世界的に活躍するデザイナーとともにつくり上げてきた「ジンズ デザインプロジェクト」。第3弾を手がけるのはイタリアを代表する建築家、ミケーレ・デ・ルッキです。今回、発表されたモデルに込められたコンセプトとは?ミケーレさんが語ります。
「メガネの本質からデザインする」をテーマに、世界の第一線で活躍するデザイナーたちと、これからの時代にふさわしい新たな価値をもつ眼鏡を創出する「ジンズ デザインプロジェクト」。今回、ミケーレ・デ・ルッキが手がけたコレクションもその一環であり、第1弾のジャスパー・モリソン、第2弾のコンスタンティン・グルチッチに続く、シリーズの第3弾となります。
今回、発表されたコレクションはラウンド、多角形、ボストン、そしてキャットアイという、眼鏡のタイポロジー(類型)を再解釈した4つのスタイル。そして、それぞれに4つのカラーや仕上げを施した、全16モデルが展開されています。その制作過程では、眼鏡の歴史をひも解き考察し、建築家ならではのアプローチがなされているといいます。今回の発表イベントに合わせて来日したミケーレさんが、制作秘話とコレクションの魅力を語ってくれました。
眼鏡をデザインするということは、ディテールをデザインするということ。
今回のプロジェクトを振り返り、「新たな発見の多い、とてもエキサイティングな体験でした」と語るミケーレさん。イタリア建築界の重鎮である彼に、眼鏡のデザインはどのような発見をもたらしたのでしょうか。
「眼鏡のデザインにおいてタイポロジーは二次的なものと捉えていましたが、違いました。結局、すべての眼鏡は基本的なタイポロジーのいずれかに属することが分かったのです」
ミケーレさんは眼鏡の歴史をひも解き、基本となるタイポロジーからどのようにデザインされ、変化してきたかをリサーチ。それぞれのデザイン要素を分析し再構成したマトリックスを作成すると、実に64種もの可能性が見出せたといいます。
「つまり、眼鏡をデザインするということは、ディテールをデザインするということ。フレームやブリッジの形状を少し変えるだけで、まったく新しいデザインが生まれるのです」
そうした考察、検討を経て最終的に4つのスタイルを決定。次いでモックアップの制作へと続きますが、それは、ベテラン建築家らしいアプローチで行われました。
「建築模型の制作と同様に、今回もパーツ単位で木を削り出しモックアップをつくりました。手を使い木を削りヤスリをかけて確認することで、最適な厚みやカーブへと仕上げることができる。ただし、眼鏡のパーツはとても繊細で、細部の表現にはとても苦労しました」
ディテールのデザイン、そして木製モックアップ制作による繊細な作業は、今回のコレクションに「デフォルメ」という現代性をもたらしました。ミケーレさんはこう続けます。
「今回は、既存のカタチをデフォルメすることで、現代に合った眼鏡をつくり出しました。そのひとつが素材やカラー使いによるバリエーションの展開です。この作業には無数の選択肢があり、本当は各スタイルで20くらいのバリエーションをつくりたかったほどです」
また、今回の試みでユニークなのが4つのモデルに付けられた名前です。それは、プロジェクトに携わったミケーレさんの事務所のスタッフたちの名前なのです。
「眼鏡のフロント部分を紙でかたどり、それをスタッフにつけてもらい最も似合った人の名前を付けたのです。眼鏡はその人のパーソナリティを表し、ときに演出するアイテムです。たとえば『モニカ』なら映画女優風に、『ダビデ』はファッショニスタ、『フェデリカ』は人生を存分に楽しむ人、そして『ミケーレ』は、ちょっと先生っぽく見えてしまうかもしれませんね(笑)」
独特なカーブを描くラウンド型のフォルムが印象的な「ミケーレ」
