映像作家・米倉強太さんが友人のために制作した世界で一台だけのクルマを紹介する「GO! 東京“ヤンクラ”カービルダー」。後編は診断を終えたレンジニアスのオーナー・篠田岳が話の輪に合流。米倉が購入した1996年式のレンジローバー・オートバイオグラフィとバンデンプラを並べ、レンジローバー談義を続けた。
デカくて華奢な、レンジローバーのクラシック
米倉 クラシックとセカンドって並んでいると、そんなにサイズの違いは感じないんですよね。 見た目の幅感がそんなに変わらない。
篠田 クラシックが182cm、 セカンドで189cmあります。
──7cmも違うんだ。クラシックは威風堂々として見えるんだけど。
米倉 確かに。小さく見えないですもんね。
──逆に最近のレンジローバーはリアを小さく見せようとしてるんだよね。
上杉 分かる分かる。ディスカバリーとかもそうですよね。
米倉 こうやってみても、クラシックの方がデカく見えるのはなぜなんだろう。 クラシックはめちゃくちゃ格好いいですね。今日、ここに来る時もずっと柊平さんが前を走っていたんですよ。
上杉 気づいたら後ろにいたね。
米倉 ポルシェとか、いわゆるスポーツカーといわれるクルマよりも、クラシックレンジの方が街中を走っていて目立つんですよね。
上杉 実際、目立つんだよね。一台だけ中目黒で600 メートル先ぐらいを走ってるクラシックを見かけたことがあるんです。ああ、いる!って(笑)。アンテナが立ってるからすぐわかった。「初めて見た!」って。
米倉 なにがこんなに格好いいんですかね。ワゴニア(ジープの高級SUV)とかだってあるじゃないですか。ワゴニアとも印象が全然、違うじゃないですか。
──英国だからかな?
米倉 やっぱり英国の品の良さなんですかね。
篠田 後ろを見てよ。ホイールハウスからタイヤがキュッと中に入ってるじゃない。この品なのかな。
──なるほど。
上杉 たしかに上品だな。
篠田 ちょっと華奢にも見えるんだよね。
米倉 でかいんだけど華奢なんですね。
上杉 引くとこ引いてる感じかな。出すとこ出して。
篠田 ちなみにこのバンデンプラを毎日、乗っているんですよね?
上杉 ほぼ毎日乗ってます。週6で乗ってますね。2週間で13日は乗ってるな。
──それはやっぱり直さないとね(笑)。
上杉 直したい直したい。もう不安な気持ちでハンドルを握りたくない(笑)。
20代でクラシックレンジに乗ること。
米倉 これで篠田さんのバンプラぐらい完璧に直したとして、それでもどれぐらいの頻度で壊れるものなんですか。
篠田 そうね。止まるような事はそうそうないんだけど、マイナートラブルは2ヶ月にいっぺんぐらいはあるかな。 この通り、工場も満杯だから自分もそうそう乗ることができない。でも乗ったら特別な時間ですよね。
米倉 柊平さんは毎日、特別な時間を送ってるんだね。
篠田 すごく良いと思うよ。
米倉 ある程度、手を入れれば止まることはなくなりますかね?
