八丈島や父島など、東京の美しき離島で見つける、心に刻む大切な時間。

  • 文:高野智宏
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東京宝島は、東京の11の美しい島々を指す呼称である。はじめて訪れるなら、思い切って小笠原諸島の父島や母島、伊豆諸島でも遠方の八丈島や青ヶ島を選んでほしい。いずれも、島独特の宝に巡り会えるはずだ。

上陸は一日100名限定の南島。その島でも抜群の透明度で美しいビーチとして有名な扇池。

「東京宝島」という言葉をご存じだろうか。伊豆諸島の9つの島と小笠原諸島の2つの島を合わせた、太平洋に浮かぶ東京の、11の美しい島々を指す呼称である。それぞれの島が、悠久の時に育まれた美しく豊かな自然を宿し、古より受け継がれた文化が育まれ、そして、魅力的な人たちがいる。そこで過ごす特別な時間は、時に心地よく感性を刺激し、時に格別な癒やしに包まれる、人生の宝となることだろう。この春、とっておきの宝を見つけに、東京宝島を訪れたい。

父島—秘境とリゾートを併せもつ、小笠原諸島のビッグパパ 

ハート型に切れ込んだ、赤い断層面を見せる千尋岩、通称「ハートロック」。片道2時間半ほどのトレッキングツアーでは、約300mの頂上から大パノラマを望む。

都心の南南東、約1,000㎞の太平洋上に浮かぶ小笠原諸島へは、フェリーで24時間の航海が唯一の手段。電波も届かない船上泊から、旅は幕を開ける。

小笠原の魅力は、世界遺産登録の所以となった固有種の動植物が豊富に生息する、原始の姿を残す自然がその筆頭だ。

ドルフィンスイムを楽しみながら船で渡る南島は、上陸が1日100名限定。絶滅した固有のカタツムリの半化石が散らばる砂浜では、天然記念物のヤドカリがその殻を被り歩く姿に遭遇できた。

陸も固有種の宝庫だ。タコノキが密生する森には、オガサワラビロウやムニンシラガゴケなど希少な植物が自生。運がよければアカガシラカラスバトの愛らしい姿を目にできるかもしれない。

食にも期待だ。小笠原の食材を使用した郷土料理店をはじめ、イタリアンにハンバーガーと父島グルメを堪能できる。

秘境とリゾート両面を兼ね備えた父島で、小笠原の魅力を満喫してほしい。

ハイビスカスの一種である「テリハハマボウ」。朝に黄色い花を咲かせるが、夕方には赤く変色し枯れ落ちる1日花だ。
絨毯のような、ふわふわとした手触りが心地よい「ムニンシラガゴケ」。登山道など、比較的標高が高い場所に自生する。
ドルフィンスイムのみならず運がよければ、ホエールウォッチングも楽しめるかも。
開拓者が無人(ブニン)をボニンと発音したことで島はボニンアイランドに、紺碧の海を「ボニンブルー」と呼び親しまれる。
島を開拓した欧米系住民の子孫、大平ランスさんが営むバー「ヤンキータウン」。アメリカ仕込みのハイクォリティなカクテルを味わえる。
小笠原や八丈島を代表する料理「島寿司」。小笠原ではサワラを使うのが一般的。白身魚を醤油に漬け込み、わさびではなく和辛子で味わうのが小笠原流という。
大村地区の人気郷土料理店「茶里亭」の名物「海亀の煮込み」。塩だけでじっくりと煮込み、新鮮な食材の味を際立たせる。
郷土料理のひとつ「ピーマカ」。白身魚と野菜を合わせ、酢と砂糖、橙(だいだい)を搾ったソースで和えた、爽やかな前菜。

