いまや日本の酒好きだけでなく、世界中で支持されるジャパニーズウイスキー。そのブームの立役者ともいえるのがシングルモルトウイスキー「白州」です。南アルプスの麓に広がる森にあるその蒸溜所を訪ねると、ウイスキーづくりへの真摯な姿勢やドラマティックな歴史が見えてきました。
サントリー白州蒸溜所が創設されたのは1973年のことでした。当時の日本には未曾有のウイスキーブームが到来していましたが、80年代に入るとウイスキー市場は長い低迷期を迎えます。数々のメーカーがウイスキー市場から撤退する、そんな時代に、白州蒸溜所ではより質の高い原酒づくりを目指して、ポットスチルなどの製造設備を改善するなど、品質向上の手をゆるめませんでした。白州蒸溜所の工場長を務める小野武さんは「厳しい時代も一貫して、サントリーでは最高品質のウイスキーづくりを目指してきました。そうしたものづくりの継承と革新の歴史が、現在の我々のウイスキーの評価につながっているのでしょうね」と話します。
“森のウイスキー”が生まれる場所。
白州蒸溜所が立つのは、南アルプスの麓に広がる約82万㎡の森の中。近隣は国立公園に指定され、蒸溜所を含む一帯はユネスコエコパークにも登録されています。広大な敷地内には、希少な野鳥を見ることができるバード・サンクチュアリ(野鳥の聖域)と呼ばれるエリアも。まさに豊かな自然と共存した土地で、シングルモルトウイスキー「白州」はつくられています。
「白州」の特長といえば、若葉やミントを思わせるフレッシュな香りや、すっきりと爽やかな飲み口。春は桜、秋は紅葉と四季折々に色づく蒸溜所の自然に加え、花崗岩層に磨かれたやわらかな水など、豊かな自然環境のすべてが“白州らしさ”を生む要因となっています。“森のウイスキー”とも呼ばれる所以は、こうしたウイスキーが生まれる環境にあるのです。
「白州」のもうひとつの特長が、ほのかに感じられるスモーキーフレーバー。スモーキーフレーバーは、原料となる大麦麦芽の乾燥工程でピート(野草や水生植物が堆積して長い時間をかけて炭化したもの)を焚き込むことによって生まれるもの。ピートを焚く時間やピートの産地によってもそのフレーバーは異なりますが、白州蒸溜所では原酒との相性などを研究した結果、現在はおもにスコットランド産のピートが使用されています。
ウイスキーは、原料である大麦麦芽の粉砕、糖化、発酵、蒸溜、そして貯蔵・熟成という工程を経て完成しますが、そのすべての工程に手間をかけ、細部へのこだわりを追求するのが白州蒸溜所のウイスキーづくり。大麦麦芽を粉砕する際は、その日の気候や麦芽の状態で、殻部分のハスク、粗挽きのグリッツ、細かに砕かれたフラワーの割合を見極め、粉砕した麦芽をマッシュタン(糖化槽)に投入。ゆっくりと時間をかけてお湯と混ぜることで、沈殿したハスクなどがきれいなろ過層をつくり、雑味がなく透明度の高い清澄麦汁を得ることができます。
「白州をはじめサントリーのウイスキーに共通するクリーンで華やかな味わいは、この清澄麦汁によるもの。効率だけを追求するとどうしても濁った麦汁になってしまいますから、麦汁を得る糖化作業はていねいに時間をかけて行っています」と小野工場長。
酵母の作用によって、麦汁をアルコールへと変えるのが次の発酵工程。ここでは、ウイスキーの本場であるスコットランドでも珍しくなってきた、伝統的な木桶発酵槽が使用されています。発酵の最盛期にある木桶を覗いてみると、ぶくぶくと勢いよく真っ白な泡が立っている様子を見ることができました。
「洗浄やメンテナンスなど効率だけを考えると、木桶発酵槽よりも現在主流のステンレス製発酵槽のほうにメリットがあります。一方で、木桶発酵槽は微生物の働きを促すことで、複雑な香味成分を生む乳酸菌発酵を助けてくれるのです」と小野工場長は教えてくれました。
簡単にいえば、木桶発酵槽を長年にわたって使うことで、木桶に棲みついた乳酸菌が、ウイスキーをよりおいしくしてくれるということ。まさに、森の恵みを使ってつくられているのです。
世界でも類を見ない、多彩な原酒のつくり分け。
現在白州蒸溜所では、2014年に新たに導入された2基を含め、サイズや形状がそれぞれに異なるバラエティ豊かなポットスチルが稼働中。それぞれのポットスチルがもつ特性を利用して、数多くの個性豊かな原酒をつくり分けています。
