サステナブルで上質なジーンズを生み出す、ユニクロの秘密基地。

  • 写真:岡村昌宏(CROSSOVER)
  • 文:高橋一史 
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2016年、米ロサンゼルスに誕生したジーンズの研究・開発施設「ジーンズイノベーションセンター(JIC)」。
なにを行う施設なのか? なぜLAなのか? いまジーンズづくりに求められている課題とは?
ファーストリテイリングがここを設立した志に触れるため、現地を訪れた。

ファーストリテイリングが米ロサンゼルスに創った、ジーンズ製品開発の拠点「ジーンズイノベーションセンター(JIC)」の内部。メインフロアには、壁際に沿って加工用のマシンが並ぶ。スタッフはその間を行き来しながら、黙々とジーンズ加工のテストを繰り返す。

「サステナブルであることは、すべてに優先する」

ユニクロを展開するファーストリテイリングの会長兼社長の柳井正は、2019年に会見でそう宣言した。同年8月期の決算発表に登壇した時の発言である。それに先駆けた16年、同社は米カリフォルニア州ロサンゼルスに、ジーンズに特化した製品開発の拠点「ジーンズイノベーションセンター(JIC)」を創っていた。この施設は現在、主たる目標をもって活動している。それは、サステナブルなジーンズを誕生させることだ。

ヴィンテージ加工の工程を機械化し、環境への負荷を削減。

JICを率いるディレクターの松原正明。エドウィン、AGなどジーンズ畑ひと筋で、デザインや生地開発を行ってきたエキスパートだ。

色落ちを表現するヴィンテージ加工は一般に、職人が一本一本、手作業で行う。そのため、職人の技量に品質が左右され生産効率も悪く、さらに洗浄や削り出しによるデニムくずの処理でも大量の水を消費する。その作業を機械化できれば地球に優しく、安定したクオリティのジーンズを世に送り出せるのだ。
このプロジェクトのリーダーを務めるJICディレクターの松原正明は、施設の役割をこう説明する。
「ここはジーンズのランドリーとも呼べる開発拠点です。デニムのデザインや生地の開発も行いつつ、製品の色落ち加工を研究しています。JICで考案した新しい製造技術を使い、ファーストリテイリングの提携工場が実際の生産を行います」

ヴィンテージのパーツのコラージュなどから作成する、色落ち見本の画像を入力したプログラムに基づき、担当者がマシンを操作する。
JICは、実際の製品加工の工場ではない。施設内に置かれるサンプルには、独自のタグが付けられる。

「使わなくていいものを使わない」ために日々、研究を重ねる。

職人の手作業の代わりに、レーザーで色落ちを行う特殊なマシン。インクジェットのプリンターのように、ジーンズの上端からレーザーが当たっていくと、瞬時に色が落ちる。出た煙は強力なファンで吸い取るので、周囲の空気はきれいなままだ。

新技術により生まれたアイテムは、既に店頭に並んでいる。JICの活動は着実に実を結んでいるのだ。松原は言う。
「手作業で出せないニュアンスまで表現できるし、大量生産も可能になりました。生産工場で起きる品質の課題にも、JICが同様の設備を備えているため、よりスピーディーに解決策を提案できるし、より安定した製品供給ができています」

JICには加工用のハイテクマシンが取り揃えられている。たとえば、コンピューターにプログラムしてレーザーを照射し、ジーンズの表面を焼くことで色を落とすマシンは、同じマシンとプログラムを共有すれば、世界中で同じ製品をつくれる。作業に必要な人員も、最少で間に合う。

レーザーを照射する加工マシンは、デニムの表面だけを焼いて、自在に絵柄を描き出すことができる。本誌ロゴを描くのに要した時間は、わずか10秒ほど。

ジーンズの加工に不可欠な「洗浄」の工程においても、霧のようなナノバブルを吹き付ける特殊なウォッシュマシンを導入した結果、水の使用量を大幅にカットすることが可能になった。松原は力説する。
「使わなくていいものを使わない、それが大切です。ジーンズの歴史を物語るコットンもインディゴ染色も使いながら、莫大なエネルギーが必要な水の使用量を削減します」


