イギリスの靴ブランド「トリッカーズ」の世界2店舗目となる路面店が、東京・青山に誕生。そのコレクション、CEOのインタビュー、製造方法、歴史など盛りだくさんの内容をお届けします。
革靴のタイプは、おおまかに2種類に分けられます。一つは貴族的にエレガントな美しさを狙った、ドレスタイプ。もう一つは足元を支える道具としての役割が重視された、ワークタイプです。イギリスの「トリッカーズ」は、後者のワークタイプに属する靴ブランド。ドレスタイプの靴もラインアップされていますが、ワークウエア好きが多い日本で人気が高いのはタフな味わいのあるモデルです。英国王室御用達で190年の歴史があるトリッカーズは、靴に詳しい人なら誰もが知るビッグネーム。ところがこれまで日本には単独の店舗がありませんでした。それがついに2019年4月、東京・青山に、ロンドン・ジャーミン(ジェルマイン)ストリートに続く世界2店舗目の店がオープン。まずはこの店に置かれているコレクションの中から、注目すべき6足を見ていきましょう。
日本人に似合う、ボリュームのある靴。
トリッカーズは機械式時計と同様に、職人の手が生み出している本格製法の靴です。他の靴ブランドに差をつける見た目の特徴は、そのボリューム感。コバが大きく張り出しアッパーを守り、雨水の侵入を防いでいます。ラフに履いて傷だらけになっても壊れない頑丈な仕立てです。足が大きく見えるため、身体が細い割に頭が大きい日本人のシルエットを、バランスよく整えてくれる良さもあります。
さらに、アイレット(紐穴)は金属パーツで補強され、靴紐も太め。ドレスシューズの華奢なつくりとは方向性が異なる屈強さこそが、トリッカーズの唯一無二の個性です。革の手入れを気にせずにガンガンと履き込み、ビンテージのごとくエイジングさせる愉しみ方もあります。履き込んだ靴の見本を記事の後半に掲載しているのでどうぞお見逃しなく。
足に馴染む、履き心地の良さ。
イギリスで “カントリー” と呼ばれる、フィールドワーク用の靴として歴史を刻むトリッカーズ。細部に至るまで頑丈につくられ、革も厚手のものが主に採用されています。足型が合わなかったり、固い革だと履き初めが馴染みにくい人もいるようです。合うモデルを選べば履いた初日から快適に歩け、ほどなく革の中敷きが足裏の形状に沿って深く沈み、さらに快適になります。タフな靴が足にフィットしたとき、ドレスシューズでは得難い喜びを味わえるでしょう。
トリッカーズのアイコンである革底が2重になった「ダブルソール」は、とくに難易度が高いソールです。これは昔ながらのカントリー用途のものであり、硬質で靴底の返り(曲げ)が少なく、重量もあります。都会のアスファルト向けで雨にも強いラバーソールでも、靴がしっかりと足の形を覚えるのがトリッカーズの特性です。「最初の一足はダブルソールを」と考える人も、どっしりとした安定感が不必要なら、早く足に馴染むソールを選ぶのも一つのやり方です。
ジャーミンストリート店を再現した、クラシカルな青山店。
創業190周年を記念した、海外一号店となる青山店です。オープン日は2019年4月25日で、場所は青山の骨董通り沿い。パラブーツ、ジェイ・エム・ウエストン、オールデン(ラコタハウス)、コルテといった一流の靴専門店や、靴磨き店のブリフトアッシュらが軒を連ねるエリアへの進出となります。重厚な店構えですがスタッフの接客は気取りがなく、誰もが気軽に入りやすいでしょう。
すでにトリッカーズを愛用している人のケアも重視されています。ラバーソールの交換で¥10,880〜13,500、レザーソールで¥13,500または¥19,440(すべて税込)などと、プライスは一般の靴修理店と同等。一箇所につき¥3,780(税込)でサイドゴアシューズのゴア(ゴム)交換もできます。修理期間は、約3週間から一ヶ月ほど。
より個性を求める人は、ぜひパターンオーダーにチャレンジを。膨大な種類の革から好きなものを選び、部位ごとに変えられます。さらにアウトソール、ヒール、アイレット、ヒール上のタブ、靴紐に至るまで変更可能。パーツにはイエロー、オレンジ、レッド、グリーンなどのカラフルな色も用意され、通常モデルには見られないモダンな表情に仕上げることもできます。価格はベースにするモデルから、¥32,400(税込)がアップチャージされます。
チャールズ皇太子も愛する、確かなクオリティ。
オープンのタイミングで来日したCEOのマーティン・メイソンに、履きやすさの秘訣を尋ねました。彼の答えは、
「我々の原点が、長く歩けるカントリーブーツにあるからでしょう。現存するほかの靴ブランドはシティ向けから出発していますから、歩くことが最優先ではなかったのです。さらに、イギリス最古の靴メーカーとして、工場のあるノーサンプトンシャー州の州都のノーサンプトンに、熟練の職人がいることも重要です。靴をつくる彼らの魂が、快適さを生み出すのです。靴の内部にシャンクを入れて安定させ、クッションになるコルクを敷き詰めるといった構造上の工夫もありますし、それらのすべてが合わさったのがトリッカーズです。その大きな特徴は、エイジングすること。スニーカーほどは履きやすくないとしても、長年愛用することで魅力が増すのは大きなメリットです」
1989年にチャールズ皇太子から、英国王室御用達(ロイヤルワラント)に認定されたことはトリッカーズの誇りです。故ダイアナ妃が当時婚姻関係にあった皇太子に、ルームシューズを薦めたことがきっかけになりました。
「ダイアナ妃はノーサンプトン近くの出身者です。スペンサー家は代々に渡り、トリッカーズを履いてくださっています」
皇太子はルームシューズ以外も好むようになり、現在も工場を訪れる愛用者です。愛用者といえば、有名ファッションデザイナーも見逃せません。
「コラボレートして靴をつくっているのは、ポール・スミス、マーガレット・ハウエル……、そう、ジュンヤ・ワタナベも! 彼がいるコム デ ギャルソンのオフィスも、この青山店と同じ通りにあります。青山店はロケーションが本当に素晴らしいですね。靴屋にとって東京のベストプレイスでしょう」
伝統を踏襲しつつ、時代の動きにも目をやるメイソンが率いるトリッカーズ。そのラインアップが集結した青山店は、人々の生活に根ざした道具としての革靴の魅力を再確認させてくれる貴重な店です。