国産材の可能性を、デザインから考えるプロジェクト「WOOD CHANGE CHALLENGE」が開催中。

  • 写真:榊 水麗
  • 文:宇治田エリ
Share:

日本の国産材の利用拡大のため、「木へのまなざし」をチェンジするプロジェクト「WOOD CHANGE CHALLENGE」が開催中だ。この一環として、日本の森林の課題と可能性を知り、国産材をよりクリエイティブに使うための可能性を探るオンライントークイベント「WOOD CHANGE Meetup」が2020年12月19日に渋谷FabCafe Tokyoで開催された。

イベントには(前列左から)林野庁林政部木材利用課長の長野麻子、建築家の永山祐子、同じく建築家でDDAA/DDAA LAB代表の元木大輔、(後列左から)飛騨の森でクマは踊る代表の岩岡孝太郎、武蔵野美術大学教授の若杉浩一、『広告』編集長の小野直紀、東京チェンソーズ代表の青木亮輔の7名が登壇した。

国土の約7割が森林、かつ多様な植生がある日本。その森林の多くは、戦後人の手によって植えられた人工林だ。人工林を健やかに保つためには、伐採して使用し、また植えて育てる……といった持続的なサイクルを保つことが必要なのだ。そして現在、その人工林が国産材としての本格的な利用時期を迎えている。2019年の日本の木材自給率は、37.8%(林野庁「令和元年(2019年)木材需給表」より)と上昇傾向にあるが、一方で持続可能な森林の状態をつくる上では、人材不足や採算性など多くの課題を抱えている。

そこでロフトワークが主体となり始まったプロジェクトが「WOOD CHANGE CHALLENGE(ウッド・チェンジ・チャレンジ)」。これまでにない国産材の使い方や仕組み、体験やコミュニケーションなど、木のイメージを変える新しいアイデアを募集する「WOOD CHANGE AWARD(ウッド・チェンジ・アワード)」も開催されている。

今回プロジェクトの一環としての開催された「WOOD CHANGE Meetup(ウッド・チェンジ・ミートアップ)」では、実際に林業や建築、教育などの現場で木を扱い、木への新たな取り組みをしている多彩なゲストが登壇。第1部では「国産材をめぐる経済と資源の循環」、第2部では「材料としての国産材が開く『プロダクト』の可能性」をテーマにトークが繰り広げられ、日本の森林の課題と国産材の可能性を知り、国産材利用のインスピレーションを得られる内容となった。

FabCafe Tokyoで「WOOD CHANGE Exhibition」が開催。

トークイベント開催に合わせ、FabCafe Tokyoで「WOOD CHANGE Exhibition」もスタート。

イベントが行われたFabCafe Tokyoでは、「WOOD CHANGE Exhibition」が2021年1月11日まで開催されていた。アワードのサブテーマでもある以下の3つのカテゴリーをもとに、建築やプロダクトにとどまらない、木の新たな使い方を提案している既存のプロジェクトを展示。展示映像などから新しい木の魅力に出合える、多彩な8つの事例を見ることができた。


1.「STORYTELLING(ストーリーテリング)」
木を使うことへのイメージをチェンジするコミュニケーション手法

2.「MATERIALITY(マテリアリティ)」
木の特性の活かし方をチェンジするプロダクト

3.「ACTIVITY(アクティビティ)」
木と人との関係をチェンジするサービス・仕組み

会場構成と什器のデザインは、トークにも登壇した元木大輔が担当。

会場に設置されたタブレットには3つの映像が流れる。そのうちのひとつ、ブレット・フォックスウェルとコナー・グレベルによる映像作品「WoodSwimmer(木を泳ぐ人)」は、広葉樹の断面をカメラで撮影し、コマ撮りアニメーションで表現している。年輪や放射組織、節、腐朽部位といった、普段見られない木の内部の表情を鮮明に見ることができる作品だ。



その他にも、再現の難しい伝統的な木材の曲げ技術に対して、粉末状にした木材を3Dプリンターでシート状に成形し、水に入れることで特定の形状に変形するようデザインした「Programmable Wood(プログラマブル・ウッド)」、ハイエースの内装を美しい国産材の曲線で構成し、ウッドキャビンのような空間とすることで、より木を身近に感じられるバンライフスタイルの旅を提案している「Dream Drive(ドリーム・ドライブ)」の映像などが展示されている。

