記録的な猛暑や異常気象の記憶もどこへやら……。日に日に肌寒さが増してくる今日この頃は、ニットの買い頃でもあります。今回は、数あるニットウエアの中でも、エクストリームな上質さとクラス感を誇るラグジュアリーなセーター8点を厳選してご紹介します。
冬になると必ずといっていいほど恋しくなるのが、ニットウエア特有のウォーム感。シャギードッグセーターやガンジーセーターのような、クラシカルで味わい深い表情も確かに魅力的ではありますが、やっぱり″ソフトな肌触り”というのは大人の男性にとって妥協できない要素です。そこで、極上の感触と着心地を約束できる、ハイエンドのセーターを8点ピックアップしてみました。いずれもいまこそ手に入れたい、コーディネートの主役を張れる大物たちです。
1.ロロ・ピアーナ――ヤギの一生で1度だけ、30グラムしか採れない幻の繊維。
2.イル ボルゴ――かの有名メゾンも惚れ込んだ、職人技のニッティング
3.ブルネロ クチネリ――上品ニュアンスカラーと、やわらかな質感の相乗効果。
4.サルーテピウ――「カシミアシルクこそがベスト」という、ひとつの結論。
5.ジ エルダー ステイツマン――洒脱なヌケ感が漂う、シャーベット・カシミア
6.インディゴ エィエム――毛皮の頂点セーブルが、カシミアとの融合を果たす。
7.ザ・イノウエ・ブラザーズ――インカ帝国最高のステータスが、現代に蘇る?
8.クルチアーニ――ピュアホワイトに浮かび上がる、洗練の幾何学模様。
ロロ・ピアーナ――ヤギの一生で1度だけ、30グラムしか採れない幻の繊維。
ロロ・ピアーナといえば、最高級の服地から自社で生産するという、ファッション大国イタリアを代表するラグジュアリーブランド。玉石混交といわれるカシミア原毛においても、そのクオリティはトップクラスです。しかし、さらにその上の「究極のカシミア」と呼ばれるものがあるのをご存じでしょうか? それがカシミア仔ヤギの産毛(アンダーフリース)のみを使用した、その名もベビー・カシミアです。
そもそもロロ・ピアーナのカシミア製品は、中国北部とモンゴルの最高品質のカシミヤ原毛のみを使用しています。さらにベビー・カシミアにいたっては、内モンゴルの阿拉善(アラシャン)地区という乾燥地帯のみに生息する、白毛のカシミア仔ヤギから採取した産毛(アンダーフリース)しか使用しないという徹底ぶり。しかも採取できるのは、仔ヤギが1歳を迎える前の6月に、自然に抜け落ちるタイミングに限られるのだとか。成獣のカシミア繊維が15µm(マイクロメートル)なのに対し、ベビー・カシミアは驚異の13.5µm。これこそ、ベビー・カシミアが「究極のカシミア」とされるゆえんなのです。
そんな幻の繊維を惜しげもなく使用し、スタイリング自在の普遍的なデザインに仕上げた1枚は、まさに時代を超越するタイムレスな逸品と断言できます。
イル ボルゴ――かの有名メゾンも惚れ込んだ、職人技のニッティング
イタリア・フィレンツェ郊外で、1949年に創業したカシミア専業の高級ニットウエアメーカーである「イル ボルゴ」は、某有名メゾンのOEMも手がける実力派。厳選されたカシミアを原料に、伝統的な職人技術を受け継いだ手編みと、自由度の高い旧式編み機を使用した機械編みを巧みに使い分け、高いクオリティと独創的な美意識を重視したクリエイションを続けています。
ここでご紹介するセーターは、とろけるような肌触りと、どっしりしたボリューム感を融合させた、いかにもアーティザナルなハンドニットです。昔懐かしい“ダッド”な雰囲気を漂わせつつ、モダンでアーティスティックな印象も与える。そんなヨーロピアンテイスト薫る一枚は、視覚的にも体感的にもほっこりできる暖かみ十二分。ヴィンテージのジーンズに合わせても、グレーのフランネルパンツに合わせても、不思議とさまになる懐の広さがたまりません。
ブルネロ・クチネリ――上品ニュアンスカラーと、やわらかな質感の相乗効果。
メンズ&ウィメンズのカジュアルからテーラード、レザー小物、トラベルグッズ、ホームファニシングまでをトータルで展開するラグジュアリーブランド、「ブルネロ クチネリ」。その研ぎ澄まされた美意識が隅々にまで行き届いた圧倒的な世界観は、常に紳士の憧れの的です。
