京都の夜をアツく盛り上げる、個性派酒場4軒。

  • 写真:内藤貞保
  • 文:小長谷奈都子
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京都の夜を楽しむなら、気張った店でなく、地元の人が肩肘はらずに通うような場所がいい。いま街に急増しているのが、料理もお酒も居心地も抜群の、おいしく楽しくゴキゲンに飲める店。舌の肥えた手練れたちもたちまちトリコにしてしまう、注目の4軒を紹介しよう。

片っ端から頼みたくなる魅惑のアラカルトメニューに、呑兵衛ごころをくすぐるお酒のラインナップ、そしてリラックスできる心地いい空間。それが京都の酒場ラバーたちが夢中になっているいまどき人気店の共通項。今回ピックアップしたのは、2019年から2020年にかけてオープンした個性あふれる4軒。奥のシェフズテーブルから運ばれる本格バスク料理をいただける気軽なスペインバルや、枠にとらわれない新機軸で攻める繁盛店の次なる一手、凱旋シェフの絶品炭火焼きと自然派ワインのマリアージュを楽しめる町家空間。料理にも空間にも店主の愛や熱い思いが満ち満ちて、客はたちまち上機嫌になってしまう。だからどこも連日満席御礼は当たり前。倍率の高い席をキープするには、早めの予約を心がけたし!

【エンカ】バルの気軽さで、洗練された料理を楽しめる贅沢。

気さくな店主を囲むL字型のカウンターで、知らない客同士でも自然と会話が生まれる。奥の棚にはイタリア製の本格エスプレッソマシンを設置。「カフェだけの利用もどうぞ」とのこと。

居酒屋や焼き鳥、お好み焼きなど、地元で愛される人気店が集う川端二条エリアに、2020年9月オープン。カラフルな壁が印象的なカウンターメインの空間で、スペイン・バスク地方の料理をアテに飲める気軽なバル。といっても、店の奥に併設したシェフズテーブルと同じキッチンから生まれる料理の数々はいずれも本格派。生ハム盛り合わせやトルティージャといった定番の前菜から、バスク風ソーセージのチストーラ、ニンニクオイルで魚介をさっと炒めるビルバイーナなど、気になるメニューがいろいろ。なかでもぜひオーダーしてほしいのがスペシャリテのアサード(asado)料理。スペイン語で「焼く」を意味し、厳選した魚介や肉を薪火の絶妙な火入れで仕上げたものだ。いまの時期なら比内鶏や、鹿、鴨などのジビエが登場。お酒はクラフトビールやワインのほか、ウィスキーのオールドボトルも充実の品揃え。店主・坂井希美さんの明るい笑顔に、初めてでもたちまち寛げるはず。

チストーラは、豚肉と赤ピーマン、ニンニクで作るソーセージ。腸詰めせず、カスエラという素焼きの耐熱皿に入れてオーブンで焼くのがエンカ流。「チストーラ(ザワークラウト付き)」¥800(税込)、 バスク地方の微発泡性ワイン「チャコリ」¥600(税込)
薪火で表面はパリッと中はレアに仕上げ、紅芯大根のマリネを添えた「鰤」¥800(税込)。外側は香ばしく、中はしっとりの自家製チャバタが料理に添えられる。
徳島の「たむらのタマゴ(濃密)」を使って焼き上げる上げスペイン風オムレツも必食。この日は白子入りでふわふわとろとろの食感。「トルティージャ」¥600(税込)
料理もお酒も黒板メニューから。ともにオープン当初から品数が増え、さらに楽しく。薪焼きの鰤カマやクエに冷酒を合わせたいという客のリクエストで冷酒も置くようになったそう。
ずらりと並ぶウィスキーのオールドボトルやリキュール。アペリティフや2軒目使いも。
場所は川端二条を東に入ってすぐの南側。大きな鶏のオブジェを目印に。

エンカ
京都府京都市左京区大菊町96-5
TEL:なし
営業時間:17時〜不定
不定休
※予約は下記メールアドレスまたはインスタグラムから
encaenca.0914@gmail.com
www.instagram.com/enca6914/

【乍旨司】巻き寿司×燗酒という新境地に酔いしれる。

時季と仕入れによって内容が変わる「造り三種盛り」¥2,000(税込)、日本酒は150cc¥700(税込)〜。燗付けはぬる燗から飛び切り燗まで好みに対応してくれる。

豊富な日本酒を揃える西院の「さかぶくろ」の姉妹店。カウンターの中で腕をふるうのは、「さかぶくろ」で料理長を務めていた、「乍旨司(さしす)」の庄子正将店長。実家が寿司屋だったこともあって、巻き寿司をつまみながら燗酒を飲むというスタイルを打ち出し、大ヒット。硬めに炊いて赤酢でスッキリ仕上げたシャリと旬のネタを、パリッと香り高い海苔で細巻きに。奈良県の「睡龍」「生酛のどぶ」、奥能登の「白菊」など、ドライでしっかりした味わいをメインに揃える日本酒との相性は抜群だ。こぼれんばかりにウニを盛った「なみだウニ」、いまが旬のコッペガニを丸ごと使った「コッペガニ」など贅沢で大胆な一品もあって、ひょいとつまんでくいっと飲む無限ループに誘われる。さらに、彩りも味わいも多彩な「アテ盛り」、醤油を使わずに野菜や薬味で食べさせる「造り三種盛り」といった必食メニューも。燗酒用に約30種、冷酒を約10種という品揃えは、半合から頼めるのであれこれペアリングを楽しみたい。

