毎年2回、フランスのパリで行われているインテリアの見本市「メゾン・エ・オブジェ」をご存知でしょうか? 2019年1月に行われたイベントから、注目すべきトレンドを探りました。
世界有数のインテリア・トレンドの発信地であり、毎年1月と9月の2回にわたってパリで開催されている「メゾン・エ・オブジェ」。先日行われた1月展では、世界各国から8万4千人もの人々が会場を訪れました。この国際的なプレゼンテーションの場で、いまこそ押さえておくべきデザインの流れとは、いったいどのようなものでしょうか。目まぐるしく移り変わる流行を超えた、真の意味での時代のトレンドを考えます。
復刻モノから、人気デザイナーが手がける新作まで。
フランスの「Sammode Studio」は、メイド・イン・フランスならではのクオリティを訴える注目の照明ブランド。建築家のドミニク・ペローらとコラボレーションしてきましたが、今回はミッドセンチュリーに活躍したデザイナーのピエール・ガーリッシュによる照明の復刻が目を引きました。光を拡散する仕組みをふまえながら、彫刻的なフォルムをさまざまに工夫したガーリッシュの照明は、ヴィンテージ市場で再評価が進んでいたもの。当時の感性を反映した自由で軽妙な雰囲気が、あらためて現代の空間に求められているのかもしれません。
1990年代にイタリアで創業した「GIOBAGNARA」は、フランスが拠点のステファン・パルメンティエールを2017年にクリエイティブ・ディレクターに招き、一気に注目度を高めました。彼はもともとファッションの世界で経験を積んだインテリアデザイナーで、その世界観はアンダーステイトメントの美学が貫かれています。歴史的建築からモダンアートまで、多様なインスピレーションを感じさせるところも魅力。モードに通じるスタイリッシュさがありながら、タイムレスな価値をそなえているのです。
ベルギーの新進ブランド「Cruso」は、木工を中心にした伝統的なものづくりの技術と、新世代のデザイナーの創造性を結びつけようとしています。知名度の高いスイスの美術大学、Ecalの出身者の中でも特に活躍しているビッグゲームによるシェルフ「BLOCK」は、正確に加工した木の板と鋼板を組み合わせることで、ボルトなどのパーツをほとんど用いていない簡素な構造が特徴。若手ベルギー人デザイナーのジュリアン・ルノーが手がけた展示構成も光っていました。彼もやはりEcal卒業生です。
クラフツマンシップへの回帰、サステナビリティという潮流。
フランス流のサヴォアフェールを前面に出すブランドが増える中、「ENTRELACS」は規模こそ大きくありませんが、その本流を行く気概を感じさせてくれます。ブロンズと天然石を用いたミニマルにしてエレガントな照明器具が真骨頂で、今回のメゾン・エ・オブジェで発表されたサイドテーブルも魅力的でした。このブランドを率いるイヴ・マシェルとともに、主要な製品をデザインしている30代の建築家、フェリックス・ミロリの新作です。徹底して本物を志向するクラフツマンシップ回帰の傾向は、パリでもますます強まっているようです。
チュニジアの「Cinq-étoiles」は、この国で手仕事によってつくられる幅広い日用品を扱っています。オーナーのファイーザ・カレドの眼力と、「Bloom」誌などの仕事で知られるネルソン・オソリオ・セプルヴェダのディレクションを通して見出されたアイテムは、素朴であってもどこか確かな洗練を感じさせるもの。地中海沿岸の文化やアフリカの風土すら思い浮かぶような、デザインに対する視野を広げてくれるブランドです。
ドイツの「GUAXS」のガラス器は、独特の深みのある色合いと、個性あふれるカッティングが特徴。日本でも目にしますが、こうした会場で見るとスケールの大きな世界観が伝わってきます。日本の工芸的な花器とは違い、ダイナミックで時に荒々しささえ感じさせるデザインは、いくつか並べて表情のバリエーションを楽しむのに向いています。会場では、スポットライトを当てるだけでなく、その色合いが光に透ける姿を見せる構成にも技がありました。
イギリスの照明ブランド「BERT|FRANK」は、バーガンディの空間に真鍮を多用したランプをディスプレイして、雰囲気のある見せ方をしていました。直線的で艶のあるデザインは、総じてアール・デコを連想させるものです。現代的な優雅さと、ちょっとした懐古趣味がフュージョンしています。このブランドも、特徴のひとつはすべてUKメイドであること。常に人の行き来が途切れることのないブランドのひとつでした。
環境についても経済についてもサステナビリティをテーマにするブランドが増えていることは、メゾン・エ・オブジェでも明らかです。ドイツの「MAOMI」は、陶磁器はベトナム、布製品はインド、木製品はボスニアというふうに、それぞれの国の技術を生かしたものづくりを積極的に進めています。さらに生産者の権利を守り、支援することも彼らのテーマです。今回のメゾン・エ・オブジェで注目されたテーブルウェア「Kaya」は、口縁の薄さや優しいフォルムに、優れた手仕事が息づいています。
こうして見てきただけでも、フランスはもちろん幅広い国々のブランドやデザイナーが、メゾン・エ・オブジェに参加しているのがわかります。今回はフランス国外からの出展者が6割以上、65カ国に及び、この場所がグローバルなインテリアの縮図であることをあらためて印象づけました。ここで披露される各ブランドのフィロソフィが、世界のさまざまな状況を反映しているのは言うまでもありません。今、世の中ではどんな魅力が評価され、どんな価値が求められようとしているのか。そのヒントを、メゾン・エ・オブジェで掴むことができるのです。
MAISON & OBJET
次回開催日程:2019年9月6日(金)~10日(火)
場所:パリ・ノール・ヴィルパント見本市会場
http://www.maison-objet.com/en
●問い合わせ先/メゾン・エ・オブジェ日本総代理店 株式会社デアイ
TEL:03-3409-9495 mo-japon@deai-co.com