最新と定番、どちらを選ぶ? Vol.04:コンフォートサンダルの代名詞「ビルケンシュトック」が大きく生まれ変わろうとしています。新しいブランドイメージを打ち出す2018年春夏コレクションと、変わらぬ歴史的な定番との、共通するアイデンティティを探ります。

脱ぎ履きしやすい実用の道具にすぎなかったサンダルの世界に、足に吸い付くような歩きやすさと、モノとしての確かな存在感をもち込んで新たな道を切り開いたのが「ビルケンシュトック」です。1980年代にドイツから日本に上陸して以来、私たちの靴の考え方に、足に優しい “コンフォート” という発想をもたらした功労者でもあります。これまで履いたことのある人や、現在愛用している人も数多いでしょう。
このビルケンシュトックがいま、大きく生まれ変わろうとしています。この2018年春夏シーズンより、グラフィカルなスポーツスニーカーやモードファッションを好む層にもフィットする、新しいアプローチのモデルが大々的に日本市場に投入されていきます。世界的にも、パリ・ファッション・ウィークで新作プレゼンテーションを行うなど、新時代を見据えた活動が目を引きます。ただしドイツ本社のCEO、オリヴァー・ライヒェルトは昨年末に来日した際、「長年愛された定番品をなくすことはせず、ドイツ国内での製造も続けていく」との力強い言葉を残してくれました。
最新と定番の両方が充実し、世界観が拡大したビルケンシュトックの全貌に迫ります。
1. 先端発想に満ちたグラフィカルな最新デザイン
2. 遊び心をプラスした、ナチュラル系の今季モデル
3. 定番こそビルケンシュトックの基本
4. サンダルの構造、創業から現在までのヒストリー
5. CEOインタビュー、新展開が始まった日本での挑戦
先端の発想に満ちた、グラフィカルな最新デザイン


このページでお届けするのは、現代的なファッションスタイルと相性のいいモダンなラインです。凝った配色、ラグジュアリーな素材感、スポーツへの接近など、ビルケンシュトックの武骨な印象を過去に追いやる意欲的なデザインが繰り広げられています。昔から続く定番の型を大きく変えず、アレンジする手法でつくられているのがビルケンシュトックらしいところ。コンテンポラリーではあっても、一過性の流行で終わらずに長く履き続けらるようになっているのです。
上写真の幾何学的なサンダルのベースも、ダブルストラップの定番「アリゾナ」。通常は茶色スエードになっているフットベッド(インソール)が黒になり、ソールも珍しい2色のバイカラーになっています。アッパーはオレンジの生地にカットした黒ラバーを貼り合わせた立体的なもの。街中はもちろん、ビーチリゾートも似合うクールなモデルです。
日常着のスポーティな服装の足元をこれに変えるだけでも、新鮮なイメージに変化させられます。ここに掲載している着こなしは、柄のアイテム同士を組み合わせた上級者向けのコーディネート。サンダル以外の服小物をくすんだトーンで揃えて全身を落ち着かせ、足元のみを華やかにすることで洒落たムードを演出しています。


遊び心をプラスした、ナチュラル系の最新モデル


ここでは、新作(新色)の中でもナチュラルな風合いのモデルをセレクトしました。昔ながらの味わい深さをキープしつつ、旬の色の組み合わせでいま風に仕上げられたものです。上写真はベーシックな「アリゾナ」ですが、アウトソールに色が入ることで印象がフレッシュに。アイビーファッションを知る人は、リゾート用のシューズであるホワイトバックスのアウトソールを彷彿とさせるレンガ色のソールにグッとくることでしょう。ファッション好きをニヤリとさせる洒落た落とし込みです。
コーディネートでお薦めしたいのは、色合いを統一させたブラウン系の服装。南国のリゾートをイメージして、リラックスしたアイテムをしっかりと着込みつつ、足元だけをラフにしましょう。決め手になるのは、上質なサングラスや腕時計などの小物類。サンダルのカジュアルさと相反するようにドレッシーな合わせ方をすれば、スポーティになりすぎないエレガントな大人の着崩しが完成します。


