夜が長く、家で過ごす時間も増える冬の時期。温もりのあるノルウェーのインテリアアイテムが豊富に揃う一軒家のショップ「NORWEGIAN ICONS」に足を運んでみませんか。
北欧デザインの雄、デンマークやフィンランド、スウェーデンに比べ、いまひとつ存在感が薄いノルウェーのデザイン。アイコン的なプロダクトもスターデザイナーもすぐには思い浮かびません。けれども、いまままであまり紹介されてこなかっただけで、実は魅力的な家具やアクセサリーがたくさん隠されているのです。知られざるノルウェーデザインを発掘しに、渋谷区富ヶ谷にある「NORWEGIAN ICONS」を訪ねました。
自然に向き合い、内面を反映するノルウェーのデザイン
渋谷区富ヶ谷、最近は奥渋谷とも言われる人気のエリアにひっそりと佇む「ノルウェージャン・アイコンズ」。ほんの数軒離れたオスロ発の人気コーヒーショップ「フグレン」が運営するショールーム兼家具ショップです。
以前は美容室だったという昭和レトロな雰囲気を残す店には、ダークトーンの木の家具、モダンデザインの照明、フォークロア調のブランケットなどの小物が一体となってコーディネートされ、日本的な空間ともしっくりと馴染んでいます。
もともとフグレンは、バリスタとバーテンダーとヴィンテージ家具のバイヤーという3人のオーナーが始めた店。ヴィンテージ・デザインをコンセプトの一つにしていて、お店で使っているインテリアアイテムをその場で買えるというのが特徴です。その活動の一環で、ノルウェー・デザインが知られていない現状を危惧し、認知を広げようと、数年前には展示会「NORWEGIAN ICONS」を企画。1940〜75年のノルウェー・デザイン黄金期を中心とした家具や小物を紹介し、反響を呼びました。けれども、ヴィンテージ品は高価で数も限られ、なかなか手が届かないもの。次のステップとして、ヴィンテージの復刻品と、現代のノルウェーデザイナーの作品を紹介する店をオープンしました。
店内はリプロダクトと現代のデザイナーによる新旧のインテリアアイテムが違和感なく組み合わされ、ディレクターのぺぺ・トルルセンによる一貫した審美眼でものが選ばれているのを感じます。
一番の人気アイテムは照明だといいます。照明デザイナー、ビルゲル・ダールによるスタンド「Birdy」とペンダント・ランプ「Dokka」は1954年のミラノ・トリエンナーレで金賞を受賞した名作。メタルの質感と現代的なカラーリングがすっきりとした形の美しさを引き立てています。
一方、静かなグレーのグラデーションが印象的なペンダントはストーンウェア製で、若手デザインデュオNoidoiによるもの。天然素材とオーガニックなフォルムによるプロダクトは、自然からインスピレーションを得てきたノルウェー・デザインの伝統を受け継いでいます。このように新旧のノルウェーデザインが入り混じるのも、魅力とひとつと言えるでしょう。
温かみを添える北欧らしいテキスタイルも充実しています。「ブーナッド・ブランケット」はノルウェーの伝統衣装ブーナッドに影響を受けたもの。地方ごとに異なる色や柄をモチーフにして、黒や赤、青などのはっきりした色合いを取り込んだ力強いデザインは、インテリアのアクセントにもなります。
絶妙な色合いのデザイン性の高い玄関マットは「ヘイマット」。裏にゴムが張ってあり、滑らないので、キッチンマットやラウンジチェアの足元に敷くラグとして使う人もいるそう。足元の寒い土間に敷いても良さそうです。元々業務用としてつくられていたので、耐久性が高く、洗濯機で洗えるのもポイント。カラフルですが深みのある色味は落ち着いた空間にも馴染みます。
もちろん、ブランドの出発点であるリプロダクトの名作家具も揃っています。
なかでも象徴的存在なのが、ハンス・ブラットルゥがデザインした「スカンディア」シリーズ。幅の狭い木製合板をスリット状に組み合わせ、弾力をもたせた椅子は、まさにミッドセンチュリーの機能とオーガニックな美の融合。シープスキンを組み合わせれば冬仕様に、夏にはテラスなどで使っても気持ちがよいそう。
ノルウェー・デザインの特徴は力強く、正直なものが多いのが特徴。色調もほかの北欧諸国よりダークで、レザーやメタルなどマスキュリンな素材使いが目につきます。マネージャーの福田和貴子さんは「山が多く、フィヨルド地形で閉ざされ孤立しがちな地形から、厳しい自然に向き合い、内面を反映するようにしてつくられたものが多いからでは」と分析します。
決して派手ではなく、慎ましく、内に向かう陰影がある。どこか日本の美意識にも通じるものがあるような気がしました。
家具とコーディネートする、ヴィンテージ・スタイルの食器や雑貨も充実。
これほど豊かで特色のあるデザインがあるにも関わらず、これまでノルウェー・デザインにあまり光が当たらなかった背景には、他の北欧諸国のように国策としてデザインを打ち出してこなかったことがあります。60年代にノルウェーに豊富な石油資源が発掘され、デザインに頼らなくても十分な国益を得るようになって以来、次第に家具産業は下火になっていきました。けれども、近年は国のアピールポイントとして、再びデザインに力を入れていると言います。
「ヴィンテージ家具のリプロダクトや新しいデザイナーと共作するノーザンライティングなどの新しいメーカーが出てきて、ノルウェー・デザインのリバイバルが起こっています。そうしたなかで、Noidoiなどの注目の若手デザイナーも登場しています」(福田さん)
そうした現代のデザイナーたちのテーブル小物やアクセサリーのラインナップも、「NORWEGIAN ICONS」には増えてきました。
「当初は家具が中心で、リプロダクトとはいえなかなか気軽には買えなかったのですが、ようやくライフスタイルブランドとしてトータルにコーディネートできるようになってきました」と福田さんは言います。
カラフルなグラデーションやグラフィカルなドリップが目を引くテーブルウェアは1943年創業のフィッギオ社のもの。ノルウェーでは国民的なブランドですが、日本での取り扱いがなかったため、あまり知られていませんでした。最近はノルディック・キュイジーヌのレストランと開発したモダンなイメージのテーブルウェアを発表しています。今では数少ないメイド・イン・スカンディナヴィアの陶磁器ながら、手頃な価格帯も魅力。色や柄を組み合わせて使うのもお薦めです。
木とステンレスの組み合わせがヴィンテージのようなカトラリーはゲイロ社の「スカウグム」。キボニーという合成木材を使い、見た目や質感は木のようでありながら、食洗機にも対応するなど、扱いやすいのもうれしい。ゲイロ社はノルウェー王室も御用達で、品質には定評があります。
オブジェやアクセサリーも現代のものでありながら、ヴィンテージのようなテイストがあり、シックで重厚な家具をより引き立てます。こうした小物使いや空間のスタイリング、日本的な空間とのコーディネートなどに、ヴィンテージ・バイヤーであり、フグレンのスタイルをつくり出してきた、ぺぺのセンスが感じられます。
フグレンがノルウェーのヴィンテージ・スタイルを紹介する店だとしたら、「ノルウェージャン・アイコンズ」は日本の空間にノルウェーのデザインを落とし込んだ、今のライフスタイルを発信する店。侘び寂びを感じるノルウェー・デザインというこの店の魅力をぜひ訪れて味わってみてください。
NORWEGIAN ICONS
住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-16-8
TEL:03-5738-7671
営業時間:11時〜18時
定休日:月〜木(その他の日時はアポイントメント制)
アポイントは右記メールアドレスまで wakiko@fuglen.no