土地に根ざした暮らしの街、東川の魅力を探る。

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    写真:永井泰史 文:小川 彩

    #16土地に根ざした暮らしの街、東川の魅力を探る。

    東川町の市街地からクルマで十数分。森に寄り添うように立つ「北の住まい設計社」のショールーム。物語から抜け出てきたような暮らしに見えるかもしれませんが、ここではこの美しい風景が日常です。

    本誌7月1日発売号の特集は「北海道へ、夏の旅。」と題し、北海道全域を紹介しています。抜けるような青空の表紙を眺めながら、旅を思い描く方も多いのではないでしょうか。この連載でも、北海道上川郡東川町と旭川市内にあるショップを2度にわたり紹介します。

    今回は東川町から2つのショップを案内。旭川とともに家具づくりを行い、「東川国際写真フェスティバル」を開催するなど写真の町としても知られる東川。この町を訪れると目に飛び込むのは、美しい大雪山の姿です。この山の麓という豊かな環境が、自然とともに日々を楽しむというカルチャーを育てているようです。この小さな町が発信力をもつ背景には、それぞれのライフスタイルをしっかりともった町の人たちの魅力が大きいのかもしれません。

    最初に訪ねた「北の住まい設計社」は、その魅力を放つ一番星のような存在。オーナーの渡邊泰延さんと雅美さん夫妻は1985年に旭川から東川に移り住み、その後この町で家具の工房とインテリアショップを始めました。東川町にある本社では現在、家具づくり、インテリアショップ、住宅設計、そしてカフェとギャラリーを展開しています。

    オリジナル家具が並ぶ2階。ナラやイタヤカエデなどの広葉樹材を中心に使い、オイルフィニッシュ、ソープフィニッシュ、そして天然素材ベースの着色塗料・エッグテンペラで仕上げています。

    リトアニアのバスケットなど、生活のシーンにちょっとしたアクセントを加えるアイテムを発見できる1階。ガーデニングツールなども、しっかり使えて様になるものが揃います。

    渡邊さんたちが北欧で出会ったスウェーデンの陶芸家、カッレ・フォシュベリの作品。すっきりとしたシンプルなフォルムに温かみを感じる日常使いの器です。器はさまざまな視点でフェアを行っており、常に充実。

    もともとインテリアデザイナーだった恭延さんとグラフィックデザインと企画の仕事をしていた雅美さん。旭川に住んでいた頃、恭延さんはせっかく空間を設計してもその寿命が短く、長く残らない仕事を続けることに疑問をもっていたといいます。「自分たちが良いと思うものを、自分たちの目線で紹介する場をもちたい」と感じたふたりは、東川町でまず家具づくりからスタートしました。当初から「衣・食・住」を意識していたという雅美さん。二人の目線は家具だけでなく生活する上で必要な雑貨、そして自社の家具が収まるのにふさわしい木の家、そして健康を支える美味しい食材へと自然に広がっていきます。

    「大切にしてきたことは、長く使いつづけることができるものづくりともの選び。工房とショップでの営みを通じて次の世代を大切にすることにつなげていきたいんです」と雅美さんは言います。ショップには、ガーデニング、キッチン、ダイニングなど、生活のシーンごとに夫妻がスタッフとともにセレクトしてきたアイテムが並びます。北海道も北欧と同じように長い冬を室内で過ごすからでしょうか。暮らしのアクティビティをしっかり支えてくれるツールが充実しているのはもちろんのこと、インテリアに置かれた時にシンプルで飽きのこないもの、長く暮らしに寄り添うものを、というメッセージが心地よく伝わってきます。

    廃校になった木造の旧東川第五小学校の建物。渡邊さんたちにとって家具作りをスタートした記念すべき場所です。現在は工房の一角に、予約制のギャラリー「K’s gallery」を設けています。

    K’s galleryでは現在「Made in Hokkaido」と題して、パートナー企業の製材所・鈴木木材が10年近く大切にしてきた、北海道産のイタヤカエデ、ニレ、シナなどの天板を使ったテーブルを展示中です。

    昨年から北の住まい設計社では輸入材の使用をやめ、すべての家具の材料を道産材に切り替えることができました。これも一朝一夕でできることではなく、北海道で思いを持って道産材を伐採して製材してきた厚沢部(あっさぶ)町の製材所との取り組みがあったからこそ。現在は家具工房に併設の「K’s Gallery」にて、地元の材のみで天板を仕上げたテーブルの企画展を開催しています。壁には製材所の仕事を紹介する写真も展示されていて、北海道の森林を循環させて豊かな土地を残したい、という両者のメッセージが伝わってきます。

    樹皮を生かしたソープフィニッシュのシナ材のテーブルは、マットな質感と肌色が美しく、無垢材のダイニングチェアにももちろん、エッグテンペラで丁寧に着色したオリジナルのグレイスチェアともしっくり馴染んでいました。天板は無垢のままで、脚のみ着色を施したものも表情に変化があって素敵です。テーブルだけでなく、椅子やシェルフなど、渡邊さんたちが手がける家具すべてに共通しているのが木の家具で潤いのある暮らしのシーンをつくること。シンプルなフォルムにやさしさがあり、ひとつ、ふたつと手もちの家具に加えても馴染んでくれそう。そんなしなやかさとつつましさも北欧家具と共通する点かもしれません。