そんな珠玉のライフスタイルブランドにとっての記念すべき第一歩となったのが、いまなおコレクションの根幹となっているカシミア製のニットウエア。文字通り最高級にして最上質のカシミアセーターによって、世界的なゆるぎない評価と信頼を獲得したのです。
バージンウールとカシミア、シルクの混紡によるリンクス編みのセーターは、ミルクティーのような優しいニュアンスカラーが目を引きます。とにかくやわらかい肌触りをさらに加速させるような、優雅でエレガントなルックスが、“大人の余裕”を醸し出します。
サルーテピウ――「カシミアシルクこそがベスト」という、ひとつの結論。
イタリアの服飾業界に長く身を置き、そこで出合ったカシミアシルクという素材に魅せられた淺野勇人が手がける「サルーテ(イタリア語で健康の意)」。そして「サルーテピウ」は、淺野が個人に向けて販売していたものを、ディストリクトユナイテッドアローズで展開するにあたって名付けたブランド名。「ピウ」は「+(プラス)」を意味します。
その「健康を促進する」という理念は、既に実証済み。淺野の実父が大病を患い、入院を余儀なくされた時に悩まされた床ずれ。その解消に役立ったのが、自ら開発したカシミアシルク製のブランケットだったそう。肌にとても優しい素材であることを再認識し、より多くの人をこの素材で幸せにできると確信したのだとか。
シルクの手袋や靴下が、トラブルを抱えた素肌の改善に効力を発揮するという話はよく耳にします。最高級ニット素材であるカシミアの保温力や伸縮性、やわらかさに、シルクの特性をミックスする。そうすることで素肌にとって最も快適でストレスのない布地が出来上がると考えた彼の思いは、長い年月にわたる研究や実体験を経たいまも変わらない、ひとつの“結論”といえます。
「サルーテピウ」のセーターも、もちろんカシミアシルク製。ツルっと細長い梳毛向けのカシミアに、シーズンで最も品質のよい一級品のシルクをミックスしています。そして季節を問わず、インナーとしてもアウターとしても使えるハイゲージ(21ゲージ)で編むことで、カットソーのように軽やかで艷やか、そしてシンプルなクルーネックセーターに仕上げています。縫い目やブランドタグなど、肌がストレスを感じる要素を徹底的に排除。洗練とミニマルを極めた一見“なんでもない”セーターは、実は“とんでもない”気持ちよさが味わえる、至高の一枚なのです。
ジ エルダー ステイツマン――洒脱なヌケ感が漂う、シャーベット・カシミア
カナダのトロントに生まれ、ロサンゼルスを拠点とするグレッグ・チェイトが「ジ エルダー ステイツマン」を立ち上げたのは、2007年のこと。カシミアという素材に取り憑かれた彼はブランケットづくりからスタートし、徐々にさまざまなファッションアイテムやグッズへとコレクションを拡大。唯一無二のブランドとして不動の人気を確立しています。世界中から厳選したカシミアを使用しながら、紡績の段階からほぼすべての工程を自社のアトリエで行うというのも、相当ユニークです。
そんなこだわりブランドは今季、メディテーション(瞑想)をテーマとしたコレクションを展開。ロサンゼルスを舞台とした、80年代の青春映画『レス・ザン・ゼロ』にインスパイアされたといいます。ヒッピーマインドをベースとしたハッピーでピースフルな色づかいが、シンプルなクルーネックセーターにフレッシュなムードを与えています。もちろんカシミアのクオリティもトップクラス。世界各地から選りすぐった上質な原毛のみでつくり出した、50種類以上ともいわれるカシミア糸から最適な“糸”を選んで使用しているのです。
豊富なカラーバリエーションは、大人買い欲求を刺激するもの。このロサンゼルスの空気感が色濃く反映された一枚で、“米西海岸ならではのカシミア”を体感してみてはいかがでしょうか。
インディゴ エィエム――毛皮の頂点セーブルが、カシミアとの融合を果たす。
