豊潤な創造力が生む、エモーショナルな音世界。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    三宅正一・文
    text by Shoichi Miyake

    豊潤な創造力が生む、エモーショナルな音世界。

    世武裕子sébuhiroko
    シンガーソングライター/劇伴作曲家
    1983年、滋賀県生まれ。パリ・エコールノルマル音楽院映画音楽作曲科を卒業後、数多くの映画音楽を手がけるガブリエル・ヤレドに師事。帰国後はオリジナル作品のみならず、映画の劇伴やCM音楽の作曲家としても注目を集める。近年はチャットモンチーのサポートメンバーも務める。

    sébuhiroko。日本の音楽シーンを見渡した時に、彼女の存在は実に稀有だ。豊潤な創造力とゆるぎない技巧力を兼ね備えたそのアーティスト性は、最新オリジナル作品『WONDERLAND』でも遺憾なく発揮され、またエモーショナルなライブパフォーマンスでは、オーディエンスを圧倒し魅了する。さらに彼女は映画やテレビドラマの劇伴、CM音楽を手がける作曲家としても高い評価を得ている。「私は常に客観的に音楽をつくっていて。劇伴制作の際はストーリーの主人公に自分を憑依させるんです。ライブでは〝アーティスト・世武裕子〞を設定して、そこに向かう。そういう感覚も映画音楽の影響ですね」 

    小学生の時に観た映画『ジュラシック・パーク』で、巨匠 ジョン・ウィリアムズが手がけた映画音楽に興味をかきたてられた。それ以前に、彼女にとってピアノを弾くという行為は生活のすべてだった。画家や映画監督を夢見た時期もあったが、彼女の音楽的な才能に心酔していた母がそれを許さなかった。「当時はなんて不幸な人生だと思っていましたよ(笑)」と回想するが、彼女自身もまたプロの音楽家になることが、自らに課せられた人生の義務だと受忍した。そして、20代前半で渡仏し、パリ・エコールノルマル音楽院映画音楽作曲科に入学。

    「フランスにいた4年間は、生まれて初めて自由になって、ひとりの人間として再スタートを切るような感じでした。だから音楽のみならず、語学も文化もいろんなことを吸収できたんです。それが本当に幸せでした。いつかパリで、現地の映画音楽を担当したいという夢をもっています。その一方で、フランスから帰国して最近までずっと求めていたのは大衆性だったんですよね。〝アカデミックに音楽を学んだ人〞というパブリックイメージを壊したくて。大衆性とは何かを見つめる意味でも昨年、月9ドラマ(フジテレビ系『恋仲』)の劇伴を制作したことはとても大きな経験でした」 

    現在、33歳。sébuhirokoの音楽人生は、ここからさらにシアトリカルなストーリーを紡いでいくだろう。「ここ1年ほどで腹をくくったというか、自分には音楽しかないという思いが強くなりました。〝仕事と女性としての幸せ〞みたいな価値観の中でずっと葛藤していたんですが、いまはそこから抜け出せて、より音楽と一体化している自分がいるんです」

    works

    要塞のごとく並ぶ複数の鍵盤楽器を自在に操りながら、出色の歌唱力を放つライブパフォーマンスがファンタジックな空間を生む。photo:Tetsuya Yamakawa

    最新オリジナル作品『WONDERLAND』では、ジャンルの記号性にとらわれない独創的なポップミュージック像をリスナーに提示した。

    ※Pen本誌より転載