機能もデザインも、アナログな進化を遂げた最新機。

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    機能もデザインも、アナログな進化を遂げた最新機。

    写真のシルバー×ブラックのほかオールブラックも展開。レンズキット(12㎜ F2.0)実勢価格¥220,000

    クラシカルな美の雰囲気をもったカメラ、PEN-F。かつてのオリンパスのハーフサイズの名機の名前と形を継ぐスタイルだ。旧型は、フィルム巻き戻しダイヤルがひとつだけであとはフラットだったが、新PEN-Fは露出補正、シャッター部、モード変更……など、なんと6つもダイヤルがある。前面にもひとつ大事なダイヤルがある。こんなにダイヤル数が多いと、凡庸なデザインでは視覚的にも操作的にも混乱するばかりだが、デザイナーはいい仕事をした。ひと目で使いたいダイヤルがわかり、凸凹がすごく多いのに説得力のある整然さを見せるのである。 

    デザインの仕掛けの第1が、「丸」。ダイヤルが○なのは当たり前だが、そのほかのデザイン要素もすべて「丸」なのだ。ボタンは大小すべてが丸く、有機EL電子ビューファインダーも画面は四角なのに外観は丸、設定用の十字キーも丸……なのである。すべて形が「丸」だから、デザイン的な統一感が濃い。丸の集合は、PEN-Fに古典カメラ的な上質なイメージを与えている。カメラにはさまざまな「美」があるが、PEN-Fは、多数の機能が集合する美しさだ。しかも、その形は冷たくメカニカルなエンジニアリング的なものではなく、「写真を撮る」というきわめて人間的な行為をさらにさらに誘発する、「写欲」なスタイリングであり、フィーリングなのだ。 

    アナログ時代は、写真の趣味性が花開いた時代だった。フィルムはコダックのコダクロームか、エクタクロームか。撮影時にフィルターを使い、望みの画調を得た。現像や焼付けを自分で行い、印画紙の回りを覆って額縁効果を与えた……など。かつてのクリエイティブな息吹をPEN-Fはデジタルで、しかも、撮影現場でファインダーやモニターを見ながら、見事に復活させた。前面のクリエイティブダイヤルと背面と前面のふたつのモードダイヤルの組み合わせで、驚くほど多数、多彩な絵づくりを可能にしたのである。たとえばモノクロは、カラーという現実的な装飾が外れるから、ものの本質が峻厳に現れる。

    それなら……とPEN-Fは考えた。単に白黒が撮れるだけでなく、より創造性が発揮できないか。そこで発想したのが、白黒フィルムに赤や緑のフィルターをかけ、補色効果を与える過去の手法だ。フィルム時代の、木の緑を背景に人物を撮影する時に赤色フィルターを使用して、背景を落とし、人物を強調するハイコントラストの写真を撮るというテクニックをデジタルで実現した。クラシカルな形とクラシカルな機能、そしてモダンなテクノロジー。さまざまな意味でアナログを目指した、デジタルの精華だ。

    自在に動くモニター。そのまま裏返してボディに納めれば、クラシックカメラのようにモニターレスなカメラに。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据え、巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)『パナソニックの3D大戦略』(日経BP)がある。
    ※Pen本誌より転載