建築家、吉村靖孝の心を動かした、「ブシュロン」の作品と空間。

  • 写真、ムービー:宇田川 淳
  • 文:大隅祐輔
  • ムービー:bueno
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常識を覆す意欲と巧みな技術、確かな先見性をもつ「ブシュロン」は、160年もの間パリを代表するハイジュエラーとしての地位を確立しています。今回、建築家 吉村靖孝さんが、ブシュロン銀座を訪れ、建築家の視点から見て興味深いと思うもの、そして女性に贈りたいギフトについて聞きました。スペシャルムービーとともにお届けします。


さまざまな芸術潮流が生まれた19世紀末。当時最も美しいといわれていた女優、サラ・ベルナールのために、彼女が愛するペットたちをモチーフにした斬新なジュエリーを多数製作した「ブシュロン」。男性が身に着ける時計の定番が懐中時計だった20世紀初頭には、ベルギー国王レオポルドII世ためにゴールド、サファイア、ルビーを使用した腕時計をつくるなど、常識を覆す意欲と巧みな技術、確かな先見性をもち続け、それ故に「ブシュロン」は160年もの間、時代をリードするハイジュエラーとしての地位を確立し続けています。

「ブシュロン」は、パリ・ヴァンドーム広場にブティックを開いた最初のジュエラーとして、広場のなかでもとりわけ日当たりがいい26番地に本店を構えています。提供し続けてきたのは美しいジュエリーだけでなく、大切な友人を自宅に招くような温かさと高級感をあわせもった空間。

ブシュロン銀座においても、その考えは一貫されています。今回、ブシュロン銀座を訪れ、ジュエリー、時計、そしてサービスに触れ、その印象を語ってくれたのは建築家、吉村靖孝さん。環境や社会背景などを考慮した、さまざまなタイプの建築を設計してきている吉村さんは、建築やパリの街並みからもインスピレーションを得ているというブシュロンのジュエリーならびにブシュロン銀座をどう見るのでしょうか。

いろいろなストーリーが垣間見られる「キャトル」のデザイン。

異なる素材とテクスチャーのリングを幾何学的に重ね合わせたブシュロンの定番「キャトル」を眺め、感心している様子の吉村さん。

吉村さんが手がける建築は実に多様です。住宅、公共施設、ホテル。いわずもがな、それぞれによって広さ、目的、用途はすべて異なりますが、共通しているように思えるのは、建てられている土地に馴染み、親しみやすいシンプルさをもち、かつ与えられた条件をフルに活用した大胆さを併せもっていること。まず吉村さんに、これまでつくり上げてきた建築に一貫されている考え方についてうかがいました。

「建築は建築家の欲望を自由に表現するものではないと考えているんです。環境や施主の方がもっている土地の広さなど、いろいろな制約があるなかでつくらなければならない。しかし、それらをネガティブに捉えるのではなく、うまく乗りこなせば、創作のきっかけへと逆転することがあります。その考えがよく表れているのが、以前、葉山につくった『窓の家』と名づけた住宅。海沿いの風光明媚な場所なので、なにも考えずに建ててしまうと、眺めの邪魔になってしまう可能性があった。そこで、海側と山側に同じサイズの大きな窓をつくり、カーテンを開けば、眺望を維持できる設計にしたんです」

指にはめたのは、ブラックとホワイトゴールドの2トーンがシックな印象を醸す「キャトル ブラック」のリング。「ダイヤモンドがちりばめられているのに、間に挟まれているせいかゴージャス過ぎない。素晴らしいアクセントになっていますね」
「キャトル」にはリングだけでなく、写真左のカフスに加えブレスレット、ペンダントもラインアップされています。「同じデザインなのだけれど、別のものにも変わる高い拡張性をもっている。ギフトとして贈ってみたい、ユニークな逸品」

吉村さんが重視するのは、建物から創出されるさまざまなストーリー。「窓の家」は家主だけでなく、そこの周りを行き交う人びとも考慮した、開かれた家なのです。今回は、そういった独自の視点でブシュロンのコレクションを見てもらいました。吉村さんの心を動かした一品とは。

