新潟が誇る地酒の代表格、朝日酒造の「久保田」。地元のみならず広く全国で愛されている理由は、その味わいだけではありません。常に未来を見据え、ひたむきに努力を重ねる酒づくりの背景に迫りました。
新潟の日本酒といえば、口当たりがやわらかくキレのよい淡麗辛口が主流。
そのイメージはそのまま「久保田」の味わいにほかなりません。つまり「久保田」は、それほどまでに名を知られている新潟の地酒の代表格ということになるでしょう。
今回は、蔵元である朝日酒造を訪れ、老舗酒蔵の酒づくり精神に触れることで「久保田」の新たな魅力を探ります。
水、米、人──、最高の地酒を目指して。
朝日酒造のある新潟県長岡市は、日本でも有数の豪雪地帯に位置します。実は、その雪が酒づくりにとって大きな役割を果たしていることをご存じでしょうか? 冬に積もった雪は、春には溶けて大地へと染み込み、地中深くの礫層(れきそう)により長い時間をかけて濾過され、湧き水となります。この清らかな水は、田圃に入っては酒米を育て、酒蔵では仕込み水として使われるのです。この“酒づくりの命”ともいえる水が、朝日酒造の酒づくりを支えているのだといえるでしょう。
また、“酒づくりは米づくりから”を合言葉に、1991年からは有限会社あさひ農研を設立し、地元の農家と連携して、酒米の品質向上や新品種の育成を推進。そのこだわりは、かつての蔵の杜氏の言葉に強く表れています。「酒の品質は、原料の品質を超えられない」。だからこそ、最良の品質をもつ米を目指して、日々研究と実践を繰り返しているのです。そういった努力のなかから、五百万石やたかね錦、千秋楽といった酒米を用いた価値の高い商品が生み出されています。
原料となる水と酒に加え、酒づくりに決して欠かせないものが蔵人の技と心です。「久保田」がつくられる醸造蔵はコンクリートづくりの建物で、内部は隅々まで設備が整えられ、クリーンな環境が維持されています。そんな現代的な蔵のなかでも、手間暇をかける酒づくりの工程は変わりません。最も重要なのは蔵人の手なのです。気候や気温の変化を察知し、常に原料の状態を見極めながら、蔵人は先人たちの想いを引き継いでいるのです。
新潟の文化の一翼を担う、朝日酒造の試み。
清らかな湧き水、その水と太陽に育てられた米、澄み切った空気。日本酒は豊かな自然により醸されるものです。朝日酒造では、本社のある新潟県長岡市越路地域の自然環境を守るため、地元の方々と力を合わせて活動に取り組んでいます。
そのうちのひとつが“ほたるの里づくり”。きれいな水環境の指標でもあるホタルの幼虫を育て、近隣の小学校の授業の一環として観察したり、ホタルが生息しやすい環境を維持するため、地元農家とともに農薬の使用を抑えた農法を実践したりしています。
もうひとつのおもな活動が“もみじの里づくり”です。
朝日酒造の創立70周年事業として、四季折々の美しい景観を楽しめる「もみじ園」の造成に協力。毎年、紅葉シーズンには多くの観光客が訪れる名所となっています。さらには、未来を担う子どもたちに自然を大切にする心をもってほしいとの願いを込めて、もみじの苗木を地元の新中学生ひとりずつに贈呈。
そのほかにも、2001年には公益財団法人“こしじ水と緑の会”を設立し、朝日酒造が主体となって自然環境の保全活動や研究活動に取り組むとともに、さまざまな活動に対して助成を行っています。
そして、地元とのつながりという点で忘れてはならないのが「久保田」の顔であるラベル。使われているのは、同じ新潟でつくられている越後門出和紙と小国和紙です。特に「久保田 萬寿」のラベルは大きな一枚の和紙を裁断したものではなく、一枚一枚が手漉きでつくられたものなので、ラベルの端には和紙の素朴な風合いが活かされています。
土地の恵みを大切にした酒づくり、さまざまな自然保護活動、そして「久保田」のラベルにも、地元を愛し、新潟の文化を広めていこうという朝日酒造の想いが表れています。
「久保田」の新たな楽しみ方を、銀座で発見。