定番こそ、ビルケンシュトックの基本。


創業家が靴づくりを始めてから240年以上の歴史をもつビルケンシュトックは、長年生き抜いてきたモデルを定番として展開しています。新作や新色も、この定番が常にベースにあります。彼らのアイデンティティを物語る最大の特徴は、足の凹凸に合わせた形状のフットベッド。内部がコルクで盛り上げられ、表面にはおもに本革のスエードが貼られ、足の裏が滑らず汗もよく吸います。このフットベッドと、サイズ調整ができるバンドによって足が固定されるため、自由に歩き回れるのです。※ 内部構造の詳細は次ページで解説。
上写真の「アリゾナ」は、1973年に誕生した、“ザ・ビルケンシュトック” と呼べる一足。ソックス着用でも履けるため、いつでも気軽に足入れできる活用頻度が高いモデルです。世界的に最も人気な型は、このアリゾナと、トングサンダルの「ギゼ」(下写真)です。最初の一足を購入するなら、服装との合わせに便利な黒レザーのアリゾナがお薦め。ここでは、このサンダルの風格を活かした、プレッピーの着崩しスタイルをつくりました。60年代であれば靴はローファーがセオリーなところを、ビルケンシュトックにチェンジ。あえて素足で履き、サンダルならではの色っぽいスタイリングをお愉しみください。
下の写真では、そのほか定番の型と、同一の型でも2種類が用意されている靴幅の見分け方を解説しています。


サンダルの構造、そして創業から現在までのヒストリー



ドイツ生まれのビルケンシュトックのブランド名は、1774年にシューマイスターとしての記録が残る、ヨハン・アダム・ビルケンシュトックの名字に由来します。約120年後の1896年に、子孫であるコンラッド・ビルケンシュトックがフランクフルトにシューズショップを構え、フットベッドの製造と販売を始めました。足に優しいコンフォートシューズという発想から出発した彼らは、1920〜40年代を中心に足の医療的な研究を続け、足病学の教科書も発刊し医師を指導するなど、健康と足の矯正に特化した存在になっていきました。医療現場との深い関わりは、時を経た現在まで続いています。
ターニングポイントを迎えたのは、63年のこと。初のワンストラップサンダル、「マドリッド」の誕生でした。サンダル製造へと歩みを進め、73年にはダブルストラップの「アリゾナ」を、78年には爪先が覆われた「ボストン」をリリースするなど、積極的にニューモデルを展開。この時代にファミリー向けのファッション性のあるサンダルであることを示す広告も展開し(下写真)、シューズ市場に独自の道を切り開いていきました。
日本に本格上陸したのは80年代前半です。サンダルの概念を打ち壊す歩きやすさと、我が国好みのカジュアルな服装との相性のよさから瞬く間に人気を博し、幅広い世代に広まっていきました。これまで日本では代理店を通して市場展開していた同ブランドが、2017年になりビルケンシュトック・ジャパンを設立。本国が主導する体制に生まれ変わったことで、新しいアプローチを見せています。未来へ続くストーリーは、次ページにて。


新展開が始まった日本での挑戦を、CEOが語る。


ビルケンシュトックは世界中、特にアメリカ、オランダ、日本といった国でファッション性の高いブランドと認知されていますが、こと日本に関してはこれまで、モダンなアプローチが打ち出されてきませんでした。ビルケンシュトック・ジャパンの設立とメディア向けプレゼンテーションのために来日したCEOのオリヴァー・ライヒェルト(下写真)は、「ビルケンシュトック・ジャパンの誕生により、ブランドの先鋭的な側面も見せられるようになりました」と語ります。
彼が日本での将来の展望を語りました。
「健康に配慮した靴であることはビルケンシュトックのアイデンティティであり、常に大切に考えていることです。医療関係者、職人といったプロフェッショナルな人々も、我々の重要な顧客です。ただ近年はファッション寄りに少しギアチェンジを図っています。とはいえ、日本の皆さんはご存じないかもしれませんが、実は20〜30年前からすでにアッパーを変更したり、デザイン性の強いモデルを手がけてはいたのです。日本法人を設立したことで、こうした活動をもっとお伝えできるようになりました。逆に、東京の先端情報をダイレクトにこちらにフィードバックしてもらえることも期待しています。セレクトショップや百貨店などの高感度な販路を通じて、ハイエンドなデザインの靴を発信していきたい。ビルケンシュトックの現在を、日本の皆さんにぜひご覧いただきたいのです」
新しいアプローチが楽しみな半面、気になるのは従来のクラシックなヘリテージライン(定番)も入手できるかどうかですが……。
「もちろん、もちろん、もちろん!(笑) ヘリテージだけでなく、どの靴にも必ず快適な履き心地のフットベッドを使うことをお約束します。さらに、ドイツの自社工場による高品質な製品づくりも、今後も変えるつもりはありません」
昔ながらのモデルが好きな人はCEOの頼もしい言葉を聞いてひと安心でしょう。一方で、最新デザインへの期待にワクワクする人も多いに違いありません。最新と定番、その両方とも紛れもなく、ビルケンシュトックなのです。


●ビルケンシュトック・ジャパン TEL:03-6452-6577 www.birkenstock.com/jp