「とりわけ気に入ったのは、『キャトル』ですね。異素材の4つのリングが幾何学的に重なりひとつになっていて、それぞれのデザインも丸みがあったり、パリの街並みにある石畳を連想させるパターンになっていたりと、意匠が異なっている点も面白い。さらに、組み合わせの楽しさを味わえるところもユニーク。コレクションとして一括りになっているけれども、人によって選び方も変わってくるでしょうから、いろいろなストーリーがこれひとつから垣間見えてきます」

TPOによって洋服を変えるという吉村さんが「モダンで、あらゆるシーンで着けられそう」と手に取ったのは、ラウンドフォルムが美しい、ブラックアリゲーターをベルトに採用した、清潔感のあるウォッチ「エピュール」。

1947年に誕生した伝統的なウォッチ「リフレ」のラージモデル。ケースに採用された、ゴドロンという波打つように刻まれた縞模様は、1889年の開発以来、さまざまなコレクションに用いられているブシュロンの象徴ともいえるモチーフ。12時位置にレイアウトされたカボションサファイアが、さりげなく輝いています。右:自動巻き、ステンレススチールケース ¥604,800 、左:自動巻き、ピンクゴールドケース ¥1,987,200
シルクリボンのようになめらかな質感をもつ「グログラン」。卓越したカッティングがきらめきと強い反射を生む「ダイヤモンド」。ブシュロンの本店が位置するパリ・ヴァンドーム広場の石畳を表現した「クル ド パリ」。縞模様の「ゴドロン」の4つのモチーフでキャトルは構成されています。コンビネーションの仕方、サイズの違いで、雰囲気は大きく変わっていきます。上:「キャトル ブラック」リング ラージ、WG、ブラックPVD、ダイヤモンド ¥1,101,600 中:「キャトル ブラック」リング スモール、WG、ブラックPVD ¥467,640 ※ダイヤモンドなし 下:「キャトル ラディアント」リング、WG ¥255,960
時計にも、ジュエリーの製造で培ってきた美学が反映されています。吉村さんが触れていた「エピュール」は、「リフレ」とは趣が異なりますが、カボションサファイアが同じ位置に飾られ、クラフトマンシップによるていねいな仕事、巧みな仕上げなど、モノ作りへのこだわりは一貫しています。右:自動巻き、ケース径42㎜、ピンクゴールドケース ¥2,754,000 左:自動巻き、ケース径42㎜、ステンレススチールケース ¥615,600
「キャトル」を見ると、オランダの建築家チーム「MVRDV」に所属していた時代に、ハノーバー万博に出展した建築を思い出すと、吉村さんは言います。「5層で構成されていて、一層ごとに展示や空間がまったく別のものに変わる建物だったのですが、境界線をあえて強調しているようなデザインの『キャトル』にも、同様のダイナミズムを感じます」。上から:「キャトル クル ド パリ」 ブレスレット、WG ¥820,800、「キャトル グログラン」 ブレスレット、WG ¥820,800、「キャトル クル ド パリ」 ブレスレット、YG ¥777,600、「キャトル クラシック」 リング ラージ、WG、YG、PG、ブラウンPVD ¥583,200 

自分が素直にいい、面白いと感じたものを贈りたい。

「リフレ」スモールモデルを手に取る吉村さん。「リフレ」は当初、男性に向けた美しい時計として誕生したのですが、サイズが小さな女性向けであっても、その美しさは継承されています。

吉村さんは身に着けるものを選ぶ際、「ひと目見ると普遍的なんだけれども、実は遊びや仕掛けがあったり、細部のディテールにこだわっているものを手に取る傾向にある」と言います。その基準は、女性に対する贈り物を考える時も同じなのだそう。

「好きな女性にはできるだけ、私自身が素敵だなと思えるものを身に着けていてほしいんです。そのため、贈るものも必然的に自分がいいと感じたものになってしまう(笑)。『キャトル』や『リフレ』はユニセックスで展開されているところが嬉しいですよね。自分が素直に格好いい、面白いと思えるものを、そのままプレゼントできる。男女を問わず、多様性がある点こそがブシュロンの定番になっている所以なのでしょう」

