現代を代表するクリエイター、奥山清行と佐藤可士和の対談が実現。セイコーダイバーズのデザインを受け継ぐLXラインについて、両者はどう見るのか。
片やプロダクト、片やグラフィックを原点としながら、ともにデザインをビジネスプロジェクトと捉え、幅広い視点でブランディング戦略に携わる、奥山清行と佐藤可士和。ヤンマーの創業100周年を機にスタートしたリブランディング「プレミアムブランドプロジェクト」にともに参画し、大きな注目を集めた。互いにリスペクトし合うふたりの対談は、仕事に対する考え方から、奥山が手がけたセイコー プロスペックス「LXライン」についての話題へと展開していく。
デザインだけでなく、 総合的にブランドをつくる。
佐藤可士和(以下、佐藤) 初めて奥山さんとお話ししたのは、以前、僕がナビゲーターを務めていたテレビ番組。新幹線特集で、奥山さんにゲストでお越しいただきました。そこで「いつか一緒に仕事ができたら」なんて言っていたら、ヤンマーが創業100周年を機にブランディングプロジェクトを行うことになって。社外のクリエイターを迎えてチームをつくるということでご一緒できることに。
奥山清行(以下、奥山) 僕と可士和さんが似ているのは、デザインをトータルなビジネスとして捉え、モノや会社全体のストーリー、ブランドというものをチームでつくっていくところなんです。
佐藤 僕が会社のアイデンティティをデザインして、奥山さんはコンセプト・トラクターをデザインされて。あのトラクターはインパクトありましたね。スーパーカーを見るようにワクワクしました。奥山さんがつくられるものはアイコニックで、コミュニケーション力が高いといつも思っています。ブランディングって、コミュニケーション活動全般ですから。
奥山 海外のデザイナーは、みんなそこから仕事に入っていきますね。コミュニケーションやストーリーをつくることは、デザイナーの重要な仕事。デザインって、ビジュアリゼーションのいちばん上流に位置しているから情報が集まりやすい。だから収益の上げ方やチームづくりなど、ビジネスプランやストラテジー全体を見ながら入っていくと、デザインがカタチにたどり着く前にやるべきことが山ほどある。
佐藤 僕と奥山さんに共通するのは、ビジネスや経営にガッツリ関わっていくというスタイル。もちろん最後はカタチが重要ですが、コミュニケーションのタッチポイントとなるものが必要で、ストーリーからつくるからこそ、素晴らしいものができると思います。
奥山 セイコーからプロスペックス「LXライン」の監修の話をいただいて、振り返ってみたら、最初に父親に買ってもらったのが「セイコー5」、祖父の形見もセイコー、バイトして自分で初めて買った時計も、現在は“タートル”と呼ばれているモデルの初期型ダイバー。人生の節目節目にセイコーの時計があったので、いつかお手伝いしたいとずっと思っていたんです。
佐藤 いまのお話を聞いて思い出しました! 高校生の頃サーフィンブームで、みんなセイコーのダイバーズをしていて。僕もバイトして買いましたよ、オレンジ文字盤のモデル。
奥山 僕も学生時代、週に2〜3回、平塚あたりで波に乗っていた(笑)。ダイビングは1990年頃に始めたんですが、当時アナログなダイバーズウォッチは必需品でした。減圧症にならないよう、深い場所から上がる前には水深5mで5分間、安全停止しないと命の危険さえある。それをダイバーズウォッチで計測していた。ダイブコンピューターができても、デジタルは突然止まることがあるので、左手にダイコン、右手に機械式ダイバーズウォッチを着けるのが常識化した。その時インストラクターたちが、みんなセイコーを着けていたんです。それほど信頼性が高かった。そういうストーリーを、意外とセイコーの人も知らない。腕時計はライフスタイルをそれとなく伝える装飾品でもありますが、胸がジーンとするような部分も含めてのストーリーづくりから入っていきました。
ブランドとは普遍性であり、 語り継がれる物語である。
佐藤 ブランドってまさにストーリーですからね。いまのお話を聞くと、時計の見え方も変わってきます。
奥山 セイコー プロスペックスには、植村直己さんがエベレスト登頂や北極点単独行で着けたというヘリテージもありますから、ブランドのストーリーをまず明確にしようと。日本の製造業では、最先端技術が商品の価値をつくると思い込んでいるところがありますが、それだけではない。古くならないという安心感、今後もつくられ続けていくという信頼性、誰もが憧れを抱く人物が愛用したストーリー性が大切だという話をして。そう考えると68年製ダイバーズウォッチはストーリー性もあり、当時の革新的な機構も搭載されていた。デザインも普遍的な継続性をもたせやすいものだったので、これをテーマに進めました。「ポルシェ911」は、63年に発表され、カタチは現在に至るまでほとんど変わりませんが、中身はまったく違う。それと同じように、現代に求められるディテールを盛り込みながらつくり直したのです。
佐藤 僕も時計好きですが、変わったものより、いい意味でスタンダードなものが好きで。僕の仕事でも、いろんなパーツを全部分解して、感覚的ではなくロジカルに「この要素は取っちゃダメ、これはいらない」という作業をします。変えるところと変えないところのバランスを取りながら、微妙なところが最適化され、アップデートされているものに、いい印象がある。プロスペックス「LXライン」には、そのバランスの絶妙さを感じます。
奥山 残っていくデザインになるまでが大変なのですが、次世代のためのヘリテージをつくり続けなきゃいけない。そこに挑戦したいです。
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