先進の映像表現で世界から高い評価を得るメディアアーティスト、真鍋大度。最先端の技術を駆使するトップクリエイターと写真との関わり、そして、その魅力や可能性について語ってもらいました。
リオオリンピックの閉会式で披露された「トーキョーショー」をはじめ、ビョークやパフュームら国内外アーティストのPVやライブ演出など、ジャンルを超えたさまざまな舞台の映像演出を担当。AR(拡張現実)やプロジェクションマッピングなどの最新技術を駆使した圧巻の映像表現で世界中を魅了し続ける、メディアアーティストの真鍋大度さん。
自らのインスタグラムには日常の風景が頻繁にアップされ、また、ネット上では8年間にもわたり写真日記を公開するなど写真との付き合いも長く、「写真から学ぶことも多い」と語るなど、真鍋さんにとって写真はクリエイションを触発する存在でもあるようです。今回は間近に迫った公演のリハーサル現場にお邪魔し、真鍋さんから写真との関わりや表現としての可能性をうかがいました。
写真の魅力は、想像力を掻き立てること。
真鍋さんの日常が、もっともよく表れているのがインスタグラムです。「ダンスレッスンと日々の記録」のタイトルどおり、旅先や制作に携わったイベントの光景に友人、仕事仲間とのポートレイト。また時折、ダンスレッスンの動画などもアップされています。
「インスタは日記みたいなもの。後日それらを見て振り返るのが好きなんです。ただ、スマホで気軽に撮れる分、撮影枚数は膨大になる。僕は撮るという行為以上に、それをいかに整理するかということに関心があるので、画像には位置情報やイベント名などのタグを付けてポストしています。そうしておけば、観たい時にすぐアクセスできる。過去の画像やタグ情報、そしてコメントなどを見てみると、ほんの1、2年前でも環境や考え方の違いがみえることもある。インスタでは、そうしたライフログ的な愉しみ方をしていますね」
真鍋さんと写真との関わりはインスタグラムだけに留まりません。カメラもデジタル一眼レフカメラのキヤノンEOS 7Dをはじめ複数台を所有し、ネット上で写真日記を公開していたほどのヘビーユーザーなのです。
「祖父がカメラマニアで、家にはたくさんのカメラがありましたから、幼い頃から身近な存在ではあったのです。ただ、僕が本格的に色々始めたのは、カメラからPCに画像を取りこめるようになった頃から。背景のボケなどを気にしたくなって、デジタル一眼レフカメラを購入しました。当時、日記であげていた画像を見ると、写真が格段にキレイになっている(笑)。そういう写真の変化も楽しいじゃないですか」と語ります。
「撮影するのは主に旅先の光景です。最近は仕事での旅が多くなったので、ゆっくりと撮影する機会も少なくなり、ちょっと寂しいですね」という真鍋さん。シャッターを切りたくなる光景や瞬間とは? そんな質問をぶつけると「すごく難しい質問です。もちろん、その時はいいなと思って撮るのですが、後で見返して『なんでこんな景色撮ったんだろう』って思うことも多いんですよね(笑)」と、苦笑します。そんな真鍋さんにとって「写真」の魅力とはなんでしょうか。
「動画って、その時の様子がかなり直接的に思い出せるし、ある意味生々しいですよね。でも、写真はその瞬間だけを切り取っているので、その分、色々と想像を膨らませることができるし、当時のこともオブラートに包んだ感じで思い起こすことができる。そんな、想像力を掻き立てる写真ならではの特性も好きなんですよね」
「どう撮るか」より、「なぜ撮ったのか」が大事。
最新技術を駆使した斬新な映像表現を創出する真鍋大度さんにして、写真から学ぶところも多いといいます。また真鍋さんは、「写真もメディアアートとしてみることもできる」といいます。
「写真もメディアアートとして捉えることが出来ますが、鑑賞者の解釈や感性に委ねる部分が非常に多く、メタ(高次元)な思考が必要とされる抽象的な表現だと思います。写真は機械と人間が協業した最初の表現手段であり、長い歴史をもつ芸術だけに鑑賞者との関係性も確立されています。新しい表現を模索する中で、その歴史や鑑賞者との深い関係性をもつ写真からは学ぶことが多いと感じています」
「動」のメディアアートと「静」の写真。それら表現の共通点とはどこにあるのでしょうか。