篠田 セカンドレンジからは改善されているんだけど、クラシックは点火系が弱いんですよ。構造的に、どうしても点火の部分が弱い。部品を新品に換えたとしても、元々が弱いから壊れちゃうんですね。それを見守りながら、乗ってくしかないんですね。
上杉 やっぱりね。こいつ、いいんだよな。
米倉 柊平さんが普段、停めてる地下駐車場もいいんですよね。そこにこのバンデンプラが停まってると、すごい格好いいんですよ。
上杉 まわりが完全に新しいクルマばっかりだからね。「圧倒してんな」って気がしてる(笑)。
篠田 20代からこういうクルマに乗ってると、大事なことを最初から分かっているようなものだと思うよ。
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──米倉さんもセカンドレンジを手に入れて、いよいよレンジローバーの道へって感じですね。
米倉 本当に行きたい所や、やりたいことがいっぱいありますね。
篠田 そうなんだよね。良いナイフとかもそうだけど、手に入れると林檎をむいてみたくなりますよね。紙も切りたいし、いろんなものを使いたくなるじゃないですか。いいクルマってこの車で雪山にも行きたいし、海にも行きたい。湖にも行きたい。そんな風になりますよね。出来れば「海外にも行きたい」って思っちゃう。その人にとって良いものっていうのは、そういうものだから。
上杉 うわ。俺もバンデンプラで海外行きてぇー。
篠田 そう思わせてくれる物って、世の中にそうあるわけじゃない。本当にそういう物って出会いだからさ。素敵な相棒を色んな所に連れて歩きたい、という気持ちと一緒だから。
──なるほど。みんなに見せたくなるんですね。
篠田 むかし環八沿いにラーメン屋があったのね。いつも混んでるから、ラーメン持ってきて、こうやってリアゲートに腰かけて食べてたんだよ。
上杉 かっけぇーー。
米倉 それ、やろうやろう! あとセカンドの後部座席のためのテーブル、めちゃくちゃいいですね。
篠田 これ1996年のオートバイオグラフィーの特徴だから。99年からはないんだよね。 なんだろうね、この独特の品は。
米倉 本当にかっこいい。
上杉 洒落てんなぁ。
──奥さんお子さん、大満足だね。
上杉 大満足だね。
米倉 そのためのクルマですからね。 ステッカーのコーチラインもピンストで、手描きで書いてもらおうと思ってるんです。 楽しみだなぁ。2月の納車が。本当はもう一台明るいグリーンのやつがあって、それを買おうとしていて、イズミちゃん(白濱イズミ)と見に行ったら 「ちょっと下品かもしれない」って言われたんですよ。
──本当?
米倉 それから、これを見たら「こっちの方が落ち着いてるじゃん」っていう話になったんですよね。
上杉 奥さん、この色が良いんだ。
米倉 そう。これだったら「良い」って。 ホイールも同色に塗っちゃおうかなって考えてます。 でもこれからホイールも変えちゃおうかな。これだとちょっと国産車っぽいかなと思って。 これオリジナルなんだけどね。
上杉 同色でこのホイールだったら格好いいと思うけどな。
米倉 これ18インチなんすよ。それを16インチにしたい。もともとレンジって16インチぐらいで設計してあって、時代が大きなサイズを求めてたから、18インチを履いてるだけなんですよね。だからそれを戻したい。
セカンドににじみ出る“落ち着き感”
──ちなみに米倉さんは、なぜセカンドだったんですか?
米倉 バンプラやクラシックは僕には恰好良すぎるんですよ。サードになると、お金持ち感が出ちゃうじゃないですか。
上杉 ラグジュアリー感が出ちゃうよね。
米倉 その点、ちょうどいいんです。
──そうか。米倉さんは90年代好きだから、なおさら合ってますね。
上杉 最初はディスカバリーを探していたよね?
米倉 そう。最初はディスカバリーを探していて、欲しかったディスカバリーは電話をしたら売れちゃっていたんです。それでセカンドレンジを色々見ていて、このレンジニアスを探し当てました。でも中古車のページが更新されていなかったんですよね。
篠田 ごめんなさい(笑)。
米倉 だから「ないだろうな」と思っていたんですけど、「ここに持ってくればいいや」と思っていたんです。念のため、一応聞いてみようと思って、問い合わせをしてみたら「あります」と(笑)。
──ボルボも持ってましたよね?
米倉 あれも売っちゃって、ちょっと新しめのボルボも買ったんですけど、売っちゃいました。そして奥さん用のゴルフも売っちゃいます。
──マジか。動きが速い!
上杉 なにもかも速いよね。
米倉 やっとこれに「行き着いた」って感じでしょうか。
上杉 落ち着くのね。
──まさに(笑)。落ち着いた感がある。このクルマでどこに行きたいんですか?