セーブル(クロテン)といえば、かの有名なミンクよりも長く艶のある刺し毛、やわらかな綿毛をもち、毛皮の頂点とも謳われる超高級素材です。実は日本では、平安時代から珍重されてきたという長い歴史もあります。しかしニットウエアに使われるのは、その“毛皮”ではなくあくまで“毛”。その毛の一本一本には微細な気孔が周密し、圧倒的な保温性を発揮します。そんな高級ニットにふさわしい優れた特徴をもちながら、毛足が短くツルツルで、糸にしづらいセーブルの毛。これをニット組織に取り入れる方法として考案されたのが、カシミアの毛にセーブルの毛をからませるように撚るというものでした。
まるで獣毛界の2大巨頭によるコラボレーションのようなスペシャルヤーン(糸)を使い、ノンシャランなスウェット風ニットパーカをつくり上げたのが、「インディゴ エィエム」というブランド。創設者でもあるデザイナーのインディゴ・A・モチヅキは150年続く日本茶貿易商の旧家に生まれ、ボーダーレス、ジェンダーレス、タイムレスな心地よさをとことん追求してきた求道者。シーンや性別、トレンドに左右されない本質的な美しさをもつコレクションを、アロマやトラベルグッズなども含めて展開しています。
そんなモチヅキのコレクションだけに、生産背景にまでその高い美意識が貫かれています。セーブルに関しては、決して生きたままのセーブルから毛皮を剥がしていないという証明書をもつ業者を探し出し、その業者が扱う毛皮の“抜け毛”のみを使用するという徹底ぶり。試行錯誤を繰り返し、あえて組織を甘めに編み上げ素材の軽さを活かすデザインを導き出しました。
一枚で羽織るもよし、コートの下のミッドレイヤーとするもよし、同色のパンツと合わせたセットアップで、リュクスを極めるラウンジウエアとして着るもよし。袖を通せば誰もがみな、うっとり恍惚としてしまうこと請け合いなのです。
ザ・イノウエ・ブラザーズ――インカ帝国の最高のステータスが、現代に蘇る?
アルパカという高級繊維を語る上で欠かないのが、「ザ・イノウエ・ブラザーズ」の井上聡と清史。ペルーのアンデス山脈に暮らす先住民のアルパカ生産者たちの生活を改善させるため、そしてアルパカ毛のさらなる品質向上のために設立された「パコマルカ・アルパカ研究所」の協力のもと、彼らは世界に類を見ない細さの高品質アルパカ素材“シュプリーム・ロイヤルアルパカ”を生み出しました。
そしてこの秋登場した“インペリアルアルパカ”は、前者の繊維が平均18µm(マイクロメートル)なのに対し、それを上回る16~17µmという細さへとさらに進化。“インペリアル”という名の通り、古代インカ帝国の王族が身に着けたかもしれない(?)レベルの高いクオリティを実現しているのです。
“インペリアルアルパカ”を使用した特別なコレクションは、写真のカーディガンの他にもクルー&タートルネックのセーターなど、ベーシックでタイムレスな傑作を展開。いずれもアルパカ毛のポテンシャルをフルに発揮した、ナチュラルでありながらもパワフルなニットばかりです。ベーシックだからこそ飽きずに着られる、心地いいからこそずっと手放せなくなる、そんな本物のラグジュアリーウエアなのです。
クルチアーニ――ピュアホワイトに浮かび上がる、洗練の幾何学模様。
古くから高級素材として親しまれてきたカシミアですが、近年は比較的手軽に手に入れられるようになってきています。しかし完成度の高いシンプルなデザインと計算しつくされた流麗なシルエットによって、カシミアという“素材の力”を最大限に引き出す「クルチアーニ」の製品を見ると、「高いカシミアはやっぱり違う」と感じさせられます。
大人の男性がカシミア製品を買うのであれば、安物買いの銭失いなどもってのほか。ワードローブのレギュラーメンバーとなるような、間違いのない選択をしたいものです。だからこそ原毛のクオリティや技術力で群を抜いている、ニット大国イタリアのなかでも一、二を争う最高級ニット専業ブランドのセーターは、最有力の選択肢となるのです。
クリーンなピュアホワイトのジャカードニットは、編み柄でのみ表現したストイックなデザインが秀逸。カジュアルアイテムでありながらエレガントな佇まいで、ひと目で高級だとわかるオーラを放ちます。デリケートな首元の当たりもソフトで快適この上ない、「これぞ最高のカシミア!」と実感できる一枚です。