    広々としたショールームには森を眺めながら美味しいケーキやランチをいただけるカフェも併設されています。木の家具を探す旅をお考えでしたら、ぜひゆっくりと時間をとってお出かけください。

    日本各地から人々が通う、居心地の良い店とカフェ。

    Less Higashikawaの店内。Chacoliのトートバッグのかかった壁奥のデスクが浜辺さんの定位置。手前のソファに座って話し込んでいると、つい長居をしてしまいます。

    同じ東川町の幹線道路沿い、薬局のユニークな木製看板が見えたら、その隣が目指す「Less Higashikawa」です。オーナーの浜辺令さんは、旭川でお店をオープンしてから8年後の2012年に、故郷の東川町にこのショップをつくりました。冒頭の薬局は実は実家。地元の男性が集っていた隣の囲碁会館が取り壊されることを知り、慣れ親しんだ古い2階建の建物を惜しみ、買い取ってお店にリノベーションしたそうです。いまでは東川に移り住んで、2店舗の運営とカフェ、そしてインテリア設計の仕事を手がけています。

    「東川は水の町。大雪山系のきれいな伏流水を各家庭が使えるんですよ」と東川の自然の素晴らしさを話します。浜辺さんが町の暮らしを楽しんでいるからでしょう。つながりのあるショップのオーナーたちも東川の魅力と浜辺さんの人柄に惹かれて全国から遊びに来て、ショップインショップイベントも開催してしまうという構図になっているようです。

    アイウエア、ミラー、ガラスの作品、フレームなど、作家やメーカーと交流しつつ吟味してきたもの。テーブルは東京・中目黒のhikeオリジナルのマウンテンテーブル。Lessの風景によく似合います。

    福岡で原種のランを専門に扱うプラセールワークショップのオリジナル、ラン専用の素焼きポット。直置きも可能で、いくつもつなげて吊るとユニークな表情に。室内なら通年育てられるところも気に入っているそう。

    なんてことのないお土産を真剣に良い素材でつくる「勝手にお土産プロジェクト」のひとつ。鹿児島の磁器ブランドONE KILNに依頼してつくった東川バッジ。文字の下に配しているのはアイヌの伝統的なモチーフ。

    シェルフに何気なく置かれたガラスの作品は、カリフォルニアの作家、ケイレブ・シーモンによるもの。土地の力を感じる作品は、東川の空気感とも繋がっているようです。

    家具、器、グローサリー、ファッションアイテムからアートピースまで。店内にディスプレイされたアイテムをじっくりと眺めていると、浜辺さんが交流してきた他の地域のオーナーたちや作家が身近に感じるから不思議です。「つくり手に会ったら、パッと見て直感で決めます」という基準だそうですが、その後の交流を大切にしているからこそ、さまざまなクリエイターたちが浜辺さんを訪ねてくるに違いありません。

    家具の町でもある東川に店を構えたため、家具工場を探している知人の相談に乗ることもあるそうです。東京・中目黒のhikeもそのひとつ。雪山好きのオーナー・須磨光央さんとの交流から、東川でhikeのオリジナル家具・マウンテンテーブル、ベンチがつくられるようになったそうです。Lessではこのシリーズを特別に販売しています。

    また、2年前から道内の小さなショップ店主で行商し合うマーケットイベント「LOCALS」を中標津(なかしべつ)町や帯広市、根室市のショップオーナーたちと主宰。訪れたお客さんとものを通してコミュニケーションすることを心から楽しむ気持ちに立ち返りながら、ライフスタイルを楽しむカルチャーを道内で育てようとしているのです。

    ON THE TABEL店内。ポークジンジャーやグリーンカレーなど、スパイスやハーブの効いた定番メニューは野菜もボリュームもしっかり。コーヒーは旭川の名店「珈琲亭ちろる」のブレンドを使っています。

    2階にはカフェ「ON THE TABLE」を作りました。こちらの内装や家具は、交流の深い東京・千駄ケ谷のランドスケーププロダクツに依頼したもの。木のロングテーブルにはふらりと一人でランチを食べる地元の女性が腰かけていたり、旅行客のカップルがカウンターでコーヒーとケーキを楽しんだり。小さな町のカフェがまるでロードムービーのワンシーンのような風景になるのも、浜辺さんの大らかさと東川町のなせるマジックでしょうか。

    ここでは企画展に併せて各地の料理人たちがやってきてポップアップレストランのイベントを年に数回開催しています。来月は人気のナチュラルワインレストランを招いたイベントも。食を軸とした新たな交流が、浜辺さんのペースで東川に根付いていきそうです。「今後、ナチュラルワインも販売しますので、セラーを1階のショップに設置する予定なんですよ」という浜辺さん。ますますディープで楽しい時間がLess Higashikawaに流れるに違いありません。さらに次回も東川町と旭川市からそれぞれ1軒ずつ、独自のスタイルを大切にしているショップをご紹介します。

    北の住まい設計社 東川ショールーム

    北海道上川郡東川町東7号北7線
    TEL:0166-82-4556
    営業時間:10時~18時
    定休日:水曜日
    www.kitanosumaisekkeisha.com

    Less Higashikawa

    北海道上川郡東川町南町1-1-6
    TEL:0166-73-6325
    営業時間:11時~18時
    定休日:水曜日
    http://less-style.net/