「カメラの機能が進化したいま、誰もがある程度の写真を撮ることができるので、どう撮ったかというよりも、なぜそれを撮ったのかというところを表現の核としていることが明確になっている。永遠に続く映像メディアの中の瞬間をどう切り取って表現するかという思考の積み重ねであり、それを極限まで削ぎ落としたのが写真という静止画の表現であり芸術だと思います」
フィルムからデジタルへの移行と、ここ20年で写真(カメラ)も大きな変革を遂げています。インターネット時代のいま、真鍋さんに「写真の未来」を伺いました。
「ネット上の膨大な画像を用いることで画像解析のアルゴリズムが進化して単純な形や色の解析でなく、文脈の解析までが出来るようになった。コンピューターのプログラムが写真を観て『若い女性が森の中で夕日を眺めている』というようなことを理解できるようになってしまった。つまり、画像の選別などこれまで人間がやってきたことの多くをコンピューターで代替できるようになった。いま、そうした変革期のまっただ中にあって、今後は写真のあり方も変わってくるだろうし、その進化が新たな写真芸術を創り出す可能性を秘めていると思います」
そして、真鍋さんも写真を題材に、AI(人工知能)による実験的な試みを行っています。
「昨年、ある雑誌で行った『AIはプロの写真家に近づけるか?』という企画です。これは、プロが撮影したある数百枚の写真の中から、AIでベストな1枚を選び出すというものなのですが、その判断基準が難しい。編集者、スタイリスト、メイクさんなどの視点をトラッキングしたり、統計的にどれが良い写真家を推定したり試みましたが、人間が悪いと思う写真は機械も判断出来ますが、良い写真を選ぶことはまだまだ難しい。ただ、そうやって、AIにどうやって写真の良し悪しを判断させるかを試みることによって改めて写真の面白さに気がつくことも多く、より色々な視点から写真を観ることが出来るようになったと思います」
写真は瞬発力が必要な、身体的表現でもある。
メディアアーティストである傍ら、DJやVJの肩書をもつ真鍋さん。いまもイベントなどでその腕前を披露しています。そんな話を向けると、「DJと写真って似てますよね」と意外な言葉が……。
「いや、身体的にはどちらも瞬発力が重要だなって(笑)。普段やっているメディアアートって製作期間が半年くらいにわたるものがほとんど。一方、DJはお客さんの反応を見ながら次はどの曲をかけようかという、その場の判断がすべてです。写真も同様で、いい景色だな、面白いシーンだなと思ったら、その瞬間的にシャッターを切りますよね。仕事ではそうした瞬時の判断で行動を起こすという脳の使い方があまりないので、DJも写真も純粋に楽しんでやれるもの。僕には欠かせない行為であり趣味なのです」
写真撮影を「心身のリフレッシュを兼ねた楽しい趣味」と語る真鍋さん。では今後、撮りたい風景やシーンなどはあるのでしょうか。
「いわゆる普通の撮影とはちょっと違うのですが、いま考えているのは、1台のカメラだけでなく100台、いや1000台くらいの膨大なカメラで同時に撮影した画像からなにかひとつの作品を作り出してみるとか、そんな撮影にチャレンジしてみたい。……あ、それはもう仕事の範疇になっちゃうか(笑)。でも、まだ誰も見たことのない写真であり、作品になると思うのでチャンスがあればぜひ撮影してみたいですね」
最後に、キヤノンの新型ミラーレスカメラ「EOS M6」の印象を伺いました。
「デジタル一眼レフカメラって、少し気合が必要じゃないですか(笑)。その点、充実の撮影機能をもちながらこのコンパクトなサイズ感は、普段使いに最適だと思います。また、スチールカメラを思わせるオールドスクール的なデザインもいい感じですよね」
普段からキヤノンのデジタル一眼レフカメラを操る真鍋さんだけに、EOS M6にも歴代のカメラから受け継がれたDNAを感じ取ります。
「ダイヤルの配置など、快適に操作できるよう設計されたユーザーインタフェースも素晴らしいと思います。このEOS M6も、そうした思想が受け継がれているでしょう。魅力的なミラーレスカメラですよね」
※EOS M6スペシャルサイトはこちらから