ルイ・ヴィトンのメンズ部門でアーティスティック・ディレクターを務めるヴァージル・アブロー。ファッション界を揺るがす彼の素顔と、そのクリエイションに迫ります。
165年前、旅行鞄専門店として始まったルイ・ヴィトンの歴史は、革新の連続でした。時代とともに進化したトランクの形状や素材、当時としては斬新な〝モノグラム〞のデザイン、人気デザイナーを迎えながら実現したモードブランドとしての成功……。そして2018年、ストリートカルチャーにおいてカリスマ的な人気を誇るクリエイター、ヴァージル・アブローをメンズ アーティスティック・ディレクターに抜擢し、業界を揺るがせました。革新を繰り返し続けてきたメゾンと、いまその中核を担う男の実像に迫りました。
ヴァージル・アブロー、 独占インタビュー!
いまファッション界の爆心地にいる男、ヴァージル・アブローが、今回の特集に合わせ独占インタビューに応じてくれました。ジャーナリストとして彼を追い続けてきたWWDジャパン.com編集長の村上要さんが話を訊きました。
世界中のランウェイショーを取材して久しいが、「時代を変えるんだろうな」と思うデザイナーに出会う機会は少ない。だがヴァージル・アブローはいま、間違いなくそのひとりに挙げられる。
ヴァージルの功績は、多大だ。「ルイ・ヴィトン」初となるアフリカ系アメリカ人のアーティスティック・ディレクターは、アメリカで建築を専攻。カニエ・ウェストのクリエイティブ・ディレクターを務めた後、自身のストリートブランド「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」を設立。さまざまなブランドとのコラボレーションを重ねながら存在感を増してからはパリコレに挑戦。そして2018年3月、現職への就任が発表された。以降の活躍も目覚ましく、「ルイ・ヴィトン」はいま、若年層を中心に新たな男性顧客を獲得することで業界の拡大に貢献し、私たちのファッションにまつわる熱狂の原動力となっている。 〝キッズ〞と呼ばれる若者は「ルイ・ヴィトン」のスニーカーを手に入れるべく行列をなし、黒人やヒップホッパーは同胞の活躍を誇らしく思いながらブティックに足を運ぶ。ヴァージルが「ルイ・ヴィトン」におけるクリエイションで骨子とするダイバーシティ(多様性)という価値観に共感して、社会との関係性からファッションに興味を抱き始めた男性も数多い。
ヴァージル初の「ルイ・ヴィトン」としてメモリアルな19年春夏コレクションは、感動的だった。会場には全長約200ⅿにもおよぶ七色のランウェイ。ゲスト全員をフロントロー、つまり分け隔てなく最前列に導いたが、その後ろにはファッションを学ぶ学生のほか、メゾンのために働きつつもランウェイショーをこれまで目の前で見たことがなかった従業員が並んでいた。
そこに現れたのは、これから何色にも染まる純白のセットアップ。モデルは音楽業界で活躍するヴァージルの友人だ。その後コレクションは次第に色を帯び、ランウェイ同様虹色に染まる。終盤には、「オズの魔法使い」をモチーフにしたルックが登場。少女ドロシー、知恵が欲しいカカシ、勇気が欲しいライオン、そして心が欲しいブリキの人形のストーリーを、ダイバーシティという価値観と重ね合わせた。ランウェイ、ゲスト、モデル、服、そして、その色とモチーフ。ダイバーシティというひとつの価値観を多面的に、多彩に表現した。
なぜ、ヴァージルはダイバーシティにこだわるのか? 「世界に同じ花はふたつとして存在しない」、こんなダイバーシティのメッセージを込め、花と戯れた20年春夏コレクションを終えた直後、セーヌ川沿いのパリ本社内にある彼のスタジオで1年抱き続けた疑問を投げかけた。すると彼は、「あらゆるアートは〝時代〞を反映すべき。ファッション業界を、世相を映し出すモダンな〝鏡〞のような存在に押し上げたい」と語り始めた。「世界は多様な価値観であふれている。そんな時代を生きる消費者は、激変した。ファッション業界は、現実からもっと多くのことを学ぶべきだ」
ダイバーシティについて、ファッションについて、ルイ・ヴィトンというメゾンについて……。ルイ・ヴィトンのメンズ アーティスティック・ディレクターに就任したヴァージルが、Penのために大いに語ってくれました。このインタビューの続きは、Pen8月1日発売号にて。
