もっと知りたい『パラサイト』、ポン・ジュノ監督インタビューPART2を特別公開。

  • 写真:菱田雄介
  • 文:佐藤 結
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祝! 『パラサイト』アカデミー賞4冠受賞! ということで、Pen 2/15号「平壌、ソウル」特集に入りきらなかったポン・ジュノ監督のインタビューを急遽、オンラインにて公開します。

  

ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』が第92回アカデミー賞で脚本賞、国際長編映画賞、監督賞、そして最高賞とされる作品賞を受賞。英語以外の映画作品として初めての受賞は、歴史的事件と言っていい。

2月23日、ポン・ジュノ監督と主演ソン・ガンホが揃って凱旋来日、日本記者クラブで会見した。ポン・ジュノ監督が「ソン・ガンホ先輩は素晴らしい俳優。シナリオを書いている時、この役を演じるのはこの方だと思い浮かべれば、心穏やかに書くことができるし、自信も湧く。草の上を走り回る子馬のような気分」と語り、ソン・ガンホは「監督がなにを語ろうとしているか、探って演技することが好きです。難しいことですが楽しい課程です」と発言。大きな拍手で会見はしめくくられた。

Penは2月1日に発売した「平壌、ソウル」特集でポン・ジュノ監督のロングインタビューを掲載。アカデミー賞の余波もあり多くの方に読んでいただいた……。が、実は誌面に収められなかった監督の言葉が、ざっとテープを起こししただけで2000字もあった!

そこで、ポン・ジュノ監督のインタビューPART2をPen Onlineで公開。「平壌、ソウル」特集のインタビューと併せて読めば、考え抜かれた映画づくりに舌を巻くはず。誌面で掲載していないメイキング写真もプラスしてお届けします。

撮影監督や美術監督と、「この映画は階段の映画だ」と話していた。

撮影中、息子役のチェ・ウシク(左)と言葉を交わすソン・ガンホ。© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

全員が無職で半地下の家に暮らすキム・ギテク(ソン・ガンホ)一家と、家政婦を雇い豪邸に暮らすIT企業の社長、パク・ドンイク(イ・ソンギュン)一家。キム・ギテクの息子ギウ(チェ・ウシク)が家庭教師としてパク社長の家を訪れ、接点などなかったふたつの家族の物語が始まる。ポン・ジュノ監督は「半地下の家」と「丘の上の豪邸」というふたつの家を象徴的に使って、いまを生きる人々の姿を浮かび上がらせた。この発想はどこから?

「経済的に恵まれている人と、そうでない人たちの対比を見せたいと思いました。最初はふたつの家族の話を行ったり来たりするような内容を考えていたのですが、いつの間にか、キム・ギテク一家と一緒に観客とカメラがパク社長の家に侵入する話にしなければいけないと思うようになりました。だから、貧しい半地下の家から映画が始まるのです。半地下からパク社長の豪邸まではただただ遠い。見ている人も、半分地下に埋もれたところから始まるように感じるんです」

内職で宅配ピザ用の箱をつくるキム・ギテク一家の撮影風景。© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

キム・ギテク一家が内職をしながら暮らす半地下の家。なかでも多くの観客に強烈な印象を与えたのがトイレではないだろうか。家の中で最も高い位置に便器が設置されている。

「こういったトイレがある家の写真をインターネットで見つけました。半地下の家のすべてがそうだというわけではありませんが、部屋が地面より低いところにある家では便器が浄化槽よりも高いところにないといけないので、あのような配置になっています。撮影監督や美術監督と『この映画は階段の映画だ』と話していたので、シナリオを書いている時からトイレはあの配置にしようと考えていました」


キム・ギテクの娘ギジョン(パク・ソダム)と息子ギウ(チェ・ウシク)はパスワードのかかっていないWi-Fiを探して、高い位置にあるトイレへ。© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
キム・ギテクの家の浴室・トイレ。階段下の右手がシャワースペース。© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

ポン・ジュノ監督は、こんなエピソードも語ってくれた。
「ソン・ガンホさんに、この映画はどんな映画だ?と尋ねられた時に『(ソン・ガンホさんが演じる)キム・ギテクの立場から見ると、階段を上ろうとした男が、結局階段を下りて終わる物語だ』と話したことがあります」