その言葉通り、ユニクロのベーシックな「レギュラーフィットジーンズ」は、製品加工において、従来品より最大99%、平均90%以上の水の削減に成功した(17年と18年の同型商品を比較)。仮に、ファーストリテイリングのグループ全体で、20年中に約4000万本のジーンズを生産予定とすれば、約37億ℓもの水の消費を抑えられる計算だ。

JIC内にある、空気をオゾン化し、その強い酸化作用でデニムを脱色する、オゾン加工の装置。薬品や水を使わずに、色落ち加工ができる。
水洗い加工の工程を、霧状にしたナノバブルを吹き付けて行うマシン。従来の洗濯機とは異なる発想のマシンの導入により、水の使用量を大幅に削減できた。
左手の白い石は、従来のストーンウォッシュ用。右は、新開発の人工石。従来品と比べて砕けた石のカスが出ず、水の汚染も低減された。

JICの知見と技術が生み出した、未来志向のジーンズ

JICが生んだ革新のジーンズは、既に店頭に並んでいる。左から:「スリムフィットジーンズ」「ウルトラストレッチスキニーフィットジーンズ」各¥4,389(税込)/ともにユニクロ 写真:加藤佳男 スタイリング:小野塚雅之

そんなJICの知見が詰まったジーンズの一部を紹介しよう。上の写真の左は「スリムフィットジーンズ」。膝位置を従来品より高く設定し、より脚がまっすぐに長く見えるように工夫した一本だ。コットンにわずかにポリウレタンを混ぜることで、快適に穿けるストレッチ性を担保しつつ、マシンによる加工を用いて、ヴィンテージデニムの味わいも表現した。

右は「ウルトラストレッチスキニーフィットジーンズ」。薬品によるブリーチ加工を凌駕する色落ちを、サステナブルなマシンで実現させたタイトなジーンズ。生地は、膝が抜けにくい新開発のストレッチデニムだ。腰回りはウエストバンドを二枚仕立てにし、穿いた時の安定性もしっかり確保されている。

左から:「レギュラーフィットテーパードジーンズ」「ウルトラストレッチスキニーフィットジーンズ(ダメージ)」各¥4,389(税込)/ともにユニクロ 写真:加藤佳男 スタイリング:小野塚雅之

上の写真の左は「レギュラーフィットテーパードジーンズ」。腰回りにゆとりがあり、リラックスしたルーズな着こなしができるジーンズ。生地はカイハラ社製のコットン100%の13.5オンスデニム。縫い代の段差を少なくするなど、サステナブルな加工マシンに対応する新しい縫製仕様になっている。

右は「ウルトラストレッチスキニーフィットジーンズ(ダメージ)」。カイハラ社とデニムを共同開発、コットンベースの生地でありながら高いストレッチ性が実現されたことで穿きやすくなったスキニー。JICのスペシャリストたちが開発を重ね、ハードになりがちなダメージ加工モデルも、上品で清潔な印象に仕上がった。


このように、既にサステナビリティに関して、かなりの成果をあげているJIC。だが、松原の目はさらに高いところを見ている。
「JICでは工程の一つひとつを見直し、研究に使う水のリサイクルを100%達成できました。とはいえ、まだ実際の生産工場では実現できていません。でも、それをやるべきなのです」


高品質でサステナブルなジーンズを、すべての人へ――。ユニクロの「LifeWear」は、新たな次元へと向かっている。

ジーンズ発祥の地であり、世界中からデニムの最前線の情報やトレンドが集まるという理由から、ロサンゼルスに設けられたJIC。

問い合わせ先/ユニクロ

www.uniqlo.com

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