米倉 キャンプに行きたいです。今まで自分のライフスタイルにキャンプはなかったんですけど、今まではレースとかばっかりしていたんで、家族やだれかと楽しむライフスタイルじゃなかったんですね。でも「これだったら楽しめるな」って。
セカンドで、子どもに伝えたいことがある。
──家族の思い出を刻む4シーターだね。
米倉 今までポルシェ以外の車にまったく愛情がなかったんですよ。
──そうなの?
米倉 それだけポルシェに全集中してたんです。他のものにお金がかけられないし 、ポルシェ以外で初めてローンを使って買う車なんです。
──クルマとともに人生のフェーズが変わるんだね。いいなあ。
米倉 それとやっぱり子どもの頃に乗っていたクルマって、思い出に残るじゃないですか。
上杉 俺も覚えてるよ。
米倉 その時にこの内装のツートンとか、この色の感じだったり、このクルマのキャラクターそのものや色彩感覚だったりが「センスとして残るんじゃないかな」と思うんです。
──それ、絶対違うね!
米倉 どっちが良いかは分からないけれど、でも違いますよね。 このセカンドレンジなら僕ら夫婦っぽい感じで、子どもが育てられるかなと思うんですよね。あと柊平さんとレンジ2台で「キャンプに行きたい」っていう夢もあります。
──それはいい! クラシックレンジとセカンドレンジで行くキャンプってすごい素敵。
上杉 僕はいまでも一人で行ってますから(笑)。
米倉 篠田さんが作った雑誌に、自分がレンジでやりたいことのすべてが載ってるんですよ。 この間も二人で喫茶店で合流して、ずっと読んでたんだよね。
上杉 ほんと、ずっと読んでました。 まあまあの夜中に二人で読んでたよね。コーヒー飲みながら。
篠田 嬉しいな。伝えたいことがたまったらまた出しますよ。
米倉 その雑誌を読んでから、セカンドレンジを見るとまた想いが深まりますよ。この革ってコノリーレザーって言うんだとか(笑)。あの日、覚えた言葉って、まずコノリーレザーだよね。
上杉 そうそう、コノリーレザー。やっぱコノリーだよね!なんて覚えたてで使いまくっちゃったりして。あれ楽しかったな。
米倉 未だに僕は30周年アニバーサリー(レンジローバー誕生30周年の限定車)のグリーンが好きなんですけどね。内装も。
篠田 30周年アニバーサリーも良いよね。日本で70台しか販売してないんだ。イギリス車って緑色が象徴でしょ。緑も色々あるんだけど、その中からブリティッシュレーシンググリーンを選ぶっていうのは「そんな違いが分かるって素敵だな」って思いました。
米倉 選んだのは、嫁ですけどね。
(一同爆笑)
レンジローバーとそれぞれのキャンプ
米倉 本当の事言うと、紺のホーランド&ホーランド(※イギリスの狩猟用銃器メーカーとのコラボ車)も良かったんですけど、現実的に高すぎて無理でしたね。
篠田 ホーランド&ホーランドは2回ほどイギリスから輸入してるんだけど、一人のオーナーさんはセカンドレンジのオートバイオグラフィーを大事に乗っていたのね。ホーランド&ホーランドを輸入したら「それ買う」って即決でしたね。その友達は長野に住んでいるんだけど、毎週、一緒にキャンプに行っていたときもあったな。
──やっぱりレンジローバーでいくキャンプって格別ですか?
篠田 そうですね。米倉さんにも言ったけど、キャンプギアっていっても普段のお気に入りを持っていくっていう考え方もある。毎日飲んでいるコーヒーカップがあればそれを持っていけばいいんですよ。ただ単にキャンプ道具を買い揃えても、どうせ買い直しちゃうから。 やっていくうちに増えちゃうからね。
米倉 レンジのある生活はやっぱり良いですね。柊平さんなんかは独身の象徴じゃないですか。
──そうですね。 確かに独身とクルマって最高の組み合わせですよね。
篠田 最高だと思う。俺も戻りたいよ(笑)。
米倉 篠田さんは、最初にレンジを買った時はご結婚されてたんですか?