母島—亜熱帯の原生林が呼び覚ます、優しくも力強い母の温もり。 

鬱蒼と生い茂るガジュマルの森を行く、乳房山へのトレッキングコース(自然ガイドの同行が必須)。ひんやりした空気に包まれながらの森林浴が心地よい。

小笠原への旅はおがさわら丸の1航海、5泊(船2泊、島3泊)6日が基本となる。3日とも父島で過ごすのもいいが、せっかくなら、お隣の母島を訪れてみてはどうか。

母島は父島の50㎞南方にあり、週4、5便航行する「ははじま丸」で2時間の船旅となるが、この際にも運がよければイルカやクジラから出迎えられることもあるという。

おもに島の西側に美しいビーチが並び、多彩なビーチアクティビティを楽しめるが、より母島の魅力を体感するなら、森がお薦めだ。

なかでも、ガイドの同伴が義務付けられた堺ヶ岳へのツアーの舞台は、湿性高木林や亜熱帯特有の樹木や植物が生い茂る原生林。

セキモンノキやオオヤマイチジクなどの固有種が自生し、これも母島列島にしか生息しないハハジマメグロの姿も比較的容易に見ることができるという。

圧倒的な自然に包まれる時、優しくも強さを秘めた母に抱かれる感覚が蘇るのだ。

母島列島のみに生息する特別天然記念物にして、小笠原の鳥にも指定される「ハハジマメグロ」。その可愛らしい姿を、山中のみならず時に民家の水場にも現すとか。
乳房山にはコケも多くの固有種が生育。雲霧帯となる標高400m以上では絶滅危惧種を見ることもできるとか。
プライベート感抜群の石次郎海岸。シーズンにはアオウミガメが産卵のため上陸することも。

静かに沈んでいく太陽。この島には日常の中にこんな絶景がある。

八丈島—羽田から55分の、東京にある南国リゾート 

八丈島は、海底火山の八丈富士と三原山が接合し生まれた島。標高854mの八丈富士を望む絶景だ。
なんとも言えない色が魅力。陽の当たり方で表情を変える硫黄沼。室町時代につくられたと伝えられる。


羽田空港から飛行機で55分。八丈島は東京から一番近い、いや、正しくは、東京の南国だ。

八丈島は、海底火山の八丈富士と三原山が接合し生まれた島。標高854mの八丈富士山頂の火口を周るお鉢めぐりや、広葉樹が鬱蒼と茂る渓谷に囲まれた三原山へのハイキングなど、どちらも島特有の雄大な自然を体感できる。

心地よい疲れを癒やす温泉施設も充実だ。三原山南麓には7つもの温泉施設が点在し、空と海が織りなす島特有の景観で心身を浄化する。

豊富な食材も大きな魅力。八丈島乳業が製造販売するミルクやチーズなどの乳製品は、濃厚な味わいが忘れられなくなる逸品揃い。

焼酎も島を代表する特産品だ。江戸時代、島へ流刑となった薩摩の商人、丹宗庄右衛門が製法を伝えたとされ、現在では4つの酒蔵から、いずれもクオリティの高い焼酎をリリース。同じく島の特産、くさやを肴に飲み比べしたい。

自然に食に温泉。東京にある南国リゾートには、五感を満たすすべてが揃っている。

三原山の中腹にある落差36mの唐滝。苔が覆う緑の岩肌を水が流れる。
「みはらしの湯」は、その名の通り太平洋を望む広大な見晴らしが魅力だ。また晴れた夜には、息を呑むほどに美しい満天の星が、圧巻の大パノラマとなって頭上に広がる。
有力者が住んだ陣屋跡に残る、美しく積み上げられた玉石垣。歴史を感じる散策スポットだ。
三根地区、長田商店のくさや。新鮮な魚を明治初期から伝わる秘伝のくさや液に漬け込むことで、独特の香りと凝縮された旨味が生まれる。
八丈興発のブランド「情け嶋」は、蔵元が認めた酒販店のみで販売される、幻のブランドだ。
近海ものの刺し身に島寿司、明日葉の天ぷらにくさやと、メニューには島の名物がズラリ。
カプレーゼに使用するモッツァレラチーズは八丈島乳業製と、できるだけ島の食材を使用することにこだわる。
予約必須の郷土料理店。お酒も島産の焼酎をはじめ、明日葉ビールやパッションハイボールなど島らしいラインアップ。