そんな「久保田」の萬寿や千寿といったラインアップのほか、夏酒の翠寿(すいじゅ)をはじめとする季節限定酒や生原酒、朝日酒造の最高峰銘柄「洗心」などを揃え、新潟の郷土料理を肴に堪能できるのが、東京・銀座にある日本料理店「久保田」です。ブランド誕生30周年という節目に合わせたオープンとあって、改めて「久保田」の真価を伝えていきたいという意気込みを込めた、さまざまな提案が用意されています。
たとえば温度。純米大吟醸である萬寿を、温度が10℃異なる2杯で飲み比べ、味わいの変化を楽しむことができる飲み比べセットがあります。たった10℃の差で? と驚く方もいるかもしれませんが、設定温度10℃では甘みのなかにキリッとした味わいが感じられ、20℃になると米本来の旨味がさらに引き出され、吟醸香が華やかに膨らむのが感じられるのです。
そして酒器もまた、日本酒を楽しむ際に重要な要素です。一般的には飲み口の厚さで甘みが、口径の大きさで酸味が、酒器の高さで苦味が変化するといわれています。ブドウの品種に合わせてワイングラスを選ぶように、冷酒なのか燗酒なのか、口当たりのよさを引き立てたいのか、存分に香りを膨らませたいのか、酒の楽しみ方によって酒器を変えて飲んでみてもよいでしょう。
こちらでいただける料理はすべて、「久保田」との相性を吟味されたものばかり。栃尾油揚げやのっぺい汁、布海苔蕎麦(ふのりそば)といった新潟の郷土料理のほか、のどぐろに代表される日本海の幸、佐渡岩もずくや酒粕クリームチーズなどの珍味が多彩に並びます。
2016年6月には、旬の食材をふんだんに用いた料理と「久保田」をともに味わう、Pen読者限定イベントが開催されました。当日は、日本酒を飲みなれていない人から日本酒ファンまで幅広い参加者が集い、温度の違いによる飲み比べや料理とのペアリングを実際に楽しんでいました。
日本料理店「久保田」では、東京のど真ん中で酒どころ新潟の奥深さを体感できるうえ、日本酒文化の新たな面白さを発見することができるのです。
店でも家でも、食事の時はいつもの「久保田」。
「久保田」の幅広いバリエーションは、家呑み派の人たちにとっても大きな魅力ではないでしょうか。特別な祝い事や、仲間との楽しい宴、そして毎日の食事のお供にも、それぞれのシーンにぴったりの一本が見つかるはずです。ここでは、そのラインアップの中からPenがお薦めする3種をご紹介します。
存在感のある旨味をもつ、「久保田」シリーズ最高峰の純米大吟醸。やわらかな口当たりと調和のとれた旨味が特徴的です。軽く冷やしておいしいのはもちろん、30〜35℃程度に温めると、さらに華やかに香りが開きます。希望小売価格(税抜)720㎖/¥3,640、1.8ℓ/¥8,110
味わいに深みがありつつも、のど越しは軽やかな山廃仕込の純米大吟醸。お薦めの飲み方は燗酒です。40〜45℃くらいのぬる燗にすると、この酒のもち味を最も感じることができるので、ぜひお試しを。希望小売価格(税抜)720㎖/¥2,230、1.8ℓ/¥5,030
口当たりが優しく、香りも穏やかな、食中酒として優れた吟醸酒。冷やしてもお燗にしても飲み飽きすることのない、すっきりした味わいです。揚げ物や煮物など、しっかりした味の料理とも好相性。希望小売価格(税抜)720㎖/¥1,080、1.8ℓ/¥2,430
いかがでしたでしょうか? いずれも口の中で香りが広がり、舌の上で味わいを楽しめる銘酒です。もし、まだ「久保田」を飲んだことがなければこれを機に、そして、すでに「久保田」を飲んだことがあるという人も、ぜひ改めてその奥深い魅力に触れてみてはいかがでしょうか。(吉田 桂)
久保田
住所: 東京都中央区銀座8-8-8 銀座スリーエイトビル3階
TEL:03-6264-6888
営業時間:11時30分~14時、17時~23時(月~金) 11時30分~22時(土) 11時30分~21時(日、祝)
無休(年末年始をのぞく)
www.asahi-shouzi.co.jp/shop/essyu/kubota
●問い合わせ先/朝日酒造 TEL:0258-92-3181
www.asahi-shuzo.co.jp