爽やかな刺激のワサビを巻いた“なみだ巻”にウニをたっぷり乗せた「なみだウニ」¥1,500(税込)
シメにも箸休めにもちょうどいい、砂糖と醤油だけで炊いた「カンピョウ巻」¥450(税込)
レトロな雰囲気の落ち着く店内。カウンター、テーブル席のほか、掘り炬燵の小上がりも。

乍旨司
京都府京都市中京区西尾大黒町336-10
TEL:075-744-6615
営業時間:17時〜23時L.O.
定休日:水

【トゥ】イタリアンと和が融合した創意に満ちたメニュー

ガーリックオイルと魚のアラとカツオの合わせ出汁でいただく「AOPボッタルガ素麺」¥1,320(税込)。甘味と酸味が強い、新潟の搾りたて生酒「イットキー」半合¥660(税込)

「フォアグラ最中」「真ダコと長芋の和え物 味噌シソベーゼ」「サルシッチャ麻婆豆腐」「鰤カツ 茗荷 すぐきのタルタル」……。食欲と想像をかきたてる創意に満ちたメニューがずらりと並ぶのは、御池間之町の居酒屋「トゥ」。日本の風土を大切にするイタリアン「フウド」の2号店。本店のDNAを受け継ぎながら、さらにボーダレスにカジュアルにイタリアンと和の融合を提案する。「枠やコンセプトに縛られず、自由に料理できるので面白い」と話す、レストランやカフェでキャリアを積んだ吉田伸介料理長。客席とフルフラットのオープンキッチンで手際よく料理する様子を間近に見ていると、まるで友人宅を訪れたような寛いだ心地に。「料理もお酒も種類があった方が楽しいから」と、お酒はビールからサワー、焼酎、クラフトジンと幅広く揃え、特にワインと日本酒のラインアップが充実。市場に出回らない希少な銘柄も多いので、お薦めを聞きながら一期一会の出合いを堪能しよう。

クーベルチュールチョコレートをひそませたレバーペーストを八ツ橋でサンドし、ウコンチップスをあしらったスペシャリテ「八To橋」¥550(税込)
食感と香りが絶妙な「ゴルゴンゾーラといぶりがっこのポテサラコロッケ」¥748(税込)
店内はコンパクトでアットホームな雰囲気。カウンターのほか、テーブル席とテラス席がある。

トゥ
京都府京都市中京区高田町500 ポポラーレ御池1F
TEL:075-708-3720
営業時間:17時〜23時L.O.
定休日:木、ほか不定休あり

【三本木商店】モダンな町家で炭火焼きと自然派ワインを堪能。

店で粗く挽いた京鴨を炭火焼きで。ジューシーな肉の旨味とスパイスの風味が広がるボリューム満点の一皿。「鴨の粗挽きハンバーグ」¥1,600(税込)。ワインはグラス¥900〜(税込)、ボトル¥4,500〜(税込)。ボトルの場合、セラーで好みのものを選べるのが楽しい。

オープン当初から京都のお酒好きの間で評判だったこちら。東京の炭火フレンチや自然派ワインバー、精肉店などで修業した河野文彦店主が、地元に戻って開いた炭火焼きの店だ。場所はかつて旅館や料亭が立ち並び、花街として栄えた三本木。祖父母が住んでいた築100年の町家をモダンに改修し、カウンター9席と大テーブルを設けた。メインは二種の炭を使い分けてじっくり火を入れる炭火焼き。「生産者の顔を見たり話をして、素材を厳選している」と話すように、肉も魚も野菜も一級品を全国から取り寄せ、素材の旨味を最大限に引き出す。加えて、20種ほどの前菜も油断大敵。ひと捻りあったり、組み合わせが絶妙だったりする上に、見た目も美しいのだ。そんな料理とぴたりと合う自然派ワインと燗酒をメインに揃える日本酒のセレクトは妻の有紀女将の担当。オープンからそろそろ2年。料理にもお酒の品揃えにもいっそう磨きがかかり、席の確保は難しくなる一方。ぜひ早めの予約を!

旬のフルーツを使った和え物やサラダもお薦め。写真は「すももと水なすとフルムダンベールのサラダ」¥850(税込)。いまの時季なら金柑や有田ミカンなどがオンリスト。
中庭に臨む広々とした趣のある空間。カウンターと10人ほど座れる大テーブルを配置。連日満席約20人の料理をひとりでさばく河野店主の凄腕ぶりたるや。ワインは自然派、日本酒は燗酒メインで、女将が好みを聞きつつ、新しい扉を開けてくれる1本を薦めてくれる。

三本木商店
京都府京都市上京区真町478
TEL:075-255-2810
営業時間:17時30分〜22時L.O.
定休日:月・日不定休
www.sanbongi-shoten.com