篠田 いや。その時は独身だったね。
──じゃあ恋愛や結婚のたびにクルマを買い替えているんですか?
篠田 いやもっと買い替えてるよ(笑)。 最初にレンジを買ったのは独身の時だね。 そうだね。彼女をおもてなしするようにレンジに乗せてた。超惚れたクルマだよね。 最初は確かにクラシックが怖くて乗れなかった。まだまだ高嶺の花だったから。
米倉 柊平さんはすでに最初からそこに行ったんですね。柊平さんもおもてなしの心を持ってるんですか?
上杉 持ってるよ。まず俺がドアを開けてあげるの。ドアが開かないから(笑)。コツがあってさ。その開け方のコツを駆使してる時点で、おもてなしの心が出てるよね。自然とレディーファーストが出ちゃってる。
米倉 クルマが自然と柊平さんをモテさせてくれてるんだね。
上杉 いや。あれ直したい。
(一同爆笑)
レンジでユーミンを聴いて年越ししたい。
米倉 乗り心地も悪いから、大丈夫?って気を使っちゃうしね。
上杉 でも「この車が好きだわ」っていう女性とお付き合いしたいと思うもんね。
篠田 それって信用するってことだよね。「このレンジを良い」と思ってくれる女性はマットブラックの女性とは違うってことだよね?
上杉 マットブラックが好きな女性とは音楽の趣味が合わないと思うし、この車が好きな人は音楽の趣味が合うはずだからね。「ヤマタツ(山下達郎)とかいいよね」って(笑)。
米倉 俺も年末の旅行とかで、このセカンドレンジでユーミン聴きたいもん。「Happy New Year」かけたいもん。
上杉 年越しの瞬間もバンデンプラの中にいたい。家じゃなくていい。ラジオつけてね。自然とその時点で6~7割は、他の条件も満たされる気がするんですよね。
【レンジニアス篠田さんによる、米倉強太さんのセカンドレンジ診断】
──米倉さんが買ったレンジローバーセカンドについて教えてください。
篠田 セカンドは1995年のモデルチェンジで発売されたのですが、これは96年モデルなんですよ。初期のオートバイオグラフィーですね。オートバイオグラフィーというのは主に内装のレザーの色やウッドの仕様とかを、ディーラーのセールスとオーダーで決めて作ったクルマなんですね。コンセプトとしては洋服の仕立てと一緒なんです。その考え方を主に室内の設えに取り入れたのがオートバイオグラフィーです。
──昨今のセカンド人気をどう思われます?
篠田 嬉しいのもあるけど、クラシックと同様に色んな急所を抱えているクルマだから、我々としてはちゃんとした整備したクルマじゃないと売れません。ただ整備をしたら終わりでもなくて、普通に乗っていても決して手放しで乗れるクルマではないんです。セカンドレンジとはどういう傾向があるのかとか、自分のクルマがどんな状態なのかということを知った上で付き合ってほしいと思うんですね。
──心構えが大切なんですね。
篠田 乗り始めてから大事なのはファッションでもなくスタイルでもなく、スタンスなんです。このクルマとどう付き合っていくかが、最も大事なんです。思いやることもそうだし、許容してあげること。少しのことで怒ったりしない。こういう大量生産、大量消費の物があふれている世界の中で、物を愛でるものを大事にするという気持ちは自分の家族と思ったり相棒と呼んだりすることに繋がりますよね。それってすごく価値あることだと思うんですよね。
今回の取材場所:レンジニアス
モットーは「車は“大事な家族を乗せる移動空間”」。日々一台一台の車と真剣に向き合い、安全性と本来の走行感を追求し続けている。
住所:東京都稲城市押立707
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