マニュアルな手ごたえを感じて、心こもった一杯を。
誰もが最初は思うだろう。何て大仰なマシンなのだと。まるで井戸水をくみ上げる手押しポンプを思わせるレバーに、大きなガラスの水タンク。これがコーヒーマシンだとは!しかもこの「ブロッサム ワン ブルワー」を生み出したのが、サンフランシスコの2人のエンジニア――そのうちひとりはマサチューセッツ工科大学卒でアップルやテスラに勤務していたのだ――と聞いたら、不思議な気持ちはさらに高まるかもしれない。
だがこのマシンで淹れたコーヒーを1杯飲めば、その理想的な味わいに納得するはずだ。
彼らが注目したのは、コーヒーの味や香りを左右するのは抽出時の豆の温度だということ。抽出中に温度が下がってしまわないように「抽出する部分」の温度管理をソフトウェアによって行うようにしているため、いつも同じ味になり、豆の味をしっかりと出せる。ステンレスのメッシュフィルターに、科学研究室で使われている厚手の円形ろ紙を組み合わせているところなど、いかにもエンジニアらしい。
取材のこの日、セレクトした豆に合った温度は87℃。210㏄の抽出量に対し、22gの豆をやや細挽きにしたものを抽出ユニットに入れ、スイッチを入れると、設定温度のお湯が注がれる(常にユニット内はこの温度を保つのがポイント)。ここですぐにかき混ぜ、30秒ほど蒸らした後、再びかき混ぜる。浮いてしまいがちなコーヒーの粉を撹拌し、全体にまんべんなくいきわたらせるのだ。マシンの指示に従って約20秒かけてプレスすれば抽出完了だ。
こう書くと気難しいマシンに感じられるかもしれない。だが湯量や蒸らし時間はマシンが調整し、手作業をすべきタイミングは合図を送ってくれるのだから決して難しいことはないのだ。ボタンひとつで完璧なコーヒーを淹れるというような“全自動” とは違い、1杯のコーヒーのためにマシンと真摯に向き合い、自らが“関わる”ということの楽しさに気づかせてくれるのも、このブロッサム ワン ブルワーならではの魅力といえるだろう。プレスする際には、馥郁(ふくいく)としたコーヒー豆たちの温もりが手のひらに伝わってくるようで、ひと際、愛着が感じられる瞬間だ。
実はこのマシンのデザインは、独創的なティーポットやスピーカーなどで知られる、工業デザイナーのジョーイ・ロスが担当している。水タンクのふたはアルミの削り出しにアルマイト処理が施され、重厚な仕上がり。ダイヤルも総アルミというこだわり具合だ。マシンの背中に描かれた5枚の花弁とblossomの文字も美しく、心躍る。
ひとりで使うのはもったいない。大切な人や友人を招いて、抽出の過程を披露しながら飛び切りの1杯をみんなで味わいたい。
米西海岸のカフェでは背面を客側に向けてカウンターに設置するので、背面のデザインにもこだわっている。