ミケーレさんがもともと掛けていた眼鏡から発想を得てつくられたモデル。しかし、そのフレームには特徴的なカーブが用いられ独特なフォルムを形成、掛ける人にアカデミックでいてユニークなパーソナリティを与えてくれます。「木の温もりを表現したい」というミケーレさんの希望から、表面にはアセテート素材の加工性を活かして木目や凹凸などの素材感を表現。全モデルに施されているメタルパーツも小さなものにとどめ、その素材感が伝わる温もりのあるスタイルに仕上げられました。また、よりファッションとの親和性を高めるため、表面をマットブラックにしたバイカラーモデルもラインアップ。モダンでエイジレスなスタイルとなっています。
シャープで洗練されたスタイルが男性的な「ダビデ」
一見、シンプルなスクエアタイプながら、上リムはストレートブロウで台形のように直線的なラインを描き、全体的に美しくシャープな印象を与える男性的なモデル。また、テンプルのメタルパーツもストレートタイプを採用し、よりスマートで洗練された雰囲気を醸し出します。そんなスタイリッシュな印象のなかに、フロント内側下の一角に膨らみをもたせたドロップが、ミケーレさんの遊び心を表現しています。カラーバリエーションには、グラデーションモデルも展開。リム下、そして、テンプルエンドに向かい消えていくようなイメージも「素材やカラー選びは楽しい作業だった」と振り返る、ミケーレさんならではの心憎い演出です。
やわらかな印象で掛ける人を選ばない「フェデリカ」
今回のコレクションのなかでも、掛ける人の性別や年齢、そして、スタイルも選ばないボストンタイプのユースフルな1本。とはいえ、よく見ればフレームは繊細にデフォルメされ、カラーバリエーションにはデミ柄が2つ展開されるなどさりげなく存在感をアピールします。なお、カーキデミモデルはかつてミケーレさんが参加し、1980年代前半に世界のデザインに影響を及ぼしたデザイナー集団「メンフィス」のクリエイションをイメージ。フレームの中に配されたソリッドなカラーとパターンが印象的ながら、濃く落ち着いた色合いが柄と美しく混ざり合い、大人の男女にふさわしいシックでエレガントな印象を与えてくれます。
しなやかな強さをもつ女性に似合う「モニカ」
コレクションのなかで唯一、ミケーレさんが「女性に掛けてもらうためのデザイン」と言うモデル。ベースはキャットアイながら顔馴染みを考慮し、丸みを帯びた優しいフォルムへとデザインされ、どんな女性でも掛けやすいスタイルになっています。チャームポイントは、キャットアイフレームの先端に配されたメタルパーツ。キラリと輝くアクセントが、女性の目元をよりセクシーに彩ります。表面加工はマットとシャイニーの2パターンを用意。自身のメイクやファッションに合わせて選ぶことができます。また、ネイビーデミはフェデリカ同様に、メンフィスのクリエイションをイメージ。より表情豊かで存在感のある仕上がりとなっています。
今回のプロジェクトで、ミケーレさんが掲げたコンセプトは「We are all designers of ourselves」。つまり、眼鏡はなりたい自分になる"願う未来との接点"ということ。
「眼鏡は掛ける人の個性を際立たせるプロダクト。なりたい自分を演出してくれるモデルと出合えることを望んでいます。また、入手しやすい価格でもあるため、複数の眼鏡で異なるパーソナリティを演じるのも面白い。そう、役者がさまざまな役を演じるようにね」
今回の4モデルすべては全国のジンズの店舗とオンラインショップで購入可能です。また、今回のデザインプロセスは渋谷店にて2019年1月11~31日まで展示予定。似合うかではなく、どんな自分になりたいか。そんな視点からの眼鏡を選んでみてはいかがでしょうか。
ジンズ渋谷店
東京都渋谷区宇田川町31-1
TEL:03-3464-8070
営業時間:11時~21時(月~木、日、祝)
11時~22時(金、土)
※エキシビションはジンズ渋谷店2階にて、2019年1月1日〜1月31日まで開催予定
https://designproject.jins.com/jp