    text by Hisashi Ikai

    自分にしか見えないものを、 どうデザインするのか。

    三澤 遥Haruka Misawa
    日本デザインセンター 三澤デザイン研究室 室長/デザイナー
    1982年、群馬県生まれ。2005年、武蔵野美術大学を卒業。nendoを経て09年より日本デザインセンターに勤務。14年同社にて三澤デザイン研究室を開く。これまでのおもな仕事に、「KITTE 丸の内」VIやエントランスサインを手がけるほか、上野動物園「UENO PLANET」などがある。

    日本を代表するグラフィック・デザイナー原研哉のもとで6年間アシスタントを務め、1年半前に念願の自身の研究室を日本デザインセンター内に開設した三澤遥。同社に勤める以前は、建築やプロダクトデザインを目指しており、nendoの佐藤オオキのもとで経験を積んだこともあるユニークなキャリアのもち主だ。「グラフィック・デザインは表層的な格好よさだけを求めているように思われがちです。しかし、私が日本デザインセンターに入り、展覧会の企画チームで実感したのは、グラフィックが単に平面をデザインするだけでなく、思考を構築し、それを具体的なかたちで空間に展開したり、イベントを運営したりと、さまざまに広がっていく可能性をもつものということでした」

    同社で研究室をもつのは、社内にいながらにして独立起業することを示す。31歳での〝独立〞は、覚悟を決めてのことだったが、地道に田畑を耕すような毎日の始まりだった。「研究所発足当初は、所員は私ひとりだけでした。クライアント探しから細かな準備作業まで、すべて自分でこなさなければならず、いままでどれほど恵まれた環境で仕事してきたかを思い知りました」

    そんな状況下で手がけたのが、上野動物園の「真夏の夜の動物園」の告知の仕事だった。「夜の動物園は10年以上続いていた魅力的なプロジェクト。子どもだけじゃなく大人たちにも、もっとその面白さを広く知ってもらいたかった」。彼女は、夜の園内でじっとこちらを見据えるハシビロコウが「おしずかに」と語りかけるポスターを制作。これが話題となり、入場者数は前年を大幅に上回り、それ以来、上野動物園と継続的に仕事をするきっかけになった。

    「ひとりになって、自分ができることがようやくわかった気がします。自分でなければ聞こえない声や見えない像を、どうすれば人に伝えることができるか。そう考えるようになりました」同時に周囲のサポートがどれだけ必要かも知ったという三澤。ゼロ地点からの再出発だったからこそ、微細な発見が大きな価値に発展する可能性を秘めていると信じている。「一度カラカラに乾燥したスポンジになったような感じです。水を吸い上げる機会をもらえること自体がありがたい。あらゆることを、ますます吸収していきたいと思います」

    works

    「知らなかった上野動物園」をテーマに、園内の動植物の未知なる魅力を掘り下げたポスター「UENO PLANET」。

    小学生時代から魚を飼ってきた三澤。「waterscape」では、魚に喜んでもらえる空間とはなにかを考えつつ、水槽をデザイン。
    photo: Masayuki Hayashi

    ※Pen本誌より転載