アートからデザイン、建築、映像、音楽やダンスまで垣根を超えたパフォーマンスとインスタレーションで最先端の表現手法を切り開いてきたダムタイプ。1984年の結成から35年を迎えた「マルチメディア・パフォーマンス・アーティスト集団」の大規模な個展が、東京都現代美術館でスタートした。
1984年、京都市立芸術大学の学生を中心に結成されたダムタイプは、分野を横断することで新たな表現言語を獲得し、現代社会への問題意識をより強く発信する試みから結成された。中心メンバーの一人であり、活動の原動力を担った古橋悌二が同性愛者であることをカミングアウトし、HIVに感染してエイズを発症したことで1995年に亡くなったときには、ラディカルな表現を切り開く表現者の喪失を多くの関係者やフォロワーが嘆いた。しかし、それ以降もダムタイプは表現をより先鋭的で高度なかたちへと進化させ、若い表現者たちを迎え入れながらメディアアートの最先端を走り続けてきた。この展覧会を担当した東京都現代美術館参事でキュレーターの長谷川祐子は、開催意図について次のように語る。
「ダムタイプはパフォーマンスのグループというイメージが強いので、展覧会の形式でコンセプチュアルな表現の軌跡を紹介する機会がこれまでにありませんでした。批評的な視点を持って社会と真摯に向き合い、新しい世代を組み入れながら新しい表現を追求する彼らを紹介したいという思いから、2018年にフランスのポンピドゥー・センター・メッス分館に提案してダムタイプの個展を開催したところ、78,000人の来場者を集めて大成功を収めました。今回の展示は、その展覧会をベースに新作を加えて行います」
そして、こう付け加える。「キュレーターとしてこんなことを言うのは恥ずかしいんですけど、ダムタイプの展示はかっこいいんですよ」。難解さばかりが先行するようなコンセプチュアル・アートとは一線を画す展示を見ていこう。
パフォーマンスを再解釈した、映像インスタレーション
映像やプログラミングによる制御システムなどの先端技術を取り入れながら、ジャンルを横断する新たなアート表現を純粋に模索していた結成当初から、同性愛者や社会のマイノリティに言及した1990年代前半。社会批評的なメッセージを強く込めた、それまでに誰も見たことのないようなダムタイプの作品は、アートやサブカルチャーの領域を超えて衝撃をもたらした。ノイズや電子音を自在に組み上げ、フラッシュや暗転をプログラミングによって巧みに連動させたステージ演出は、クールで先鋭的でありながら、時として愛やセクシュアリティについて言及する泥臭いまでのメッセージ性とも融合した。
1997年発表の『OR』は、古橋悌二が死の直前に書き残した「生と死の境界について」「どれほど科学はその境界を制御できるか、どれほど我々の精神はこの境界を制御できるのか。」という次回作のコンセプトメモを出発点とする作品だ。パフォーマンスとして発表されたこの作品が、『memorandum』『Voyage』という2作品と組み合わさり、そこに解釈を加えて再制作されたヴィデオ・インスタレーション『MEMORANDUM OR VOYAGE』として今回展示されている。
『OR』のパートでは、幅16メートル、1.9mmピッチのLED で構成される4K VIEWINGというLEDパネルの真っ黒の画面を白い光が左から右へと動き、パフォーマーたちが横たわる姿を一人ずつ追いかけていく。電子音やノイズを組み合わせた音が光と連動。ダンサーの姿も映され、ステージで感じさせた身体性もまったく損なわずにパフォーマンスがアップデートされた。
ダムタイプの作品の数々で音楽を担当し、音楽家にして視覚と聴覚の融合を促すメディアアーティストでもある池田亮司が、2009年に個展を開催した際のオープニング挨拶が印象に残っている。言い回しはたしかではないが、「私から作品について話すことはとくにありません。料理を食べたときと一緒で、音楽は耳にすれば好きか嫌いかの感覚が瞬間的に生まれます。その感覚にしたがって展示を見ていただけたらと思います」といった内容だった。今回のプレスプレビューで、高谷史郎は随所で作品コンセプトの説明をしていたが、じつのところは、「作品がすべて語ってくれる」というのがダムタイプのスタンスだと想像できる。コンセプトに裏付けられて制作されていることはよくわかるが、説明なしでも感覚に訴えかけてくるぐらいの強度を備えているのだ。
巨大LEDパネル上の情報が、物質化して迫りくる
サウンドスケープ・インスタレーション作品『Playback』では、それぞれのターンテーブルが別のターンテーブルから流される音を聞き、自分が音を出すべきタイミングを読み取っているように錯覚してしまう。音の発信源がレコード盤の放つ光とともに移動する様子から、相手が黙ったから自分が話す、周りの声が聞こえるから自分は黙る、といったターンテーブル同士のコミュニケーションが生まれているように感じられるのだ。キュレーターの長谷川祐子は「ネットワーク」をテーマとする作品だと語る。
「1台のターンテーブルの明かりがついてそれが話し始める。音が出始めると、隣のターンテーブルの明かりは消えて黙ったりします。この16台のターンテーブルは他がどんな音を今出しているのか、すべて知っているのです。その上で各自がそれぞれに話す(音を出す)。この空間が大きなコロニーとなってネットワークで繋がっている様子がわかります。ウェブで繋がった現代のネットワーク社会、クラウドスペースの中でのコミュニケーションについて考えさせられます。これはダムタイプが現代の問題に対する解釈を表現したとてもアクチュアルな作品だと思います」
パフォーマンスを再解釈した映像表現として圧巻なのが、『MEMORANDUM OR VOYAGE』の『Voyage』のパートだ。旅をテーマにしたディスカッションから生まれたこの作品では、幅16メートルのLEDパネル上を移動する赤いポイントとして表現されるのが、進化論の提唱で知られるチャールズ・ダーウィンが1831年に乗り込んだ測量船、ビーグル号がイギリスのプリマスを出航して世界一周した航路だ。ビーグル号が進むとその後ろには航海図が繰り広げられ、ダーウィンが著した『ビーグル号航海記』の全文がモニターを埋め尽くす。コンセプチュアルでありながら、圧倒的情報量はフィジカルなインパクトとなってこちらに押し寄せ、うっとりしてしまうぐらいに荘厳だ。
2020年1月19日には一部展示替えが行われる。こちらも胸を締め付けるほどに切ない作品なのだが、1994年に古橋悌二が個人作品として発表した『LOVERS』−裸で走る男女と、それを受け止めようと腕を広げる古橋の姿を映した映像インスタレーション−が撤去されて、その展示室に新作インスタレーションが発表されるという。現在の展示も1月19日以降の展示も見逃さず、ダムタイプの過去、現在、未来を体感してほしい。
ダムタイプ|アクション+リフレクション
開催期間:2019年11月16日(土)〜2020年2月16日(日)
開催場所:東京都現代美術館 企画展示室 1F
東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
TEL:03-5245-4111(代表)、03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時〜18時
※展示室入場は閉館の30分前まで
休館日:月(2020年1月13日は開館)、2019年12月28日〜2020年1月1日、2020年1月14日
入館料:一般¥1,400
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/dumb-type-actions-reflections/