工芸的な仕上げを楽しむ、サードウェーブな灯り。

    Share:
    写真:永井泰史 文:小川 彩

    #15工芸的な仕上げを楽しむ、サードウェーブな灯り。

    ガラスドームのゆらぎが美しいテーブルランプ「R2」。ソケットは真鍮を削り出し、台座と熱抜きの蓋はオーク製。右から「R2」ブラウン(φ21.8×H41.6cm)¥105,840、「R2_mini」グレイ(φ17×H31cm)¥84,240

    アーティストやデザイナーによるユニークピースや工芸的なプロダクトを積極的に提案するインテリアショップ「シボネ」で、昨年12月に発表された「NEW LIGHT POTTERY」の照明器具の販売をスタートしました。NEW LIGHT POTTERYとは、永冨裕幸さんと奈良千寿さん夫妻による照明器具のデザインや照明計画を行うスタジオとブランドの名称。金属・革・ガラス・石などの素材を使ったソリッドな魅力が注目を集めています。

    「LIGHTというマスプロダクトとPOTTERYというクラフトを象徴する言葉は対極にありますが、僕たちの理想は手の痕跡が残るようなものづくり。つまり照明器具に必要なマスプロダクトと、自分たちが好きなクラフトのちょうど中間地点にあるものをつくりたくてこの名前をつけたのです」と語るふたりの生み出す灯りは、工業製品としての精度の高さと工芸的な質感の絶妙なバランスが魅力的です。

    富山・高岡の能作で作った鋳物を削り出したシリーズ「Bullet」。右からBullet round shade、Bullet、Bullet flat shade、Bullet small。漆などで着色塗装したblackも全型で展開。¥12,960〜

    真鍮のBulletシリーズは表面の仕上げ加工をせず、無垢のままなので、年月とともに味わいが増す楽しさも。器具自体の重みでコードがピンと張り、設置した状態も美しいのです。

    照明でも家具でも器でも、マスプロダクトと作家ものを自宅兼スタジオでバランスよく楽しむ二人にとって照明器具も同じこと。「自宅で使いたいかどうか」が、デザインの判断基準となるそうです。その発想から生まれた冒頭のテーブルランプ「R2」は、自宅のキッチンからリビングまで伸びる長いモルタルカウンターの端に、存在感ある照明が欲しくてデザインしたものといいます。大阪の職人による手吹きガラスのドーム、鹿児島の木工家・盛永省治さんにオークを挽いてもらった台座と熱抜きの蓋、真鍮鋳物の削り出しのソケット、と手仕事の数々が組み合わせられたもの。ガラスはブラウン、グレー、ピンク、イエローの4色を定番として展開。フィラメントの光が映し出すガラスの色と陰影は、眺めているだけで心地よくなってきます。

    自宅で使うもうひとつの器具「Bulletシリーズ」は、富山県高岡市の金物メーカー、能作の協力を得て金型を起こし、真鍮鋳物削出し仕上げでつくりました。金属の塊から光がこぼれ落ちるようなシンプルなデザインは、しっかりと重みのある質感を出しながら、使いやすい価格帯のプロダクトとして完成しています。

    ネイティブアメリカンの移動式住居の形から命名したペンダントランプ「Tipi」(φ36×H24)¥62,640。シボのある一枚革をイチョウ型に2枚切り出して、真鍮製リベットを打っています。

    スズランの花の形のような「Lily」(φ18×H25)¥51,840。マウスブロウ仕上げのガラスシェードは、手前の乳白色のほか、グレイ、ブラウン、クリアの全4色。

    ガラスや真鍮のほか、永冨さんがトライしたかった素材が革。パーツとして器具の一部に革を使った事はありましたが、思い切ってシェードにしてみたのが「Tipi」です。シボの風合いが気に入って牛革をセレクトし、ハリを出すために芯材を入れてから2枚合わせにして縫製、リベット打ちをしているそう。やわらかい素材だから光源は20wと低めですが、ほのかな明るさは素材の雰囲気にふさわしく感じます。