「100を超える蒸溜所があるスコットランドとは違い、日本ではすべての原酒を自社で調達する必要があります。日本人の味覚にあった多様な製品をつくるためにも、原酒のつくり分けは私たちの永遠のテーマ。白州蒸溜所には試行錯誤を繰り返しながら、それを実現してきた歴史があります」
小野工場長が話す通り、白州蒸溜所が創業した当時は、すべて同じ形状とサイズのポットスチルが使用されていました。そこから蒸溜技術の研鑽や研究を重ね、現在のようにバラエティ豊かなポットスチルを使用するようになり、原酒のつくり分けを可能にしたのです。
蒸溜されたスピリッツは樽に詰められ、蒸溜所内にある貯蔵庫で長い眠りにつきます。貯蔵庫は天井の高いラック式で、温度や湿度は一切人の手で管理されず、自然に任せるままにされています。
白州蒸溜所で熟成に使用されるのは、おもにアメリカンホワイトオークのバーボン樽とホッグスヘッド樽。バーボン樽はその名の通り、アメリカのバーボンウイスキーの熟成に使用された樽のこと。ホッグスヘッド樽は、バーボン樽の側板を一度バラバラにして、少し大きめのサイズに組み直した樽です。
さまざまな樽に詰められた数十万樽のモルト原酒が、白州の森の空気を呼吸しながらゆっくりと熟成を重ねます。
自社の製樽工場をもち、樽づくりや樽のメンテナンスを行っているのも白州のウイスキーづくりの大きな特長です。工場では、海外からバラバラの状態で運ばれてくるバーボン樽の側板を、ホッグスヘッド樽の仕様に合わせて新たに加工し、熟練の職人が一樽ずつ組み上げていきます。
新たに材を切り出してつくられる鏡板に使用されるのは、おもにアメリカンホワイトオーク。鏡板には、ウイスキー原酒が触れる部分を炎で焦がす「チャー」と呼ばれる処理がされますが、この焦がす加減も「白州」に合わせて細かく設定されています。
洋酒用の樽を製造する工場は日本にも数えるほどしかありませんが、白州蒸溜所では創設期から製樽工場を併設して樽づくりを行ってきました。
「白州蒸溜所では海外から樽のまま輸入されたものも使いますが、貯蔵庫で見比べてみると、どれが自社の製樽工場でつくった樽かはすぐにわかります。形がきれいですからね」と小野工場長。いわば原酒が眠る“ゆりかご”とも言うべき樽にまで、繊細な日本のものづくりのこだわりが根付いているのです。
80年代からのウイスキー市場の低迷期に、白州蒸溜所では原料の厳しい選別やポットスチルなどの蒸溜器の更新、伝統的な木桶発酵槽の使用や直火焚き蒸溜釜への回帰をはじめ、数々の取り組みを行ってきました。
「原料も製法もさまざまなものを試し、その中で守るべきものは守り、変えるべきものは変えてきたのが白州蒸溜所です。私たちがつくるウイスキーの方向性は、もしかすると自分たちが決めているのではなくて、日本のファンのみなさんの嗜好が決めてきたのかもしれませんね」
そう話す小野工場長は、現在、日本だけでなく海外のウイスキーファンからも高く評価される白州のウイスキーを、「日本人の味覚に鍛えられて、日本の繊細なものづくりのなかで独自の進化を遂げてきたウイスキー」と表現します。
豊かな自然と繊細な日本人の感性が、たぐいまれなるウイスキーを生み出した。
長年にわたりものづくりの継承と革新を重ね、多くのつくり手の想いが込められた「白州」。その明るい黄金色の液色は、おもに熟成に使用されるアメリカンホワイトオークならではの色合い。新緑の森を色づかせる若葉やミントのような香りが漂い、ほのかなスモーキーフレーバーが、フルーティで複雑な香味を引き立たせます。“森香るハイボール”として知られる通り、ハイボールにもぴったり。軽快でありながら熟成感も感じられる、スタイルを選ばないシングルモルトウイスキーです。
いまや世界的な酒類コンペティションでも毎年のように受賞を重ねる白州。2018年には、酒齢25年を超える貴重なモルト原酒を使用した「白州25年」が、ISC(インターナショナルスピリッツチャレンジ)ワールドウイスキー部門最高賞であるトロフィーを受賞すると同時に、WWA(ウイスキーワールドアワード)ではワールド・ベスト・シングルモルトウイスキーにも選ばれています。
四季のある日本の豊かな自然の中で、繊細な日本人の感性が生み出した至極のウイスキー「白州」のおいしさを、ぜひ体感してみてください。
●問い合わせ先/サントリーお客様センター TEL:0120-139-310
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