「穏やかなテクノロジーの佇まい」をコンセプトに、人と自然とテクノロジーの調和を重視した機能やデザインを取り入れた「mui(ムイ)」。木製のインターフェイスは、スマート家電でありながら、木の温もりを感じられる。https://mui.jp/
「Tsugite(ツギテ)」は、加工、組み立て、強度などの性能を自動的に分析することで、高度な技術をもった職人でなくても継手・仕口のデザインや制作ができるというプロジェクト。

展示されている作品は、どれも木という素材の当たり前を覆し、新たな可能性を見出したものばかり。木からなにかをつくり表現するだけではなく、木を通して新しい価値や体験を生み出すような「視点」をもち合わせている。

STORYTELLING、MATERIALITY、ACTIVITYという3つのポイントを提示しているのは、クリエイターたちに自由に発想してもらえるアワードにするため。普段木を扱わない人でも、この展示をヒントに「これも木のイメージを変えるかも?」という発想があったら、ぜひアイデアを応募してもらいたい。

東京チェンソーズによる「一本まるごとカタログ」。規格化の流れの中で取り残されてしまう木の素材を、根っこから葉先まで余すことなく紹介することで、未利用材に高い付加価値をつけた。
LIFULLの「地球料理 –Earth Cuisine–」プロジェクトから生まれた「EATREE CAKE―木から生まれたケーキ―」は、間伐材を材料としたパウンドケーキ。FabCafe Tokyoで期間限定で食べることができる。

木の魅力と、課題について語ったトークイベント「WOOD CHANGE Meetup」。

イベントがスタート。第1部では、林野庁の長野(左)から日本の林業や国産材が抱える課題が語られ、東京都の檜原村で林業を営む青木(右)と、岐阜県飛騨市の森で新しい体験価値を生み出す岩岡(中央)のこれまでの取り組みが紹介された。
続いてクロストークに移り、『広告』編集長の小野(右)による進行で、「国産材をめぐる経済と資源の循環」をテーマに、林業の現場にある課題や取り組みの方向性についてディスカッションされた。

100年先を見据え「豊かな森林を後世に引き継いでいきたい」という共通の思いを抱える長野、岩岡、青木の3名。しかし林業の分野は慢性的に人手不足。消費する人々も森林を身近に感じ、国産材を好んで使っているとは言えない状況だ。そこで林野庁の長野が注目するのは、林業のサプライチェーンだった。

「伐採し製材された国産材が私たちの元へ届くまで、多くの工程を要します。一方で農業分野は近年、生産現場と消費者の間が縮まってきています。林業もダイレクトに生活者にアプローチできるサプライチェーンにできたら、新しい展開が見えてくるのではないでしょうか」と語る。消費者と林業の生産現場がつながる取り組みは、既に岩岡と青木も始めているそうだ。

「飛騨は天然の広葉樹が多い地域です。広葉樹は硬く、家具に向いている木材ですが、国産の広葉樹は生産や流通の課題が多く(使う人が少ないため)市場が十分に発達していないと思います。まずは地域内にいる林業木材業の事業者と連携し、地域内で使えるようにしていく。そこから外部に市場をつくることを目指しています」と岩岡。一方で檜原村で働く青木は、「ドイツのザイフェンという村をモデルに、日本でいちばん木のおもちゃをつくる村を目指して工房を建てました。そこでは大工さんも関わっていて、地域に少しずつ仕事が生まれ、消費者や作家さんも集まる村になっていく。そんな20〜30年後をイメージしています」と語る。個人の暮らしや社会と林業を結びつけ、長期的なスパンで少しずつ文化を変えていくことが、これからの課題なのだ。

第2部に登壇したのは、日本全国スギダラケ倶楽部を立ち上げ、地域とデザインの可能性を模索している武蔵野美術大学教授の若杉。今回アワードの審査員としても参加する。
アワードの審査員長を務める、建築家の永山も登壇。「住宅も都市空間の設計でも、無機質になりすぎないように植栽や木材を使うことが多い」と語る。
「WOOD CHANGE CAMP」のメンターを務める建築家の元木。著書『工夫の連続』を例に挙げ「デザイン=工夫と捉えると、日々の生活の先にものづくりの本質があると気づきます」とデザインの視点を伝えた。