多様性とクラシックが境界を越えて行き来する、ルイ・ヴィトンの秋冬コレクション
7月に日本でも展開が始まった、ルイ・ヴィトンの2019-20年秋冬のコレクション。ここでは、パリの外れで撮り下ろしたカットの一部を紹介します。
“ウエアラブル”バッグが流行中ですが、上の写真の一着はその域を超越したアイテム。全体を“モノグラム”が覆い、身頃に大小のポーチが大胆に結合されています。伝統的なバッグをアヴァンギャルドにアレンジするヴァージルの手腕は、さすがのひと言です。
マイケル・ジャクソンをインスピレーションのひとつに掲げた今季は、星条旗モチーフのデザインもいくつか登場しました。このプルオーバーは、モヘアの素材感もあって主張のある一着に仕上がっています。
潔いグレーやボリューム感のあるフォルムが未来的な印象のダウンジャケット。分厚く高いネックは宇宙服のようです。大ぶりの“モノグラム”がエンボスされているのも大胆なアクセントになっており、インパクトにあふれたヴァージルらしいアイテムです。
製品詳細:「ジャケット」
ヴァージルを理解するために知っておきたい、3つのトピック
ヴァージルという多才なクリエイターを知るのにおさえておきたいトピックを、ご紹介します。
まずは〝3%〞というキーワード。ヒップホップやストリートカルチャーにおける〝サンプリング〞や、レディ・メイドの思想から着想を得て、ヴァージルが自身のクリエイションにおける指標としたのが〝3%〞のセオリーです。普遍的なルイ・ヴィトンのヘリテージにヒネリを加えて、新たに特別なものを生み出すための比率が〝3%〞なのだと語っています。
ルイ・ヴィトンからこの夏に発表されたばかりの、ヴァージルによる初の″ジュエリー″も重要なトピックのひとつ。キューバンリンクをベースにした大ぶりなデザインと、ヒップホップカルチャーを感じさせる鮮やかで豪快な色遣いが、ヴァージルらしさ全開です。ウエアや鞄だけでなく、この主張のあるジュエリーを取り入れてこそ、ヴァージル流ルイ・ヴィトンルックが完成するといっても過言ではありません。
製品詳細:手に持ったネックレス「コリエ・メタルLVチェーンリンクス」、首に付けたネックレス「コリエ・チェーンリンクス パッチーズ」、ブレスレット(左)「ブラスレ・LVチェーンリンクス パッチーズ」、ブレスレット(右)「ブラスレ・メタルLVチェーンリンクス」
そしてヴァージルを知る上で欠かせないのが、″アート″です。
6月10日にシカゴ現代美術館(MCA)で開幕したヴァージルの回顧展「フィギュアーズ・オブ・スピーチ」。開幕1カ月で目標来館人数を達成しています。初の個展を地元シカゴの主要な美術館で行ったことは、彼にとって大きな意味をももちます。前日のプレイベントで彼は、「この展覧会は、普段美術館に来ない若い人たちに見てほしい。特に自分と同じ肌の色をもつシカゴの若者たちが考え、問いかけ、自分を表現する道を見出すきっかけになれば」と、地元の若者たちに想いを向けました。
展示は7つのセクションから彼の軌跡をたどる構成で、現代アート、建築、音楽やファッションなどからインスパイアされてきた、ヴァ―ジルの世界観がむき出しになっています。特に「黒人の視点」と題されたセクションでは、シカゴに“黒人移民の子”として生まれた宿命と、白人主義のファッション業界のトップに上り詰めた名声とのギャップを弄ぶかのような作品も並びます。38歳のヴァージルはこれからどこへ向かうのでしょうか。同展のキュレーター、マイケル・ダーリン氏は、「行きたいところへ向かえばいい。彼はそれができるし、そうするだろうね」と、ヴァージルのさらなる活躍を予見しています。
Pen8月1日発売号では、このほかヴァージル・アブローにさまざまな角度から迫っただけでなく、ルイ・ヴィトンというブランドの革新に満ちた歴史、卓越した職人技が受け継がれるアトリエなど、74ページにわたって特集を展開しています。また、Pen Onlineでは他にもルイ・ヴィトンとヴァージル・アブローの記事を展開。合わせてお楽しみください。
●問い合わせ先/ルイ・ヴィトン クライアントサービス TEL:0120-00-1854 www.louisvuitton.com