階段を上る前と、下りる前とではまったく状況が変わってしまう、と話すポン・ジュノ。
「階段は、階級のスペクトルが展開される場所です。家の内部と外部の境界をなくす。家の中にも階段があり、家の外にも階段があって、パク社長の豪邸から半地下の家までをつなげていくような、連結部が階段なのです」

キム・ギテク一家の半地下の家がある路地裏はセット。正面に半地下の家の窓(正面)が見える。© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

パク社長の統制された豪邸は、彼の心の状態と同じなんです。

パク・ドンイク社長(イ・ソンギュン)とその妻ヨンギョ(チョ・ヨジョン)。© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
有名建築家が建てた家のすべてを知る家政婦ムングァン(イ・ジョンウン/写真奥)。© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

ではパク社長の豪邸のデザインには、どんな狙いがあるのか。1日10分しか日の光が入らない半地下の家とは対照的に、パク社長の2階建ての家は光にあふれている。しかし、ポン・ジュノ監督は「既に半地下の家族を見ている観客は、豪邸を見ても、その美しさだけを楽しむのは難しいでしょう」と語る。

「パク社長の家の庭は木々に囲まれた完璧な空間で、居間の窓も、その風景だけが見えるようにつくられています。統制され、外で起こることはまったく関係ない。『私はここまでしか見ない』と決めているパク社長の心の状態と同じです」

パク社長宅のデザイン画。場面を思い出しながら見ると、シンプルな間取りに深い意図が込めれられていることに気付く。© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
庭を美しく切り取って見せる、パク社長宅の窓。「映画における窓はスクリーンの中のスクリーン」というポン・ジュノの言葉がよくわかる。© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

外から足を踏み入れる者を怖気付かせるほど完璧にデザインされたパク社長の家。そこに住むパク社長自身も、家で働くことになったギテク一家を紳士的な態度で受け入れつつ、彼らが「線を越える」ことを常に警戒する。

「でも、よく考えてみれば『線を越えるな』と言いながら、ギテクたちをその線の近くまで連れてきたのは自分たちなんですよね。それが嫌ならば運転だって自分ですればいいわけですから。家庭教師も運転手も雇い主の近くにこないとできない仕事です。それなのに実際、近くに来ると自分のプライバシーを邪魔されるのが嫌で負担に感じる。矛盾しています」

自ら手がけたストーリーボード・ブックを手にとるポン・ジュノ。 
パク社長の家をキム・ギウが初めて訪れるシーンのストーリーボード。実に生き生きと描かれていて、昔、マンガ家を志したこともあるというポン・ジュノの腕前に驚く。

そんな矛盾を顕在化させるためにポン・ジュノが注目したのが「におい」だった。目に見えず、容易に線を越えてしまうにおいが、美しく統制されていたはずの階層のバランスを崩していく。その表現にはポン・ジュノらしい、人間に対する洞察力が感じられる。

「私たちは普通、あるにおいを感じてもそれについて言及しないようにします。礼儀を守ろうとするからです。炎天下で働いてきた人から汗のにおいがするように、誰かのにおいにはその人の人生が表れてしまいます。ですから、においについて話す時はとても用心深くなるわけですが、パク社長一家はそのことをあからさまに表現する。そして、それが事件の導火線となるわけです」

映画の公開前、内容を聞かれると「ふたつの家族が登場する悲喜劇」と答えていたポン・ジュノ。果たして「におい」が導く結末は? 未見の方はもちろん、伏線がちりばめられている『パラサイト』は、観た人がもう一度観たくなる作品。劇場で存分に味わってほしい。

パク社長の娘ダヘ(チョン・ジソ)の家庭教師として現れたキム・ギウ(チェ・ウシク)。ギウはダヘの脈に触れて動揺を誘う。© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

『パラサイト 半地下の家族』
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダムほか
2019年 韓国映画 2時間12 分
全国公開中。  
www.parasite-mv.jp

※ポン・ジュノ監督のインタビューは、以下の号に掲載されています
Pen 2020年2月15日号「平壌、ソウル」
2020年2月1日(土)発売
紙版 定価:700円(税込)/デジタル版 定価:600円(税込)

特集の詳細はこちらから→ Pen「平壌、ソウル」特集
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