さらに吉村さんは、ブシュロン銀座が位置する銀座の街の起こりについて語ってくれました。

「銀座にはもともと、百尺(=およそ31m)規制という建物の高さ制限が設けられていたんです。現在、それは撤廃されていますが、その規制の影響で、同じくらいの高さをもつ建物が軒を連ねる独特な街並みが形成されて、今でもその雰囲気は色濃く残っています。銀座の光景は住宅が隣あわせになり、屋根の凹凸が結ばれている、パリの街によく似ている。ブシュロンの本店がパリの中心であるヴァンドーム広場に構えていると聞いて、日本のブティックが銀座にある意味がよくわかりました。

中に入ってみても、カーテンがかけられていたり、壁が書棚になっていたり、品のあるファブリックを使った椅子が置かれていたりと、整然としたブティックというよりも、どこかこぢんまりとした邸宅を思わせる落ち着ける空間が広がっています。訪れた感覚は、誰かの家に招かれたかのよう。何気ない時でも来てみたくなるブシュロン銀座は、私のような建築家に限らず、多くの女性の心をもときめかせてくれるはずです」

右から男女共に身に着けられる「キャトル クラシック」、ダイヤモンドがちりばめられた「セルパンボエム」、鮮やかなピンクがフェミニンさを強調する同じく「セルパンボエム」のペンダント。「セルパンボエム」の2本は日本限定。
精巧にカットされた琥珀色のシトリン、それを縁取るゴールドビーズが非常に繊細な「セルパンボエム」のリング。男性でも感動を覚えるほどの巧みの技が、存分に活かされている。
2つのキュートなペンダントは日本限定モデルとしてつくられたもの。上から時計回りに:「セルパンボエム」リング スモール、PG、オニキス ¥211,680、「キャトル ホワイト」 リング スモール、YG、WG、PG、ダイヤモンド、ホワイトセラミック ¥766,800、「セルパンボエム」ペンダント エクストラスモール、PG、ダイヤモンド ¥306,720(日本限定)、「セルパンボエム」ペンダント スモール、PG、ピンクマザーオブパール ¥240,840(日本限定)
愛と守護のシンボルである蛇をモチーフにした、ツイストチェーンがあしらわれているコレクション「セルパンボエム」。右上から時計回りに:「セルパンボエム」 リング スモール、YG、シトリン ¥232,200、「セルパンボエム」 トワエモアリング ミディアム、YG、ダイヤモンド ¥1,026,000、「セルパンボエム」 ブレスレット、YG、ホワイトマザーオブパール ¥227,880、「セルパンボエム」 リング エクストラスモール、YG、ダイヤモンド ¥306,720 
「キャトル」はブシュロンのアイコン的コレクション。豊富なバリエーションを誇る。上から:キャトル ラディアント」リング ラージ、WG、PG、ダイヤモンド¥1,285,200、「キャトル ラディアント」リング スモール、WG、PG、ダイヤモンド ¥864,000、「キャトル クラシック」ペンダント、WG、YG、PG、ブラウンPVD、ダイヤモンド ¥329,400、「キャトル ホワイト」ペンダント、WG、YG、PG、ホワイトセラミック、ダイヤモンド ¥324,000
ダイヤモンドの輝きが心に火をつけるジュエリー&ウォッチ。右上から:「セルパンボエム」 リング スモール、WG、ダイヤモンド ¥461,160、「リフレ」スモールモデル、ステンレススティール、ダイヤモンド ¥939,600、「セルパンボエム」 ペンダントスモール、WG、ダイヤモンド ¥702,000

吉村さんが高く評価しているブティックの一室。「高さは4階まであるけれど、ひとフロアごとのスケール感は住宅のよう。普段訪れるレストランについてもいえることなのですが、私はデザイナーがしっかりとデザインしたものがどうも苦手なんです(笑)。生活に関わる空間に対しては、オーソドックスでクラシカルな、安心して居られるところを求めてしまうんですよね」


吉村靖孝(建築家)

1972年生まれ。97年早稲田大学大学院在学中に、オランダの建築事務所MVRDVに在籍。2005年吉村靖孝建築設計事務所を設立。代表作に「Nowhere but Sajima」「中川政七商店新社屋」など。13年より明治大学特任教授も務める。


ブシュロン銀座

東京都中央区銀座5-4-4
TEL:03-5537-2200
営業時間:12時~20時 水曜不定休
問い合わせ先/ブシュロン カスタマーサービス TEL:03-5537-2203
(10時~19時、土日・祝日・年末年始を除く)

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