    また今回のラインナップには、二人がさまざまな商業空間や住宅などの照明計画に携わるなかでデザインした特注照明を原型とするものもあります。たとえば「Lily」は、とあるプロジェクトで制作した直径150cmのシャンデリアから派生したプロダクト。ランダムに配置した手吹きガラスのシェードのフォルムが美しく、そのままペンダントランプにしたそうです。プレーンなクリア、乳白色のほか、シックなグレーやブラウンのシェードも落ち着きのある光を放ちます。

    質感ある照明で、じっくりと光を眺めて過ごす時間を。

    金継ぎが趣味という奈良さん自身が、磁器製シェードを一つひとつ割り、金継ぎをスタジオで手がけている「Kintsugi」(φ15×H13)¥45,360。まさに、文字通りのハンドメイドランプです。

    リビングにオブジェとして飾りたい、大理石の台座に真鍮が象嵌されたテーブルランプの「Vessel」(W35×D15×31.5cm)¥162,000。削り出したアクリルの下にLEDが仕込まれています。

    素材からだけでなく、技法からデザインを発想することも多いそう 。たとえば「Kintsugi」は、ふたりが日本旅館のプロジェクトに携わっている時に生まれたもの。割れた陶磁器を金継ぎして美を見出すという、手をかけてマイナスをプラスに転ずる日本的な考えを表現したかったといいます。多治見市の工場で鋳込み成形で仕上げたシェードは、乾燥時に少し歪みをつくることで揺らぎを出し、スタジオで奈良さん自身が割り、そのあとに金継ぎをして完成させます。一方で「Vessel」は、永冨さんが駅舎やビルで見かける大理石に真鍮を象嵌したテクスチャーに惹かれてデザインしたオブジェ的な照明。

    パーツの素材ごとに工場を選び、職人と手の痕跡の残すバランスを共有して生まれる「照明メーカーのサードウェーブ」。永冨さんは自身のスタイルをこう表現します。そこから、大手メーカーの照明にはない質感や密度が生まれるのかもしれません。

    「Vessel」と「R2」を発展させたアートピース。ランプの熱で真鍮の羽を回転させる仕組み。今春、大阪の名村造船所跡で開催されたイベント「APARTMENT」で発表しました。

    シボネでは、「NEW LIGHT POTTERY」のアートピースをのぞく、すべてのラインアップ購入可。ネットではすべて閲覧が可能、店頭では一部製品を手にすることができます。

    光源は、手に入れやすいE26かE17のクリア電球、もしくはLED電球が使える仕様。「電球が剥き出しになるものは60W、シェードで光が拡散されるなら20wくらいで充分。小ぶりなBulletシリーズなどは、いくつも並べて照度を上げてもきれいです」と、奈良さんからのアドバイス。「メーカーに在籍して照明計画をしていた時、人が長時間滞在する空間ほど照明の重要度が増すことを感じていました。だから究極はホームユースということですよね。質感のある照明を選んで、じっくりと光を眺めて過ごす時間を、生活の中で感じていただきたいんです」と永冨さんは続けます。

    今後はコンセントを差し込めばどこでも使え、ペンダントランプと併用できるフロアランプやテーブルランプのバリエーションも増やしていきたいそう。素材を楽しむ照明器具の存在感、そこで灯される豊かな光をぜひ感じてください。

    奈良のオフィスをベースに活動をしている永冨裕幸さんと奈良千寿さん夫妻。作品に触れてもらう場として、自宅に併設したギャラリーを夏ごろにオープンする予定です。

    CIBONE Aoyama

    東京都港区南青山2-27-25 オリックス南青山ビル2F
    TEL:03-3475-8017
    営業時間:11時~21時
    www.cibone.com

    NEW LIGHT POTTERY

    奈良県生駒市西松ヶ丘5-18
    TEL:0743-20-7229
    www.newlightpottery.com
    ※予約制