八丈島郷土料理 梁山泊

東京都八丈島八丈町三根1672

TEL:04996‐2‐0631 

営業時間17時30分~23時(22時L.O.) 定休日:日

www.rzp.jp/

青ヶ島—絶海の秘境で出合う、記憶に残る宝もの。

青ヶ島は世界的にも珍しい二重式カルデラ火山の島。断崖絶壁の島そのものが外輪山、内側には内輪山の「丸山」がある。
島南西部の池之沢地区には、いくつものひんぎゃから水蒸気が噴出している。

八丈島から船で3時間だが、天候不良による欠航もあり上陸確率は約50~60%。ヘリコプターも1日1便9席のみで、予約もすぐ埋まる。

上陸のしづらさに加え外輪山が外壁となり、その中に内輪山がある二重式カルデラ火山という島の形状もまた、冒険心をかき立てる。

そんな秘境の全容を望むなら、外輪山の稜線に位置する標高423mの「大凸部(おおとんぶ)」や、その東にある「尾山展望公園」だ。

複式火山の偉容と、果てしなく広がる太平洋の雄大さは圧巻の光景。なお、ここから見る星空も、言葉を失うほどの圧倒的な迫力だ。

青ヶ島といえば〝火の際〟を語源とする「ひんぎゃ」を抜きには語れない。成分の99%が水蒸気の噴気が噴出する穴のことで、島ではこれを利用して製塩したりサウナ施設を運営したりと、重要な産業の土台になっているのだ。「ひんぎゃの塩」に「あおちゅう」(焼酎)、「島とうがらし」と、特産品も多彩な青ヶ島。東京一の秘境でたくさんの宝が見つかった。

池之沢地区の、ひんぎゃを活用した地熱釜。温泉卵ならぬ、地熱卵や地熱野菜を味わえる。
地熱釜に野菜や卵を入れ、約40分で蒸し上がる。味付けはもちろん「ひんぎゃの塩」で。
世界的にも珍しい地熱で結晶化させる「ひんぎゃの塩」。まろやかな旨味で人気の逸品だ。
ひんぎゃのある池之沢地区は、地熱の影響から亜熱帯植物が生い茂る。なかでも「オオタニワタリ」は、島外では絶滅危惧種であることが信じられないほど、島中に群生している。
黒毛和牛を生産する畜産業も盛んで、毎年村を挙げて「牛祭り」が開催される。
島全体に生い茂る、背の高い竹に挟まれるようにして建つ金毘羅神社の鳥居。

幻の焼酎「あおちゅう」


古より「牛とカンモ(さつまいも)と神々の島」と伝えられてきたように、さつまいもは古からの島の特産品。「あおちゅう」も、島の女性たちが料理で余ったさつまいもの切れ端を使い、庭先でつくった家庭の酒がその始まりとか。現在、「あおちゅう」をつくるのは8人の杜氏たち。それぞれこだわりの製法で蒸留するため、銘柄ごとにその味わいはさまざま。島内では「青ヶ島酒造合資会社」にて杜氏による「あおちゅう」の説明・試飲体験ができる(要事前予約)。

この青ヶ島だけで醸された焼酎、AO-CHU(あおちゅう)。芋と焦がし麦の香りが特徴だ。
8人の杜氏が、それぞれ独自に工夫をこらし、手間をかけ、絞り出される1滴が至高の一杯に。
昔ながらの製法は、サツマイモも麹も水も全部いっぺんに入れて発酵させる「どんぶり仕込み」。

●青ヶ島酒造合資会社

東京都青ヶ島村無番地

TEL:04996‐9‐0332