第2部は建築をはじめさまざまなデザインの領域で活躍している若杉浩一、永山祐子、元木大輔が登壇。「材料としての国産材が開く『プロダクト』の可能性」をテーマに、国産材の付加価値を生み出す上で必要な視点や、今後の可能性についてディスカッションした。

最初に話題に挙がったのは、クリエイターの視点から見た木の魅力について。永山は人間と親和性が高い「ぬくもりのある素材」として木の魅力を語り、元木はドイツ・ベルリンにあるプリンセス・ガーデンを例に、「木を植えたことで生み出された新しい体験」を紹介。若杉は「日本の林業が抱える課題そのもの」への貢献に興味を示し、三者三様の着眼点で語った。

さらにこれまで三人が木を扱ってきて感じた課題や、解決の可能性について話は広がる。今回の展示空間をデザインするため飛騨へ行った元木は、「木を流通させるためのインフラ整備がどれだけ大変かがわかりました。都心は緑が少ないですが、木を増やして愛着をもてる環境にしていけば、もっと小さな規模で国産材が循環する社会になっていくのではないでしょうか」と言う。

建築家の永山は自身の仕事の経験から、「決定権のあるクライアントが国産材を使うことをどう受け取るかが大きな課題。だからこそ新しい仕組みとともに、価値観をつくることが大事だと思います。木を使うことの幸せを一般化し、私たちの意識を変えていく必要がありますね」と語る。

固定観念を壊して、まだ気づかれていない国産材の価値を見つけ提案する。その姿勢こそが大切であり、現在募集中の「WOOD CHANGE AWARD」への期待も高まる。若杉は、「木の可能性を広げていくというこのアワードでは、ものに限らず社会構造のデザインも期待したいですね」と言う。そして最後に審査員長の永山は「創造性と同時に、いわゆるクリエイターでない一般の人にどう受け止められるかも大切です。私自身、普通の人の視点から驚いたり、いいなと感じられるような、広く世の中に発信できる作品を見つけられたらと期待しています」と語った。


「WOOD CHANGE AWARD」

国内外より未発表の作品やプロトタイプ、コンセプトスケッチやサービスまで幅広くアイデアを募集するクリエイティブアワード。国産材にクリエイティブをかけあわせ、「もしかしてこんなに変わるかも(Would Change)」という自由奔放なアプローチを集めます。国産材に無関心な人々、その一人ひとりの小さなまなざしや意識に変化を起こし、大きな課題解決へとつなげる。そんな木と人との物語が始まる、"Would Change"なアイデアを募集する。

【募集テーマ】
「木へのまなざしを変えるアイデア」
①木の特性の活かし方をチェンジ
②木と人との関係をチェンジ
③木を使うことへのイメージをチェンジ

【募集対象】
国産材の利用拡大や新たな利用につながる、コミュニケーション/プロダクト/サービスや仕組みに関するアイデア
※カテゴリーは不問。カタチのない活動、プロジェクト、パフォーマンスもOKです。
※2021年2月末時点で製品化されているアイデアは募集の対象外となりますので、ご注意ください。

【募集期間】
〜2021年2月15日(月)

【賞】
Gold、Silver、Bronze各1アイデア
ピックアップ賞3アイデア

【授賞式】
オンラインで開催。受賞作品の表彰、審査員による講評、WOOD CHANGE CAMP参加クリエイターチームによるピッチ(一般投票受付でのベストチーム選出)を実施予定。
※「WOOD CHANGE CAMP」――「メンター」+「木の専門家」+「公募クリエイター」でスペシャルチームを結成し、アイデアのアウトプットに磨きをかけていく(募集締め切り済み)。
開催日:2021年3月5日(金)

【備考】
応募費用は無料で、応募点数も制限無し。
応募方法や参加資格などの詳細は、以下URLご参照ください。
https://awrd.com/award/woodchangeaward


「WOOD CHANGE Exhibition」
国産材との接点のなかったクリエイターとの接点をつくるため、応募のインスピレーションにもなる作品を展示。東京(FabCafe Tokyo:~2021年1月11日)、京都(FabCafe Kyoto:2021年1月15日~1月30日)、名古屋(FabCafe Nagoya:2021年2月2日~2月15日)にて順次実施予定。